第18話 腹立つわ〜

 私は2週間ぶりにブリーデン公爵家に戻ってきた。


 ランス様に会えるかな、会ったらお詫びしなくてはと思っていたのだが、今日は王宮らしい。


 すれ違いだわ。


 今夜は疲れているからぐっすり眠りたい。でも、ランス様とはもうずいぶんお会いしていないから、娼館に行ってなければ閨事がしたいだろうなぁ。帰ってくる前に鍵をかけて寝ちゃおかな……と思っていたら月の障りがきてしまった。


 嫁いでから初めての月の障り。


 あんなに毎日頑張ったのに孕んでなかったのね。月の障りが来ないからできてるかな? と思っていたのだけれど、ただ環境が変わったりしたので周期が乱れていただけか。ランス様は残念がるかしら。


 私は月の障りはそんなに重くないのでそれほど痛くはない。ただちょっと貧血気味になる。

 いつも大体5日くらいで終わるとランス様には夕食後にお伝えしよう。



 ランス様が王宮から戻ってきた。


「お帰りなさいませ。長い間、家を空け申し訳ございませんでした。また面会にも何度も来ていただいたのに、忙しくて会えずにすみませんでした」


 いつもみたいに『うん』と返事が返ってきた。数ヶ月会わなかったがやっぱり『うん』だった。


 夕食後、月の障りが来ていると伝えた。月の障りの最中はできないとはっきり言わなかったが、わかるだろう。


 さすがに今日はドロシーもしっかりした夜着を出してくれた。お腹の上までくる長ズボン。色気もクソもない。


 すっかり油断した私は自室で本を読んでいた。


トントン


 ん? ランス様かな?


 月の障りって言ったのに。「はい」と扉を開けるともちろんそこにいるのはランス様だった。


「寝るぞ」


 いつものように私を抱き上げてベットに運ぶ。


 いやぁ、無理無理。さすがに月の障り中は勘弁して欲しい。


 いつもならすぐに覆いかぶさってくるのだが、そんな様子はない。


 灯りを消して、ベットに入ってきた。


 そして後ろから私を抱き込んで、耳元で『おやすみ』と言った。

 左手で腕枕して、右手は私のお腹に当てている。

 腕枕は痺れないか心配だけど、なんだかちょっとうれしい。お腹に当てた手は温かくて、子宮が癒されているような感じがする。


 結婚直後の2週間はこの人のせいで子宮忙しかったもんなぁ。本当によく頑張ったよ。


 背中にはランス様がピッタリくっついているので体温を感じて温かい。


 ひょっとして、閨事が終わってから、いつもこんなふうに寝てたのかな?


 終わったら自室に戻ってるのかと思っていたけど違うかったのかな?


 私は意識不明だったので何も覚えていない。


 大抵目が覚めたらもう日が高くなっていたもの。


 寝息が聞こえてきた。


 めちゃくちゃ寝つきいいんだなぁ。騎士の仕事で疲れたのかな?


 こんなに近くで顔を見たことがない。


 まつ毛長いな。鼻も高い。よくみるとイケメンだな。髪もサラサラだ。


 でも、正直驚いた。閨事ができないと言ったら、きっと自室で寝るだろうと思っていたら。私も自室でひとりで寝るつもりだった。

 それなのに、閨事しなくても一緒に寝るんだ。私の事嫌いじゃないのかな? お腹や腰の事も気にしてくれてるみたいだし、思ったより嫌われてないのかもしれない。私はそんな事を思いながらランス様の顔を眺めていた。


「……チェ……」


ん? 寝言か? 夢に誰が出ているのかしら?


「愛してる……」


 はぁ? 今『愛してる』って言った?

空耳? 幻聴? 私、寝ぼけているのかしら?


「好きだ……テオなんかに渡さない……」


 テオ? テオ様? 


 いったい誰の夢を見てるのよ?


 私じゃないわね。テオ様って何? 今度はマデレイネお姉様じゃなく、テオ様の好きな人が好きなの? 


 私はちょっと腹が立ってランス様の鼻を摘んでやった。


 寝言の方が起きている時より言葉数が多いのにも腹が立った。


 さぁ、私も寝よう。明日は久しぶりにブリーデン公爵家の朝ごはん食べるぞ!!

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