第5話 不安定な心

新しい朝を迎えた。家は近いはずなのに朝を迎え、昼を迎えたころに僕は起きたのだと思う。スマホを探すが見つからない。どこかで見たかともえかに尋ねた。

すると

「そこの充電器につながってるよ」

(俺充電したっけ?)


いや絶対にしていない。長く飲んでいたせいでスマホの電池は切れていたはずだったからその辺にほっ放ったはずだったと覚えている。まさかとは思ったが昨日夜二人で話している時に調べようとしてスマホの充電がないと言ったからか?


「もしかして充電してくれたの?」

「うん、朝起きた時に思い出して」

(こんな気遣いできる子なんて尚更好きだ)

「ありがと」


「スープでも飲む?」

「え」

「朝起きて作ったんだけど、うちが軽い二日酔いだったから」

(はぁ、、、)


コンソメベースではなく鶏ガラベースのスープにキャベツ、春雨、ささみが入ったスープは、なぜだろうか、昨日少し抉られた心の傷と同じく二日酔いの体に沁みた。


今日は幸運にもお互いに何もない日だった。スープを飲んで僕は一度家に帰った。しかし約束付があったのである。


「昨日はいろんな話背くれてありがとね」

「いや、俺のほうこそごめん、酔っ払った勢いで電話かけて」

「いやほんと昨日はゴッドタイミングだったよ」

「ゴッドタイミング?」

「グッドタイミングの最上級」

いやベストタイミングだろ、と思いながら吹き出したら

「これ、うちの中じゃ普通なんだけどー」

「ごめんごめん」

「ところで今日は家帰って予定ないの?」

「うん、今日は家族みんな仕事とかでいないから一人で映画でも見ようかな」

「何みんの?」

「決めてないけど泣ける映画かな」

(ちょっと心にきてるから笑)


もえかは1Kのキッチンでの洗い物を終えてこっちにきて僕の目の前に座った。


「うちも一緒にみたい」


僕の心は踊り始めた。もちろんそんなコロコロと男を誘うような女性は苦手である。しかしもえかがそんな女性ではないことはもう知っていた。さらに今回は確実にケイ先輩のことでもえかにも心に傷があるのだ。


「わかったよ、一回家帰って風呂入ったらスーパー寄ってお菓子とか買ってまたくるよ」

「え、いいの?ありがと、じゃあチョコレート、甘くないやつ」

「オーケー」

「じゃまた後で来てね」


僕は’またね’とか’また後で’とか言った次がある言葉が好きだ。'see you'ではなくその後に'later'が欲しい。自分に自信がないためにそんな言葉が嬉しいのだ。


一度もえかの家をでた時間は午後の2時、次にまた行くのが17時30分の約束だ。僕がよく約束を17時30分に設定するのはなんだかこの時間が好きだからである。12月のこの時間、真上の空は紺碧、しかしまだ西の空はオレンジ色だ。じゃあその紺碧とオレンジといった反対の色を繋ぐの色は何色なのか。緑とも言えるし黄色でもある。そんな曖昧な空が一番好きなのである。


僕は考え事をしながら湯船に浸かった。なんの映画を見ようか、夜ご飯は一緒に何を作ろうか、今日はお酒ではなくおすすめの紅茶でも持って行こうか。


風呂を出て少し時間が余ったのでベランダに出てタバコを吸いながら西の空を見た。好きな時間までもう少し。

映画は血の繋がりがない家族が素晴らしい家庭を築く映画にしよう。

今日のご飯は適当にスーパーで買ったものにしよう。

紅茶は僕の好きなレモンマンダリンのものにしよう。

まずはご飯を軽く食べて紅茶とお菓子を食べながら部屋を暗くして映画をよる見よう。


ある程度のことは決まった。そしてその日のこととは関係ない、しかしとても大事なことを僕は決心した。不安で仕方なかった。

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