第55話 卒業式。~雄大と柚子香の結婚式~

柚子香の挨拶が済んだので、俺が「柚子香、席に着くぞ」と言うと、柚子香は急に甘ったれて「雄大、抱っこ」と言った。

俺は「何ぃ?」と言いながら、クラスの皆を見た後で柚子香を見ると、柚子香は「いつもしてくれてるのがいい」と言う。


いつもしているとバレて見られることに躊躇すると、周りからは「やってやれよ内春!」と言われてしまい、俺はやれやれと柚子香を抱き抱えて席に戻ると、柚子香は俺から離れないで「雄大の教室で雄大と入れてる」と言って泣いている。



もうぐだぐだだった。

俺は名前順だと前の方なので、担任に呼ばれた時に「柚子香、降りてくれ」と言ったのに、柚子香がごねる前に周りから、「お前達は2人で1人だろ?」、「連れてってやれよ!」と言われてしまい、俺は柚子香を抱き抱えながら担任の前に立つ。


「君の話が夢物語ではい実話、嘘ではないと君を信じています。やり遂げなさい。きっと大学に通うよりも沢山の経験ができます。そして無事に帰ってきたら皆で会いましょう」

担任はそう言って卒業証書を手渡してくれる。

両手で受け取りたいのに柚子香が邪魔をして困惑する俺に柚子香が代わりに卒業証書を受け取ってくれた。


外に出ると皆で写真を撮る事になるのだが、俺には柚子香がビッチリとくっ付いている。

その中で俺のクラスメイトと他クラスだが中学から一緒だった連中が悪ノリを始める。


悪ノリだが思い出としては悪くない。

柚子香も笑顔になってくれる。

誉は嬉しさ半分、情けなさ半分だろう。


「なあ!本当の式は全部終わったらやるんだろうけどさ!内春の結婚式やってやろうぜ!」


この言葉で校庭の朝礼台に家が寺の奴の息子が、「俺の将来は坊主だが、今日は牧師だ!」と名乗り出て、男子連中は花を集めてブーケを作って柚子香に渡して、恐れを知らない連中は誉の事を「婆ちゃんも花嫁と歩かなきゃ!」と言って押していく。


俺は朝礼台の前で待たされると悪ノリの連中も居るが、皆が「思い出作って頑張れ」と声をかけてくれる。


柚子香はわざわざ下駄箱の辺りから誉と歩いてくる。

誉は困ったような呆れたような顔をしながらも柚子香と泣いていて、2人で俺のところまで来ると、誉は「今日は来られて良かったよ。アンタにならまかせられるからね」と言ってくれて、柚子香から手を離すと柚子香は俺の手を取って2人で並ぶ。

皆アドリブでうまくできない。

寺の息子はスマホ片手になんとか寺感を出そうとしたが無理で、例文をまる読みして、柚子香の隣には女子がスマホを見ながら「内春さん、返事」とか言っている。


誓いの言葉の「病める時も健やかなる時も」は厳禁なのに、坊主の奴がアドリブが出来ない為に原文そのままで読み上げると、柚子香は泣きながら「いつでも居たいよ!離れたくないよ!」と言ってまた大泣きする。


「バカだなぁ。俺たちは違うだろ?いつでも俺の心は柚子香といる。俺の所にも居てくれるよな?」

「居るけど寂しい。不安だわ!」


「だから俺は帰ってきたらどんな時でも離れない。信じてくれよ」

「信じる」


柚子香が「大泣きだから信じる」と言った時に目配せで坊主に先に進ませると、大きな声で「それでは誓いのキスを!」と言ってから、「あれ?読み間違えたかな?」と言い、「それで…8回…のキスを!」と言い出す。


「何ぃ!?」

慌てる俺に対して柚子香は「8回だって。して?」と言って泣きながら俺を見て目を瞑る。


「家帰ったらするよ」

「今がいい!」


俺が「えええぇぇぇ」と言うと、周りからは「誓い!」、「チ カ イ!」、「8回!」、「ハ チ カ イ!」と声が上がり、引くに引けなくなって柚子香にキスをすると拍手で祝福された。


キスは本当に8回したか数えられるし、7回目に「今何回だっけ?」と言い出したバカのせいでグダグダになって10回する事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る