第54話 卒業式。~雄大と柚子香の挨拶~
卒業諸所の授与の前に、担任が「内春。言えない事もあるだろうが、皆が君の為にここまでしてくれたんだ。ちなみに先生もこれから校長先生からお説教されるが、これもいい思い出だ。最初にひと言、前に出て皆に話をしなさい」と言う。
俺はガラではないのだが、席?を立つと、「柚子香」と声をかけて柚子香を連れて前に出る。
よく見ると何人かはムービーを撮ってやがる。
「皆、卒業式を無茶苦茶にしてごめん。えっと紹介が遅れたけど、ここに居るのは俺の婚約者の柚子香です」
「はじめまして、内春柚子香です」
柚子香の苗字が内春で学生結婚を疑われたが、俺達は親戚同士で、廊下にいる大叔母の誉の指示で婚約者になった事。始まりはそれでも俺にはキチンと気持ちがあって、柚子香にも気持ちがある事を説明した。
「本当ならお互いに結婚が可能になったら結婚をする話にしていたんだけど、俺達は先月末にトラブルに見舞われたんだ。俺は左腕を刺される怪我を負い、柚子香は俺を庇って左頬に傷を負った。そのトラブル自体は終わったけど、別の被害者は被害に遭った元々の原因や遠因は、俺と柚子香が仲睦まじく婚約者をしている事にあると逆恨みをしてきたんだ」
映画のような言葉の連続。
まだクラスメイトはドッキリ大成功の札でも出てくると思っている顔をしている。
だが柚子香は気丈に振る舞おうとしながらも、俺たちの未来が汚された事を思って泣いてしまっている。ただ泣くのではなく嗚咽を漏らして泣く柚子香を見て、嘘だとはとても思えない。
「逆恨みをしてきた相手はどんな手を使っても、俺達一族を滅茶苦茶にすると言い、唯一の回避策として提示された事は、俺と柚子香が結ばれなくなる為に柚子香が相手の用意した男と結婚をする事だった」
柚子香はもう声を上げて泣いていて女子達の啜り泣きも聞こえてくるほどだ。
「だが、俺は承服しかねると言って、逆に提案をしたんだ。相手の求めるものは柚子香の不幸。なら一番の不幸は俺が苦しむ事。だから俺は折角受かった大学も行かずに、今晩、内春雄大ではなく名無しの雄大として保険証もマイナンバーカードも、口座ひとつなくこの街を離れる」
柚子香は耐えきれずに、また「やっぱり逃げよう」、「行かないで」、「雄大といる」と泣きじゃくり、人目は気になるが柚子香の頭を撫でて「柚子香、泣くなって。俺は大丈夫だ。皆も不安になるだろ?」と笑いかけてから、「でも、それは最悪の状況じゃない。柚子香が知らない奴の所に嫁ぐより、俺が身一つで生き延びて、柚子香を迎えに行ったら俺達は結婚することができるんだ」と言う。
俺はもう一度クラスメイトを見て「まだ希望がある話。柚子香が元気に高校を卒業して、大学生になってくれればそれでいい」と言うと、柚子香が「私は私より雄大の方が大事なの!」と言って更に泣く。
俺は柚子香の頭を撫でながら「知ってるけど照れるって」と言ってから、「それで出ていくのは今晩だから、柚子香はずっと泣いてて、卒業式に着いてきたらこれで。なんと言うか皆ごめん」と謝ると、皆からはそんなことないと言ってもらえた。
担任が「内春さん。あ、彼女さんの方ね。もし良かったら言葉をもらえるかな?」と言うと、柚子香は泣きながら「皆様、卒業おめでとうございます。雄大の婚約者の柚子香です。卒業式を台無しにしてしまってすみません」とキチンと謝った柚子香だったが、すぐに涙を溜めて「私は雄大と居たくて、離れたくなくて、明日にはもう居ないって。怖くて耐えられなくて、だから着いてきちゃって」と言ったところで大泣きしてしまう。
「雄大は帰ってくるって言ってくれてるけど、保険証も何もない中で怪我をしたらどうしよう。風邪を引いたらどうしようと思うと、不安でたまらなくなります。それでも帰ってきてくれたら2人で皆さんにご報告をさせてもらいたいです」
柚子香は泣きながら話し切ると、皆の拍手の中で大泣きしてしまう。
あの柚子香からしたら想像もつかない姿だ。
他のクラスは授与式も終わって廊下に出ていたので大騒ぎだが、皆は気にせずに進めてくれる。
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