第62話 1年ぶりの雄大と柚子香。
大久保さんは言うだけ言うと出かけてしまった。
残された俺達は自分達の話なのに状況がイマイチわからずにいた。
だがここに柚子香がいる。
俺は柚子香を見て「柚子香?」と声をかけると、柚子香は「雄大!!」と言って俺に抱きついてわんわん泣く。俺も壊れたように柚子香の名前を呼び続けて抱きしめてから、「まだパスタしか教えて貰ってないけど食べるか?」と言って、柚子香をカウンター席に座らせると、俺は柚子香の為に柚子香の好きなトマト味のパスタを作って出す。
柚子香はゆっくりと食べて「美味しい」と言い、泣きながら「雄大の一年の味がする」と言った。
俺も柚子香の横で同じ物を食べるとそれだけで泣いてしまう。
その後で2人で銭湯に行くと、「大久保先生からお金は貰ってるから、のんびり入りな」と行ってもらい、2人で風呂に入り店の2階に戻り、「煎餅布団で悪い。とりあえず寝よう。初めて休みになったから寝たい」と言うと、柚子香も「私も眠い。睡眠薬も効かなくて苦しかったけど、雄大が居てくれたら眠れるわ」と言って2人で泥のように眠った。
翌日、起きたら嫌がらせはおきていなかった。
アイツらマメだから欠かさないのにと思っていると、床屋と併設されている美容室のお姉さんが店に来る。
「ごめんなさい。今日は臨時休業…」と言うが、お姉さんは「知ってるわよ。大久保先生に頼まれたの。彼女さんの身だしなみを整えるのよ」と言って柚子香を連れて行ってしまい、俺が後を追いかけると「君はこっち」と薬局の旦那さんに連れて行かれて体温計や胃薬に栄養剤みたいな薬と一緒に避妊具を渡された。
突然の避妊具に俺が「えぇ!?」と言うと、薬局の旦那さんは「…君たちしてないの?してるよね?避妊はしなさい」と言ってきた。
俺が素直に「…はい」と答えると「足りる?」と聞かれた。
俺は「きっと足りません」と言うと、「まあ良いけど、彼女はボロボロだから程々にね」と言いながら、旦那さんはもうひと箱用意してくれた。
俺は袋を持たされて美容室に戻ると、「まだダメ」と追い返されて、「美味しいご飯を作って待ってなさい!」と言われた俺は、店に戻ってパスタとサラダとデザートを用意していると、柚子香が「雄大」と言って店を開けた。
そこにはワンピース姿に肩で髪を切り揃えられた柚子香が居た。
「髪…切ったのか?」
「うん。ボロボロだし栄養を持って行かれるから、今は切ろうって言って貰ったの。どうかな?」
「似合ってる。可愛いよ柚子香」
「ありがとう雄大」
柚子香を席に座らせて食事を出すと柚子香は美味しいと言って食べてくれる。
昨日のフラフラはなくなっていて、少食は嘘じゃないかというくらい食べてから「雄大はこのメニューのパスタを全部作れるの?」と聞いてきたので、「あー、オーブン使う奴はまだダメ」と答えると、「次はね。このブロッコリーとバジルのパスタが食べたい!」と言われた。
「夕飯?」
「今」
「残すだろ?」
「雄大が食べてくれるわよね?」
成程、それで胃薬か…。
「いくらでも作ってやるよ。薬局の旦那さんはマジすごいわ」
「え?」
俺は「柚子香の為に胃薬を持たせてくれたよ」と言って紙袋を見せると柚子香は中を見て「わぁ」と言った後で手が止まって真っ赤になる。
あ…避妊具か。
避妊具と柚子香を見ると俺も抑えがきかなくなっていく。
「パスタもいいけど…ダメかな?」
「ううん。前と違ってボロボロだけどいい?」
俺は首を横に振って「柚子香は柚子香だ」と言って2階に連れていく。
柚子香の肌はボロボロで、胸もアバラが浮き出ていてガリガリで細かった。
前以上に壊れそうな柚子香を大事に触れると、避妊具はいらないかもと言われたが一応使う。
「夏頃から生理も止まってしまっていたの…。だから付けなくても平気」
「でも子供ができた時に、内春を名乗らせられないと困るからさ」
そう言ってからは言葉もなくただ名前を呼びながらゆっくりとセックスをした。
柚子香はお腹もいっぱいで、俺とセックスをした事で安心したのか眠りにつく。
その間に皿を洗って夕飯の支度と、まだ作らせて貰っていない料理の練習をしていると、突然「いやぁぁぁ!」と聞こえてきて、柚子香が俺の名を呼びながら下着姿で降りてきた。
俺は柚子香を抱きしめて「柚子香?どうした?虫か?食べ物屋さんだからそこは我慢してくれ」と言うと、柚子香は「違う。夢かと思った。起きたら雄大が居なくて怖くて」と言って震えている。
俺は柚子香を抱きしめたまま「夢を見たのか?大丈夫、俺はいるよ。夕飯の仕込みをしていたんだ。とりあえずポテトフライ作るから食べてのんびりしよう」と言い、下着姿でいるのはよろしくないので「あ、服着てきてくれよ」と続けると、柚子香は「…下に持ってきて服を着てもいい?」と聞いてきた。
…カーテンはあるがそれはなぁ…。
「わかった。上に行くから着てくれ」
俺も上に行くと柚子香は服を着ながらも俺から目を逸らさない。
「まったく。仕込みが終わったらまたするか?」
「え?」
「ほら、誉婆ちゃんが言ってただろ?寂しさを埋めろってさ。2人でただ居るより早く埋まりそうだろ?」
柚子香は嬉しそうに頷いて「うん。抱いて」と言った。
その晩、俺はやっちまったと思った。
美容室のお姉さんが柚子香を迎えにきて風呂に誘い、俺は併設された床屋のお兄さんに風呂屋に誘われる。
風呂屋のおばちゃんは「若いっていいね!ガンガン愛してやんな!」と話しかけてきて、首を傾げると床屋のお兄さんに「お前、ここは田舎だ。皆見てるし皆聞いてる。そしてItalian windの壁は安普請だからな」と言われる。
そこで初めて柚子香を抱いた時の声が漏れていた事に気付いた。
そうだ。柚子香の家は防音仕様だがここは音が漏れる。
赤くなって青くなる俺に、「まあ多少の事情は大久保先生から聞いているし、悲鳴も聞こえたって言うから、彼女を慰めたんだろうけど、声を抑えるか程々にな。因みに布団を被ると声はそんなに漏れない。窓からなるべく離れる。これがポイントだ」と教えて貰った。
柚子香も独りで風呂屋に行って、あれこれ聞かれる前に美容室のお姉さんが庇う形で誘ってくれて、わざとあれこれ聞き出して、この一年がとにかく寂しくて仕方なかった事、いなくなられたら怖くて仕方ないという言葉を聞いた常連客のおばちゃん達は、「大丈夫だよ!皆で守ってやるから、ガンガン愛してもらいな!」と言ってくれていたらしい。
柚子香は嬉しさで泣きながら帰って来て、美容室のお姉さんが「ほら、慰める。夕食を食べさせてあげる」と言って俺に柚子香を渡すと、「またね~」と帰って行った。
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