第7話 クリスマス
24日まで結局もえかから連絡はない。他愛もない会話をしたくらいであった。その間僕はデートプランを立てていた。デートではないのかもしれないが、僕からするとデートそのものである。
その日は大学で授業があったのでお気に入りのスーパーカブで大学から帰っていた。そんな時サイレンが聞こえた。これは、パトカーだ。そして僕の近くまで音が近づき声をかけられた。
(今日はデートなんだ、どーせ年末の点数稼ぎだろ!)
「急にすみません、そこの交差点で標識見てましたか?」
(なるべく早く帰りたいし、災難に巻き込まれたくない、約束があんだよ!)
「僕が何かしましたか?」
「あそこ、一時停止でお兄さんがきちんと停止していなかったもので」
あまりにも急ぐ気持ちが、会いたい気持ちが運転に出てしまったというのか、一時不停止で捕まってしまった。
結局ものの、警察官もきちんと今日という日は人生でどの程度重要な日かわかっているのか、急いでいた理由を言うと素早く処理を進めてくれて5分ちょっとでもう一度家に向かいカブを走らせた。
(あの警察官優しかったな)
(クリスマスイブなのに仕事大変だな)
なんて思いながらゆっくりと帰ることにした。約束まではまだ時間は余裕にある。
約束は18時に横浜駅にとしか言っていない。今はまだ16時過ぎである。現地集合にしたのは同じ最寄りではあるが同じ電車に乗りそこまで一緒に行く間のドキドキに耐えられるか不安であったからである。
僕は17時30分には着く電車に乗っていた。横浜駅に着いた時にこれから電車乗ると言ったメッセージが送られてきた。
(ああ、ちゃんときてくれるのか)
それだけで僕の緊張は膨らんだ。その場に留まっていると心臓の音で周りの音が聞こえないくらいだったのでちょろちょろと横浜駅を歩いていた。そこを見ても男女のペアしかいない。この中に今日勝負を仕掛ける人は何人いるのだろうか。もう付き合っている組は何組なのか。そんなどうでもいいことを考えながら、紅茶店やお香屋など落ち着けそうなところを回っていた。
そんなことをしているうちにもえかは駅に着いたみたいだった。僕は急いで待ち合わせ場所に行くとそこにはいつもに増して綺麗なもえかが待っていた。ほんとにいつもとは違う、黒い膝上丈のタイトスカートに白のブラウス、その上から綺麗なエメラルドのカーディガンを羽織っていた。髪は綺麗に結い上げられていて綺麗なかんざしで止めている。足元は内側に白いファーがついたアイボリー色のブーツであった。こんな靴玄関で見たこともなかった。でもお願いは守ってくれた。
対する僕はジーンズにフーディー、その上から薄手のダウンジャケットを着たようなカジュアルな格好であった。とても後悔した。
(そりゃそうだよな、オシャレに気を遣えばよかった)
「ごめん、お待たせ」
「いや俺が待たせたじゃん」
「早く着いてたんでしょ?」
「まあ、緊張して何回もトイレ行ってた」
「何緊張することがあんのよ、いこ」
そこから僕らは歩き始めた。僕のお願いはヒールは履かないでほしいと言うことだった。もえかは比較的背が高く170近くあるだろう。対して僕は165程度だ。きっともえかがヒールなんて履いたらもっと美しくなるだろうが勘弁してほしいと僕は言ったらちゃんとヒールがある靴ではこなかった。
実は今日の目的地はもえかには言っていない。僕の予定ではとりあえずみなとみらいとしか決めていなかった。神奈川県民のデートスポットはそこと決まっている。みなとみらいまでは横浜駅から電車で一駅程度であるが歩いてもいけないことはない。25分程度である。僕は二人の時間を味わいたくて歩くことに決めていた。そのためにもヒールだとしんどいだろうと思っていた。もちろん言ってはいない。
僕は生まれてこの方21年間横浜で育っているから道なんてものはわかる。最初は裏道のようなタワーマンションの下を抜けていく。綺麗な観覧車を左に、海を右に見えてくるとそこはみなとみらいだ。
歩いている間は僕は会話を絶やさなかった。ここは夏になると花火が綺麗に見える隠しスポットであるとか、ここがパシフィコ横浜でここが日産の本社ビルであることなど、何も関係ない話をしていた。
「ところで今日はこのあと何するの?」
「なんも決めてない」
「それ困らない?お店とかは絶対に予約でいっぱいだよ」
(あ、それもそうだよなイブだもの)
そこでとりあえず赤レンガ倉庫に向かった。何かしらやっていると思った。
「観覧車綺麗だね」
「そりゃみなとみらいのシンボルだからね」
「観覧車なんて地元になかったから」
「そうなの?なんか俺はツーリングでよくこの辺走るから見慣れてるわ」
「いいな、今度連れてって」
(バイクの後ろに乗ってくれるのか?)
