第10話 第二部:大学二年の夏の壁

梅雨の雨でも僕は相変わらず原付で大学に通っていた。いくら雨でも電車よりはマシだった。極度に駅から遠い大学であった。


そんな時に僕の父方の祖父母に不幸が起きた。先に祖父が脳梗塞で倒れ、その後に祖母が病院に向かう途中、自転車で転んで背骨を骨折した。幸いにも二人に命の別状はないが、ここからは日常生活は厳しいと言った具合だ。


僕は祖父母がいる沖縄に父親と向かった。もちろん父親も一緒にきたが仕事の都合上、2泊三日で神奈川に帰った。それに対して僕は専攻が情報系であったため、ある程度の授業はオンラインで参加できたため、ある程度の単位は取れるということで沖縄に一ヶ月ほど祖父母の病院を行き来しながら親戚の家で授業をこなしていた。


沖縄の6月はとっくに梅雨など明けていて晴れ続きであった。日中にはパソコンで課題をこなし、それが終わり次第祖父母の病院に向かうという生活を2週間程度繰り返していて、多忙で家族との連絡程度しかスマホを見ていなかった。


その後祖父母は退院したが、脳梗塞で聞き手の右手がうまく動かせない祖父と、背骨を骨折した祖母が何かできるわけではなく、それからは祖父母の家で家事などの手伝いをしながら生活していた。幸いなことに車の免許はとっくに取っていたため、車社会の沖縄でも困るようなことはなかった。さらに暑いとはいえ梅雨hが明けているし、海が綺麗で、周囲の人間はしっかりと制限速度を守るほど穏やかで、神奈川にいた頃とは時間の流れ方が全く違った。


しかし唯一の悩みは友達がいないことだ。祖父母は沖縄生まれ沖縄育ちであるが、僕は生まれも育ちも神奈川であった。唯一同年代と話すのは週一回程度いとこと話す時である。父の従兄弟である祖父の妹の娘が頻繁に手伝い来てくれる際に一緒に酒を飲むのが楽しみであった。


「サトちゃんは大変じゃないの?」

僕の名前は金木悟史、サトシからよくサトちゃんと呼ばれることもある。

「いやー大変だけど、俺しかいないからね」

「でもこっちに友達もいないし、大学もあるじゃん」

「大学はいろいろオンラインで今はできるからなんとかなってるし、友達は別にそんな多くないから」


少し悲しいことだが事実だが本当のことだった。


そんなある日珍しくお酒を飲みすぎて、もえかに電話をかけてみた。連絡の未読が三件あったが、忙しくて2週間程度返せていなかった。幸い、沖縄というものは祖父母の家は立派でプライバシーは確保してあった。


「もしもし」

「久しぶり、どうしたの?」


僕はここ最近立て続いていた災難についてあらかた話した。


「そうだったんだ、連絡返ってこないし、心配だった」

「ごめんね、忙しくてさ」

「沖縄は楽しい?」

「まあね、晴れてるし、海は綺麗だよ」

「いいなー、一回も行った頃ないから行ってみたい」

「今いるばあちゃんち、いっぱい部屋余ってるからきたら使い放題だよ」

「別にたまに一緒に寝てるんだから一緒の部屋でもいいよ?」

(たまにって一緒にベットで寝たのは一回限りだぞ)


しかし僕はこの言葉を聞いて嬉しかった。本当に電話をかけてよかった。しかし驚いたのはその直後であった。


「そういえばうち、留学行くこと決まったんだ」

(そんなこと一回も聞いてない)

(留学ってどこだ、海外か?)

「え、そんな話したっけ?」

「あれ、言ってないっけ?」

「うん」

「8月から1年間ドイツに行くんだ」

(1年間、、、ドイツ、、、)


僕の頭は真っ白になっていた。頭がいたい、気持ち悪い。そして今すぐ帰りたい。


「そうなのか、いいじゃん」

「うち、ドイツ語専攻なのもドイツが好きだからなんだ」

「そっか」


そこからは何を話したかも覚えていない。8月。それまでに僕は後何回もえかに会えるのだろうか。

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