第11話 第二部:沖縄から神奈川へ
ようやく祖父母の容態が落ち着いて僕の手が必要なくなってきたことで、神奈川に帰るめどが立ってきたのが7月下旬であった。流石に8月には期末テストか数個の授業であるため、大学がある神奈川に戻らなくてはならないのも一つの要因である。
8月の2日、僕は試験のある当日に羽田空港に戻り、その足で直接大学に向かいテストを受けた。結果は散々であるのは承知の上であったが、実家に帰ると想像以上に疲れが襲ってきた。たった三時間弱のフライトではあったが、重いん荷物をそのまま大学に持って行き、帰って来たためか、テストのせいか、それとも祖父母の世話のせいかわからないが、帰ってすぐ眠りについた。
その次の日もテストだったが、あいにくの雨だった。神奈川も梅雨は明けているが、もちろん雨が降らない季節ではない。僕は一ヶ月近く動かしていないスーパーカブで行くのを諦めて、電車で大学に向かうことにした。
最寄り駅まで徒歩10分、電車で約30分である。バイクで行かないと、音楽を聴きながら行けるため、たまにはアリだなと思ってもいる。
すると駅には見慣れた顔があった。久しぶりに、一ヶ月ぶりにもえかに会った。
「久しぶりー」
「久しぶり、でもうち今日テストで電車来ちゃうから後でねー」
’あとでね’
この言葉は好きだ。次が約束されたような気がして。
かく言う僕も電車が来ている。残念なことにもえかと僕の電車は北と南にそれぞれ進む。もっと話したかった気持ちはあるが、先に電車が来て乗り込んでいくもえかを大きく手を振って見送った。
その夜、もえかに久しぶりに連絡を返した。神奈川に戻ることは伝えていたが、それから返事をしていなかったため、今日会った時は驚いたと返事が返ってきた。そして、お互いのテストが終わったらまた会う約束をした。
四日間でテストは全て終わった。結果なんてどうでも良い。ようやくの落ち着いた生活に胸が高鳴った。しかし不安なことはまだある。今日の夜、もえかと会う約束をしているのだ。テストが午前中に終わり、昼寝をして夕方いつもの道を歩いた。
「お邪魔します」
「久しぶり、そしていろいろお疲れ様」
そう言われるだけで肩の力が抜け、その場でへたり込みそうであった。久しぶりにここに戻った。
夜ご飯はもえかが全部作ってくれた。魚の汁物にお赤飯、漬物に生姜焼きといった豪華な和食であった。魚の汁物はなんて言う名前の魚か忘れたが、宮城の郷土料理らしく、お赤飯はわざわざ餅米で作っており、漬物もきゅうりにかぶ、にんじんといった種類も多かった。もえかは昨日にテストが終わっており夏休みだったらしく、暇だったからというが、自惚れているわけではなく、僕のために作ってくれたのだと思う。
「洗い物するね」
「いいよ、テストで疲れてるでしょ」
「いやいや流石に」
「いいの、沖縄から帰って来たばっかりで時差ボケとかあるでしょ」
「ないわ!三時間で着くよ」
「そうなの?いったことないからもっとかかると思ってた」
やっぱり頭が少し悪いのだ。通っている大学はあまり頭のいいところではない。(これでドイツなんていけるのか?)
(ドイツ、、、)
「そういえばさ、ドイツっているから行くの?」
結局、押し問答の末洗い物をしてくれているもえかの横で、手つきを見ながら聞いてみた。
「来週、8月12から行くんだ」
(来週か、、、しかも一年)
僕は驚きだった。まだ神奈川に戻ってきて5日しか経っていない。しかし来週にはもえかがドイツへといってしまう。
今日はとことん飲もうと思った。昼寝をしたから眠気などない。もえかには晩酌に付き合ってもらう。
その夜はずっと僕が話していたと思う。沖縄でのことについて。祖父母の家がどんな立派な家なのか。原付を借りてツーリングした時の海の景色。2回のベランダから海が見えること。そこには陽が沈む事。
今のうちにたくさん話したかった。寂しさを紛らわすためにたくさん話した。しかし大事な僕の気持ちは言葉にはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます