境界ステラ

荒屋 猫音

第1話

境界ステラ


男女サシ劇

※後半で母親が出てきます。

星海と兼役推奨

(性別変更可能)


星夜(せいや) ♂︎

星海(ほしみ) ♀︎


Mは星夜のセリフとして読んでください

名前の表記は星夜を夜 星海を海 とします。


星海を男性が演じる場合は語尾や一人称を変更して演じてください。


____



M

僕の住む街は星がよく見える。

日本一星空が綺麗に見える街を目指して

夜間消灯運動が行われるほどに、

人々はこの夜空を大切にしている。


深夜、僕は静かに家を抜け出して

散歩がてらに、この綺麗な星空を目に焼きつける。



夜「今夜は月まで綺麗に見えるな…」


夜「…?人?」


M

夏の暑さが徐々に和らぎ、夜の散歩にはちょうど良いぐらいの涼しさがやってきた9月。


僕は散歩中、1人の女の子と出会った。



海「(鼻歌)」


海「…はぁ」


M

こんな時間に女の子…?誰だろう、この辺では見た事ない…


海「…女の子をジロジロ見るなんて、ちょっと失礼じゃないですか?」


海「それとも、ナンパする勇気がなくて怖気付いちゃってるんですか?」


夜「なっ…!」


海「ふふっ、ごめんなさい。私に気付いてくれたのが嬉しくて、ちょっと意地悪しちゃいました」


M

見知らぬ女の子は初対面の僕に対して屈託なく笑いながらそう言った。


少し気になる言い方をしたけれど、今はそんな事よりもこんな時間に女の子が1人の出歩いては危ない。と言う気持ちの方が大きかった…


海「良かった、ちゃんと見えるんだ…」


夜「…どう言う意味…ですか」


海「ん?どーゆー意味だろうね?」


夜「…こんな時間に1人は、危ないですよ…」


海「そう言う君も、こんな時間に出歩いて…まさか不良?」


夜「不良じゃない。ただの散歩です…」


海「なんか話しづらそうに喋るねぇ。敬語使わなくていいのに」


海「こんなどこの誰とも分からない女の子に、敬語なんて使うだけ無駄だよ?」


夜「初対面の人にいきなりタメ口聞くほど失礼な育ち方はしていないので。」


海「ふぅん、真面目なんだね」


夜「…」


海「ねぇ、名前教えてよ!」


夜「…せいや」


海「せいやくんかぁ、私は星海!星の海って書いて星海だよ!」


夜「…星降る夜で星夜。」


海「なんだか似てるね、名前」


夜「…そーですね。」


海「えぇ、なんか冷たい。」


夜「あんたがフランクすぎるだけだろ…」


海「お、毒も吐けるんだ。ちょっと意外」


海「とりあえずそこの公園で話そうよ、どうせこのままフラフラ散歩するだけでしょ?」


夜「…まぁ、そうだけど。」


海「はい決まり!」


M

星海と名乗る女の子は僕の手を引いてすぐ近くの公園に向かう。

その手がやけに冷たかったのは、気にしないことにした…



_公園_


_星海の顔をほとんど見ることなく星夜は受け答えをする_


海「で、星夜くんは毎晩夜に散歩してるの?」


夜「毎晩ってわけじゃないけど…まぁ、週に2.3回ぐらい。」


海「それ、ほとんど毎晩と変わらないじゃん」


夜「今の時期だけだよ。夜が涼しくなってきたから歩きやすい」


海「まぁ、確かにそうだね。」


海「私も外に出れるようになったのは最近なんだぁ」


夜「…?入院でもしてたのか?」


海「んー…まぁ、そんなとこ?」


夜「学校は?」


海「行ったことないんだよねぇ」


夜「…?」


海「…私の事はいいじゃん!星夜君のこと、聞かせてよ!」


夜「俺にだけ話させて、自分のことは何も教えないのか?」


海「星夜君がどれだけ心を開いてくれるかによって私の話す幅が増える」


夜「…」


海「好きな食べ物は?」


夜「肉料理」


海「好きな事は?」


夜「…寝ることと、今は夜の散歩」


海「好きな女子は?」


夜「いない」


海「えぇ!?1人くらいいるでしょ!?」


夜「なんでそこだけ食い気味なんだよ!」


海「年頃の男子だよ?好きな女子の1人くらいいるでしょ!?」


夜「いないって」


海「なぁんだ」


海「あー…1番思い出に残ってることは?」


夜「…思い出?」


海「そう。思い出」


夜「…特にないな……」


海「寂しい人生なんだね…」


夜「やかましい」


海「じゃあ、私とこうして散歩して、お喋りするのは、思い出にカウントされるかな?」


夜「嫌でも記憶に残るよ…誰もいないと思って外出たのに…」


海「やったね!じゃあ、忘れないでね」


夜「……?」


海「……さてさて、なんだか随分話しちゃったみたいだね!そろそろ帰ろう?」


夜「え、まだお前のこと何も聞いてな…」


海「(被せて)今日はもうおしまい!どうせまた夜のお散歩するんでしょ?」


夜「まぁ、晴れてれば…」


海「ね、だから今日はおしまい!」


海「そうだなぁ…明後日の夜、晴れたらこの公園に来てよ。」


夜「そもそも雨の日に散歩する気は無い…」


海「君は素直にはいって言えないの?」


夜「捻くれ者なもんで」


海「…まぁいいや。明後日だからね!」


夜「…分かったよ…時間は……いない…?」


M

そこに今まで話しをしていた星海の姿はなかった…

下を向いて受け答えをしていたせいで、

星海の姿がいつ居なくなったのかがわからない…

声はハッキリと聞こえていたのに、立ち去った音は聞こえなかった…


夜「…なんなんだ、アイツ…」


夜「…帰るか……」


M

僕はそのまま燦然(さんぜん)と輝く星空を仰ぎ

狐に摘まれた気分になりつつも家路に向かう…



_星夜が帰った後、物陰から星海が顔を出し小さく呟く_



海「…」


海「大きくなってくれて、よかった…」


海「時間はあんまりないけど、触れたし、話もできた…」


海「次は何を話そうかな…」


_家路に向かう星夜を、星海が影から見送る。嬉しそうな、悲しそうな顔をしながら_



_明後日、夜_



夜「…ほんとにいたよ」


海「来てくれたねぇ!また会えて嬉しいよ!」


夜「まぁ、晴れたからな」


海「私のお祈りが効いたのかな?」


夜「祈るほどか?」


海「祈るほどだよ」


M

星海はブランコに揺れながら僕を待っていた…

顔を見るなり、それはそれは嬉しそうにするその姿は

まるで犬のようだった…


海「今日は何を聞こうかなぁ」


夜「決めてきたんじゃないのか?」


海「聞きたいことが沢山あって、決めれないんだよ」


(できるだけゆっくりやり取りしてください)


夜「…12月25日生まれ」


海「?」


夜「得意教科は国語」


海「…犬と猫、どっちが好き?」


夜「とっちも」


海「つい無駄遣いしちゃった出来事は?」


夜「…ゲームで課金」


海「非科学的なものを信じれる?」


夜「…?幽霊とか、そーゆーの?」


海「幽霊とか、未確認生物とか」


夜「信じると言うより、いたら面白いなとは思う」


海「じゃあ、神様は?」


夜「いたら面白い」


海「…君は面白いね」


_



海「さて、今日はこの辺にしておこうか」


夜「…この間も」


海「次はいつ会おっか?」


海「なぁ」


海「できるだけ日にちが開かない方がいいな!明日は?」


夜「星海!」


海「…」


夜「この前もこれぐらいの時間に帰ったよな。」


海「うん」


夜「でも、いなくなる時、音がしなかった。なんでだ」


海「気のせいだよ?ビックリさせようと思って、音もなく帰ってみた!」


夜「姿がなかった…後を追うにしても、公園を出てすぐにお前の姿はなかった…」


海「そりゃあ、隠れてたからね」


夜「なんのために」


海「…ないしょ」


(少しの沈黙)


夜「……」


海「……」


夜「帰る……」


海「…うん」


海「わたしも、そろそろ限界」


夜「…?どう言うい……」


M

どう言う意味だ?

聞くより早く、星海は姿を消していた…


去る時は音もなく、けれども声だけを残して…



_



海「(もう少しお話していたかったんだけどなぁ…神様は意地悪だ…)」


海「(次は、いつ会えるかな…)」


海「(でも、もう、あんまり時間が無いや…)」



_数日後_(モノローグと独り言がしばらく続きます)



M

前回の散歩から数日、

僕は散歩を何となく控えていた…


あの公園に行けば、もしかしたら星海に会えるかもしれない。


けれど、会うことが何となく怖かった…


情けないと思いつつ、その足が外に向かうことは無かった…



__



海「(…来ないなぁ)」


海「(…やっぱり、怖がらせちゃったのかな…)」


海「(時間が無いからって、ちょっと急ぎすぎちゃった…)」


海「(…あと1回しか時間が残ってないなんて…もっと考えながら会えばよかったな…)」


海「(でも、良かった…次が、最後だから…)」

__



M

夜の散歩が途絶えて数ヶ月が過ぎ

季節は冬を迎えていた。

恋人たちが色めき立つ季節、街は鮮やかに彩られ

所々でイルミネーションが光り輝いていた。


その光は、夜の星空に負けないほど煌めいて

それでも夜空の星を決して邪魔することは無かった。


夜「はぁ……寒い」


夜「あれから散歩もしなくなったけど、星海、どうしてるかな…」


夜「…」


M

会いたい

と言葉にすることはなかった。

けれど、出来ることなら謝りたい。

逃げ出してしまったことを…

外に出る勇気がない事を…


___


海「(街は綺麗だなぁ…」


海「(この光も、星空も、星夜君と見たかったな…)」


海「あぁ…でも、そうしたら終わっちゃうのか…」


海「それは、寂しいな…」


__


_お互いに会うことを望んでいるにも関わらず、

しかし会うことは叶わず、時間だけが過ぎていった…_


___


_12月24日_


夜「…何それ」


母「明日が誕生日だし、もう理解もできる歳だし…」


夜「…だからって、そんなこと急に言われたって…」


母「ごめんね…隠していた訳じゃないの…ただ、本当は双子で、姉になるはずだった子は死産で産まれてしまって…」


母「お母さんも、気持ちの整理が着くまで暫く時間がかかってしまって…」


夜「…姉になるはずだった子供って、名前付けてたの…?」


母「…ほしみ。」


夜「…!?」


夜「なんて書くの…」


母「星の海で星海」


母「それがどうしたの…?」


母「星夜…?」


夜「……ちょっと出かけてくる」


母「え、こんな時間に?」


夜「星海に、会ってくる…」


母「…え…?あ…星夜!!」


母「星海に、会う…?」


M

行ってきますも言わずに家を飛び出した。

きっとあの公園にいる…

そう信じて僕は冬の夜を駆けた



___公園___



海「…」


海「明日は誕生日かぁ、おめでとう言えなくて残念…」


海「神様の魔法、使い切る前にタイムリミットになっちゃうなぁ…」


_星夜が走ってくる_


夜「…はぁっ…はぁ……いた!」


夜「星海!」


海「…!?星夜君?」


夜「いた…良かった…」


海「…どうしたの、そんなに慌てて…それにこんなに寒いのに上着も着ないで…」


夜「…母さんから聞いた…」


海「…!」


夜「…死産した双子の姉がいるって…」


夜「…名前は…星海」


海「…」


夜「お前は、僕の…」


海「(遮って)神様がね!12月24日を期限に、5回まで星夜に会える魔法を掛けてくれたんだ!」


夜「…神様…?」


海「そう、神様!」


海「輪廻転生する前に叶えたい願いはあるか?って聞かれたから弟に会いたいってお願いしたの」


