第59話 雄大が味わう地獄。

俺は世の中を舐めていた。

絶望に何度叩き落とされたのか、考えたくないが、大きいのは10回。

勝田台重夫の送り込んでくるグレーな奴らは本当に容赦がない。


まず初めに、紹介してもらった幸せ運送を頼らせてもらった。社員さんの兄、山田さんは快く迎えてくれて、初日には身の回りの品を買ってくれて1ヶ月間運送業をさせて貰った。

俺の事を社員さんから聞いていたからか、「本当に働き者で助かるよ」と言ってくれて、事務所に仮住まいさせてくれて食事は奥さんが多めに作ってくれて食費は浮く。


「一円でも多く貯めるんだ。口座が作れないなら、まずは弁護士費用を貯めて保険証やマイナンバーを公的に取り戻して口座を作るんだ」


その言葉に感謝をして毎日働き、公休日も事務所の掃除や車の清掃をする。

何かをしていないとどうにかなりそうで怖かった。


山田さんは俺を気に入ってくれて、1ヶ月する頃には「このまま頑張って金貯めちゃってさ、支店を作るからそっちの社長してさ、2人でやっていこうよ。これで自立できればすぐだよ!彼女を待たせちゃダメだよ」と言ってくれて、高くないが身寄りのない人間に払うには多い額をくれて俺は本当に感謝をした。


だが甘かった。


2ヶ月目に入った時、幸せ運送への嫌がらせが始まった。

最初の1週間は事務所の前にゴミを散らかされて、停車中に引っ掻き傷をつけられた時、山田さんの自宅に俺を抱えるなら事態は悪化するという電話がかかってきた。

奥さんは山田さんに話すから電話番号をくれと言っていた。


これにより俺は幸せ運送に居られなくなった。


俺は呼ばれた時に奥さんが泣いていて、山田さんが辛そうにしていて何かあった事を理解した。


「ありがとうございました。何かあったんですよね。ゴミに車の傷がありましたもんね。俺、出て行きます」


山田さんは「済まない」と頭を下げてくれた後で、「相手には急に辞められると困るから1週間欲しいと言ったから、準備はできるよ。それに会社都合だから給料は上乗せするからね」と言ってくれて、月末まで働けないのに満額持たせてくれた。


「行く当てはあるのかい?」と聞かれて、「…迷惑をかけるかも知れないけど、郡山に頼っていいと言ってくれた人がいます」と答えると、山田さんは1週間後に郡山行きの仕事を受けてくれて、荷物を持っていきながら俺を下ろしてくれた。


定食屋さんはすぐに見つからなかったが、同級生の母親の遠縁の店は「満腹」という定食屋で、近所の定食屋さんにも俺がきたら連絡をくれと言ってくれていた。


会った人は萩月さんで、「すぐに来なかったのはどうしていたんだい?」と聞いてくれて、二万三千円で始まった戦いの初めから、幸せ運送での事を説明したら萩月さんは「わかった。ウチも長居は無理だろうな。限界までは守ってやる。だからその間に生き抜く力を身につけるんだ」と言ってくれた。


聞き返す俺に「幸せ運送さんは間違ってない。起業して成功するんだ。だから君は料理人になって店を持つんだ。俺が君に定食屋の仕事を教える。後はここを出ても他の定食屋に1週間でも居続けるんだ。そして長くいられる場所を見つけたら、調理師免許や食品衛生や防火責任の資格を取って店を待つんだ」と言ってくれて、俺はそこから料理人を目指すことになった。

2ヶ月目に軒先に納品された野菜が滅茶苦茶にされて、他の仕入れ先が「変な噂をながされている」と教えてくれた時に、また電話がかかってきた。

萩月さんは「わかった。だがバイトを雇う時間を貰う」と言ってくれて、ギリギリまで俺に料理を教えてくれた。

最終日には紹介状と、料理の忘れてはいけないポイントをおさえてくれたノートをくれた。


別れ際、萩月さんは「まあ俺は彼女に聞けば雄大の婚約者の写真を見れそうだが、見せてくれないか?」と言ってくれて、俺がフォトブックを出してみせると「早く迎えに行ってやれ」と言って見送ってくれた。

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