第57話 柚子香のはじまり。

俺たちは裸のままでベッドの中にいる。

ベッドから出たら夢のひとときが終わってしまうような気がしてしまい、最低限の後始末だけをしてベッドの中で普段眠る時のようにイチャイチャしていた。

白い柚子香の肌につく赤い行為の跡が生々しい。

俺はその跡から柚子香の顔に視線を戻して、「なあ」と声をかけると、柚子香は幸せそうな顔で「何?」と聞き返してきた。

俺はずっと気になっていた事を聞く事にして、「何で俺なんだ?」と聞くと柚子香は意外そうに「え?」と聞き返す。


「いや、確かに鏡月達からしたら俺はマシだけど、外を見たらもっといい奴いるだろ?外は見なかったのか?」

「バカ」と言って拗ねた顔をした柚子香は、「外も何も私の1番はずっと雄大よ」と言った。


「え?ずっと?」

「ずっと」

「だって俺たちは仲良くなかったし…。内春の集まりだと…」

「雄大はいつも不機嫌だった」


そう、俺はやはり内春の女達の態度が好きじゃなかった。当たり前の顔で男どもを顎でつかう女達、別に得意な人が得意な事をやればいいだけなのに、必死にその位置にしがみつく女連中。

柚子香も誉の横で、誉のように男を顎で使っていて見ていて気分が悪かった。


「俺は得意な人間がやればいいだけで、内春の女尊男卑が嫌いだったからな」

「そうね。だから私は嫌われていた」


「本当に生意気で、鏡月のオヤジに向かって「おかわり早く持ってきて」ってコップを出した時に「うわっ」って思った」

「それは…。お婆様達からやるように言われたから…」

「まあそうだよな。柚子香は勉強のできるバカで、なんでも頑張るからな。本性はこんなに可愛いのにな」

俺は柚子香が気を落とさないように頭を撫でてキスをして話を続ける。


「それでトイレに行く時に1人で行けばいいのに、「トイレ、連れて行きなさい」ってわざわざ俺や鏡月のところに来てな」

「私はあの時に雄大の事を意識したわ」


「はぁ?アレのどこで?」

「ふふ。鏡月は「はい!柚子香さん!」って立ち上がったのに、雄大は座ったままで「バカか。柚子香は柊じゃないんだから、1人でトイレ行けるだろ?行ってこいよ」って睨みつけてきて、私はビックリしながらお婆様に言いつけたわ」


覚えている。

すぐに目を三角にした誉に「雄大!」って呼ばれた。


「覚えてるよ。すぐに誉婆ちゃんに呼び出されたよ」

「なんて言ったか覚えてる?」


返した内容までは覚えてないが、俺はこの頃から誉をなんとか説き伏せることが出来るタイプだったので、堂々と反論したはずだ。


「何だろうな。柚子香は子供じゃないからとか、学校とかでも1人で行けないと笑われるよとかかな?」

「半分正解。雄大ったら酷いのよ。その言葉の後で、「柚子香が入ったトイレの横でブリブリ聞こえてくるのやだ。女の子のトイレになんか行きたくない」だって。それであのお婆様が「確かにそうだね。柚子香も練習だね。柚子香、1人で行っておいで。雄大、柚子香が戻って来なかったら見に行ってくれるね?」って折れて、雄大は「それはやるよ」って言ってたわ。私はそれを見ていて胸がドキドキしたの」


…何に?

どこにドキドキあるの?


俺が理解不能な顔をしたからだろう。柚子香は「ふふ。わからない?お父さんもヘコヘコするお婆様相手に、キチンと自分の言葉を話して納得をさせてしまって、堂々としている雄大は理想の男の子だった」と嘘なんかついていない顔で俺を見つめて言い切る。

確かに内春にいれば鏡月みたいな飼い犬男はダメだろう。



「それから好きになって、沢山一緒に居たかったのに何をやってもダメ。いつもつっけんどんにされて…。でも私は内春の長子。なんとか今のままで雄大と仲良くなりたかった。そんな時に学校で風香に自慢されて「これだわ!」って思ったのよ。すぐにお婆様に「内春として負けたくない」って言ったのよ」


「ん?」

「雄大?」


俺はその時になって一個の疑問が生まれていた。

「柚子香」

「何?」


「柚子香は俺と仲良くなりたいのって誉婆ちゃんに言ったか?」

「言うわけないじゃない。絶対のお婆様にダメって言われたら困るもの。だからあの日初めて「周りにロクな男が居ないから、とりあえず雄大がいいの」って持ちかけたのよ」


俺は少しだけ冷静になっていた。

黙る俺を見て「雄大?」と声をかける柚子香に、「誉婆ちゃんにはバレてたんだろうな」と言った。


「え?」

「だから柚子香の気持ちはバレバレで、俺は内春の女が嫌いで、でも柚子香の本当は内春の女じゃなくて、俺好みの可愛らしい笑顔の優しい女の子だからあの日誉婆ちゃんはお膳立てをしたんだ」


柚子香は呆然とするような顔で「嘘…」と言う。

俺は柚子香の頭を撫でながら「嘘じゃないって。じゃなきゃ婚前交渉なんて誉婆ちゃんが許すわけないだろ?」って言った後で、「あの人は本当に柚子香を1番に考えてくれていた。内春の中で自分が味わったみたいな1番好きな人との恋愛を諦めた後悔を、柚子香にさせない為に、可能な限り力を尽くしてくれたんだ。多分あの話だってタイミングをみて話してくれたんだ」と説明した。


柚子香は真っ赤な顔で軽く困惑してしまい、俺はそれを可愛らしいと思いながら抱きしめて、「じゃなきゃ俺と柚子香の為に、こんなに色々してくれないだろ?」と言って覆い被さるようにキスをして、「もう一度、柚子香の気持ちを貰った俺の気持ちを受け止めてくれよ」と言って行為が再開された。

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