海「そしたら、この魔法を掛けてくれたんだ」


夜「待てよ……5回までなら…あと2回あったはずじゃ...」


海「…嬉しくて、こっそり散歩してる星夜を追っかけて、2回分無駄にしちゃった」


夜「…」


海「気づいてたよね?私に、足音がないこと…」


海「足音がしないのをいいことに、家を出たあとの星夜を追い掛けてずっと見てた…」


夜「なんで…」


海「でもね、ただ見てるだけじゃ足りなくなっちゃった…だから試したの。私に気づくかどうか」


海「そしたら…気づいてくれた。」


海「触れるし話しができる…それが嬉しくて…ただ、神様は意地悪で、1時間しか会う時間をくれなかった…」


海「私に与えられた5時間は、あっという間だった…」


夜「…今日が、最後…なのか…?」


海「うん、これで終わり」


海「でも楽しかった!星夜のことが知れて、嬉しかった…!」


夜「…ごめん…」


海「なんで謝るの?」


夜「知らなかったから…」


海「それは仕方ないよ、ママだって私の事で随分落ち込んでたし、言えるような精神状態じゃなかったし…」


海「でも、ちゃんと伝えてくれたんだね…」


海「私がいた事」


夜「…僕、何も知らなくて…」


海「いいんだよぉ。最後にちゃんと会えた」


海「会えずに消えちゃわずに済んで良かった…!」


海「だから、いいんだよ」


夜「…もう会えないのか…?」


海「…そんな事ない。私は星夜の心にちゃんといる。残ることが出来る」


海「それにね…」


夜「…?」


海「私の名前は、星海だよ?」


海「この地上のどこに居なくても、空を見れば私が居る!」


海「地上の境界の先には、星の海があるんだよ!」


海「…だから、そんな顔しないでよ…?」


夜「でも、せっかく会えたのに…」


海「神様の魔法に逆らうと、輪廻転生出来なくなるんだって…」


海「そしたら生まれ変わりができなくなって、誰にも会えなくなるんだって…」


海「だから生まれ変わって、また星夜やママに会えるかもしれないなら、私は魔法に逆らわない…」


夜「……なら…」


夜「…夜空の星がお前なら、毎晩空を見上げるよ…どんな天気でも…」


夜「1日の事を話すよ…」


海「うん…」


夜「忘れない…会えたことも、話した事も、手を引かれた事も…全部、忘れない…」


海「…うん」


海「……あぁ、もう時間だ…本当にお別れの時間…」


海「ねぇ、最後にお願いしていい?」


夜「なんでも…」


海「【お姉ちゃん】って呼んでよ」


夜「…お姉ちゃん…」


海「…ありがとう、星夜……誕生日おめでとう!!」


夜「お姉ちゃん!!」


海「バイバイ…」



M

そうして星海は消えてしまった。

音もなく、声だけを残して…

僕が産まれた事を祝いながら…


夜「…誕生日おめでとうは、お姉ちゃんもだろ…」


M

生きることが出来なかった命…

けれど確かにこの日、星海は産まれて来たんだ…



____



M

翌日から、僕は宣言通り夜空の星に語りかける。

星海は言った。

地上の境界の先には自分がいると…


だから、どんなに些細な事でも、

その日の事を星に向かって呟いた


もし本当に神様がいて、

輪廻転生なんて事が起こって

星海が生まれ変わったとして、

また人間になったなら、僕は星海を探せるだろうか…


生まれ変わった星海は、僕に気づくだろうか…


そんなことを思いながら、

僕は星を見る。



海「(この地上の先には、私が居るんだよ…!)」




______。

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