第53話 卒業式。~温かい親の言葉~

卒業式、俺の家族として誉と柚子香が来た。

中学から同じ学校だった連中はその事に驚いていたが、俺はいずれバレる話だから家を出て身一つで戦うことになった話をした。


卒業式に問題はない。

あるとしたら柚子香は限界で、ずっと俺の名を呼んで泣き続けていた。


もうそれはいたたまれないもので、式を乱すモノだとしても担任やクラスメイトは「慰めてやれ」と言ってくれたので、「泣くなよ柚子香」と声をかけると、式の進行が不可能なくらい泣きじゃくってしまい、俺は柚子香の肩を抱いて「外行くぞ」と言って連れ出すと、柚子香は外に出た事でもっと泣いた。


外に出ると柚子香は、「このまま逃げよう」、「行かないで」と大泣きで、かえって外の方が式の迷惑になってしまっていた。

心配して出てきてくれたのは、中学から一緒の高校になったクラスメイトの母親で、親達が来ない事、噂になっている柚子香の事、そして内春家に起きたトラブルについて軽く話したら、盛大なため息をつかれた後で「内春君の正解はそれなのね?でもおばさんからしたら、彼女さん…柚子香ちゃんと同じよ。無謀だわ。逃げてと言いたくなるわ」と言われてしまう。

無謀の言葉にまた柚子香が泣くと、「でも柚子香ちゃんの為に、柚子香ちゃんと結婚をする為には必要な選択よね。それ以外は選べない。それもわかるのよ」と言ってくれて、柚子香に向かって「柚子香ちゃん。見ず知らずのおばさんの言葉なんて無責任よね?でも昔から内春君を知ってるの。おばさんが少しでも助けてあげるから、泣き止んで?」と言う。


俺が遠慮すると、クラスメイトの母親は真剣な表情で「それをやめなさい。恥も何もない。地面に頭を擦り付けてでも生き残って、柚子香ちゃんの所に帰ってきなさい」と言った。

それはこの場にいない母よりも母らしい言葉で、目を丸くすると「まあ息子さんに言う言葉じゃないけど、私達って内春さんがあまり好きじゃないのよ。内春君の事より自分が自分がって事ばかりで調子良くて、それなのに内春君はいい子で、応援してあげたくても、後ろであの人が得をしているかと思うと、手出ししてあげられなかったのよ」と言う。


目を丸くしたままの俺を見て、柚子香が「雄大?」と聞くと、「初めて貰った気がする。温かい親の言葉ってこんな奴なのかも」と俺は言う。


そして本当に驚いたまま「恥も何もないって言葉、人に頭を下げてこいってのも、昔から母親に言われたけど、もっと冷たくて無責任だったんだ」と呟くと、クラスメイトの母親は優しく微笑んで、「人って温かいのよ。だから頼れる人には頼りなさい」と言ってから、「困ったら福島に行きなさい。郡山で私の弟の義理の兄が定食屋さんをしているの。働かせてもくれるし、ご飯だって助けてくれるように頼んであげる。今じゃ弟よりも仲良しなのよ」と言って笑ってから、「この恩返しは柚子香ちゃんの所に帰ってくる事。そうしたら2人で写真を撮ってウチのにでも送ってね」と言うと体育館に戻っていく。


俺と柚子香は姿勢を正して「ありがとうございます」と言うと、クラスメイトの母親は手だけ振って体育館に戻って行った。


「人の温かさか…。頼ってみるよ。柚子香はそれなら安心か?」

「まだ不安よ。でも何もない闇の中を進む雄大より、人の温かさを頼る雄大のが安心できるわ」


俺は柚子香に謝りながら頭を撫でる中、また人の温もりを知ることになる。

体育館の中は卒業式どころではなかった。

俺を知らない保護者からしたら大迷惑な話だが、柚子香の泣き叫ぶ声を聞いてクラスメイトが担任に頼んでくれていた。


それは体育館から出てきたクラスメイト達が、「内春!嫁さんと列に入れ!」、「早く来い!」と声をかけてくれて、俺は目を丸くすると碌に話した事ないやつまで、「ほら、列に入って!」と呼んでくれて、「柚子香…?」と声をかけると柚子香は真っ赤な目で俺の横を歩いて卒業生の列に参加して教室まで歩く。


そして異例中の異例で、柚子香も教室に入ると俺の席に座り、俺はゴミ箱を椅子にして柚子香の横に座って「なんだこりゃ」と言って笑ってしまった。


「馬鹿野郎!お前時間が限られてるなら彼女と居てやれよ!」

「卒業証書の授与の時間だって一緒に居ろよ!」

そんな言葉に俺は深く頭を下げてから、「皆ありがとう」と言い、担任と誉が来て誉は廊下で俺たちをみる中、卒業証書の授与が始まった。

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