僕はいいよとだけ答えてそのまま観覧車の横を人ごみに紛れながら進んだ。決して付き合っているわけでもないし、今日は手を繋いでいるわけでもない。二人の間を何人もの人が通る。悔しかった。しかし絶対に遠くへは行かせないようにした。
幸い赤レンガ倉庫ではクリスマスマーケットというイベントが開催されていて何軒かの出店が出ていた。僕たちはここで軽い夕食とビールを楽しむことにした。
ドイツのソーセージやベルギーのビールなどが売っていて単純にそれを楽しんでいた。
大抵の店を回ってお腹も満たされてきた頃、奥の方に綺麗なツリーが見えた。きっと気がついたのは同時だっただろう。
「ねえ、あそこにでっかいツリーあるよ」
「ほんとだね、クリスマスって感じ」
僕は興奮を抑えて答えた。
「写真とろー」
「いいよ、とってあげる」
「何言ってんの?」
「あ、自分で取れるか」
「いやカネキも一緒に」
てっきり一人で撮るのか、ツリー単体を撮るのかと思っていた。嬉しくてならない。
みんな並んでいたため後ろのカップルにスマホを渡してツーショットを撮ってもらった。いままで女子とツーショットなんてまともに撮ったことがないからきっとブサイクに映っているだろう。
「これでクリスマス感じれたわーありがと」
「いや、俺もだよ、ありがと、ぼっち回避」
「ふふ、じゃあまた歩いて行こうか」
僕らは来た方角に歩いて行った。その間のコーヒーショップでホットコーヒを二つ買って飲みながら。僕はあえて少し遠回りをした。実はパシフィコ横浜と赤レンガ倉庫の間には海に向かって座れる場所があるのだ。
「コーヒー熱くて飲めないから一回ここで座ろう」
「うんいいいよ、海見えるし」
「うちは仙台って言ったけど、宮城のもっと山形寄りの田舎だから海なんて滅ったに見ないの」
「ちょっと見え張ってた?」
「まあ少しね、仙台まで車で一時間くらい」
「結構じゃん」
遠くにはなんの船かわからないが船がある。ベイブリッジも見える。こんな雰囲気であればなんでも綺麗なのだ。
「ケイ先輩のことあったからなんか精神的に最近助けられたわ、ありがと」
もえかがそんなこと言うものだから少し切なかった。
「寒くない?カーディガンだけじゃん」
「いや思ったより、中にたくさん着込んできたから」
実はいつでも上着を渡せるように僕は少し前から寒いのを我慢してダウンジャケットを手で持っていた。流石にと思い膝にダウンジャケットをかけてやった。
「カネキは寒くないの」
「お酒飲んだし暑いくらいだよ、俺も着込んできたし」
「ありがと」
そこからの帰り道はもえかがダウンジャケットを羽織って歩いて行った。少し遠回りをして人がなるべく少ない道を歩いた。
僕は、今度は僕から手を繋いだ。するともえかは繋いだ手を自分の、いやもえかがきている僕のダウンジャケットのポッケに入れた。それが横浜駅に着く少し前まで続いた。
帰りは一緒に電車に乗ってもえかの家まで一緒に帰った。
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