第19話 それどころではない (ランスロット視点)
チュンチュン
鳥の声が聞こえる。眩しいな。
そろそろ起きて鍛錬でもするか。
そっか、昨夜はべべがやっと戻ってきたんだ。月の障りがきてるからって何もなくて早く寝たんだな。
あっ、べべは?
私は身体を起こした。隣で寝ているはずのべべたの姿が見当たらない。
シーツにはもう彼女の体温は残ってなかった。
まさか、寝ている間に逃げたのだろうか? また王宮か?
早く連れ戻さないと。
私は慌ててベッドから降り、簡単に身支度をして、べべを探した。
扉を開き隣のべべの自室を覗く。
「べべ……」
そこには姿はない。
浴室やトイレにもいない。
1階に降りたのだろうか?
「べべ! べべ!」
私は名前を呼びながらべべを探した。
「ランス、おはよう。血相変えてどうしたんだ?」
新聞を読んでいた父が話しかけてきた。
「おはようございます父上、べべがいないのです」
「べべちゃんなら、ソフィアと中庭を散歩してるぞ。朝食の用意ができたから呼んでこい」
よかった逃げられたわけじゃなかったんだ。私はホッとした。
「逃げげられたと思ったのか?」
父は笑っている。
「いい加減にしないと本当に逃げられるぞ。もしくはテオドール殿下に取られるぞ。お前の気持ちは全くべべちゃんに伝わっていないからな。いくら好きすぎて言葉が出なくても、言葉で伝えないとべべちゃんはお前に嫌われてると思ってるんだぞ」
父はため息をつく。
「嫌われてる?」
「そうだ。何度もそう言っただろう。聞いてなかったのか? べべちゃんはお前が話をしてくれない。目を合わせてくれない。そんなに嫌いなら結婚しなきゃよかったのにって言っていたぞ」
そんな。嫌われてると思っていたなんて。
「お前はべべちゃんを傷つけてる。ずっとこのままだったらべべちゃんが可哀想だ。テオドール殿下に譲るか?」
「嫌です」
「前にも言ったが、話すのが難しいなら手紙でも書いてみたらどうだ。とにかく早く行動しないと手遅れになるぞ」
この間、姉上にも言われた。
べべが私に嫌われていると思っていると。
私もなんとかしないといけないと思っていた。
「閨事の事もちょっとがっつきすぎだ。べべちゃんは早く跡継ぎを作って捨てるつもりなのか? それとも無料の娼婦か? と思ってるようだ。オリヴィアがから聞いたと言ってとソフィアは青ざめていた。本当に娼婦の代わりにしているのなら親子の縁を切ると怒っていたぞ。まぁ、そんな事は絶対ないと言っておいたがな」
父は苦々しい顔をしている。
閨事の時は毎日、自分の思いを込めてベべを抱いた。娼婦の代わりなんてとんでもない。そもそも娼館なんて行ったこともない。私はべべだけだ。どれだけべべを愛しているかわかってもらえるように抱いたつもりだった。
でもそれは私の独りよがりな自己満足だったのかもしれない。
べべを傷つけていたなんて。
頑張ろう。頑張ってちゃんとべべに向き合おう。
まずは手紙を書こう。なぜ話せないのかを。
このままじゃダメだ。私はべべを失ったら生きていけない。
「父上、手紙を書いてきます」
「朝食は?」
「それどころではありません」
私は自室に戻り手紙を書く事にした。
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