第6話 ミッション

東にはくっきりとした月が昇り始めていた。もえかの家までの道、左には冬の彼rはてた遊水池、西側にはオレンジの空と、遠くには新幹線が通り過ぎていく。緊張をほぐすように5分の道でも落ち着いた曲調のファイトソングを聴いていた。


なぜ緊張しているのか、いつも通りの道といつも通りのもえかの家なのに。


今日の晩御飯はスーーパーで買ったレトルトのカルボナーラ。パスタだけ茹でて混ぜるだけのものだ。昨日たくさん飲んだためにお腹はあまり減っていないが、スープの影響か、二日酔いなど全く忘れていた。


「お邪魔します」

「はいよー」

「パスタ茹でようか、確かストックあるよね?」

「うん、鍋入っている横の棚」


普通に食べて時間は夜の7時半、僕は密かに買ってきた赤ワインを開けた。


「ワインなんて買ってきたの?昨日も結構飲んだのに」

「ちょっとエモい雰囲気味わいたくて」

「じゃあキャンドル焚こうか」

(そんなの持ってんのか)


女子の一人暮らし、実家住まいの僕には一番遠い生活スタイルだから何もわからないが、キャンドルなんて一人暮らしの家にあるのだろうか。実家住まいの僕の家には非常用の蝋燭しかないというのに。いや女子は普通持っているものだろうか。


結局二人でワインとつまみに買ってきたジャーキーを食べながら映画を見ようとしていた。


「うち、見たいの決めてきた」

「いや、俺も決めてきたんだけど」

「どんなの?」

「幸せな家族の物語」

「んー脚下」

「なんでよ」

「失恋した女の子のやつ見たいから」

(悲しすぎるだろ)

「俺はなんか見たくないよ、悲しいじゃん」

「ここうちだから」

(確かに)


僕は仕方なくもえかが見たいといった映画を見ることにした。キャンドルを焚き、ワインを飲みながら隣にもえかが座っている。キャンドル、ワインは僕の副交感神経を刺激して落ち着かせてくれる。でも最後の状況は僕の交感神経を刺激しすぎている。心拍が早いのを感じる。交感神経の勝ちだ。


映画は大学生から社会人となって、環境の違いからフラれてしまった女の子が仕事に打ち込み見事成功を収めていくといった物語だったと思う。僕には何も刺さらなかったが、隣にはティッシュを片手にしているフラれたばっかりの女の子がいた。


見事に泣きじゃくったら時刻は22時となっていた。ワインも結局僕が何も考えず、いや何も考えないように飲んでいたらすっからかんになっていた。なんとも言えないような雰囲気が二人の間に流れる。ここしかない。僕はそう思った。


「もうすぐクリスマスだね」

「そっかー大学生始まってからというかこっちにきてから初めてだ」

「向こうじゃどう過ごしてたの?」

「基本は家族と過ごしてたかな、クリスマスは元々家族と過ごす日だよ?」

「アメリカとかじゃお店もスーパーもやってないらしいよねー」

「そうそう、でも今年はねー、年末年始は帰るけど予定早めて家族と過ごそうかな」

(頼む、やめてくれ)

「あ、でも大学が25日まであるから駄目だ」


大学は休みが多いように感じるがクリスマスだけは、冬休みは中学高校と変わらず2週間程度だ。そう思ったら僕も24日は授業があったはずだ。


「なんか一人で過ごすのも寂しいよね」

(なんでストレートに言えないのか)

「でもカネキは実家だし家族いるじゃん」

「でもなんか兄弟もみんな大きくなったし最近は夫婦で近くのお店とかいっちゃうし、兄も彼女いるし、妹はどっかにいくと思うよ」

「そうなんだ、じゃあうちらもどっかいく?」


もえかは冗談っぽく笑いながら言った。僕は情けない感情で押しつぶされそうになりながらも嬉しくてたまらなかった。


「今のところ俺も予定ないかなー、お互い空いてたらどっか行こうよ」

「いいね、どっちか予定が決まったら無しね」

(俺は絶対予定なんか入れるものか)

「もえかが予定作りそうで怖いわー」

「カネキこそ怪しいわ」


そんな曖昧にもクリスマスの予定は暫定ではあるが決まった。今日のミッションは達成?である。僕はどんないい誘いに誘われても、どんな災難に見舞われようともクリスマスの24日の予定は空けたままにしてやる。


その日は早めに、23時過ぎに帰路に着いた。今日は12月15日。頼む、頼むから予定なんて入れないでくれよ。そう思いながらも帰り道は余韻を感じたくていつもの0.5倍速で歩いて帰った。




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