第49話 卒業までの日常。

俺の身柄は卒業式まで誉預かりになった。

あの話し合いの態度を見る限り、ウチの両親では簡単に俺を見捨てるし、下手をしたら勝田台風香の父親に俺を売り渡しかねなかったからだった。

しかも誉に言われても嫌な顔ひとつせずに、「誉叔母様にお任せします」だった。


俺は不思議な事だが、柚子香の家で暮らしながら学校に行く。

俺の事は誉が親代わりとして学校に来てくれて、卒業後に家を出る事になった事、簡単にトラブルの経緯を説明してくれて、大学にも断りを入れるから学校からも申し訳ないが説明を頼むと言ってくれた。


そして帰る家は自宅ではなく柚子香の家に帰る。

「お邪魔しまーす」と入ったら、柚子香の両親や誉、柊からも「ただいまと言え」と怒られた。


柊はあの話の日、俺に無理難題を言ってきて混乱ぶりを見せた。


柚子香が泣いて、なんとかしてくれと誉に談判に行った時、柊は柚子香と俺の部屋に来て「なんであんな選択をするんだよ!」と怒鳴った。


「じゃあ柊は、俺の柚子香に何処の馬の骨ともわからん奴の所に行けと言うのか?俺が黙っていたら「いいのか雄大!」とか言わないか?」

「言うけどおかしいよ!」


「おかしいか?じゃあ内春の全員が困ってウチの親みたいな奴に、柚子香が睨まれていいのか?」

俺の問いに「それもおかしいけど!」と言ったところで柊は泣いてしまう。


「バカ、泣くなよ」

「泣くよ!無力な自分が憎らしいよ!」

俺は柊を見て「なら力をつけろよ」と言う。


「雄大?」

「今回の事でわかったろ?力がなければダメだ。暴力だけが力じゃない。権力でも財力でもなんでもいい。柊だけの力を身につけて、柚子香を守ってくれ」


俺の言葉に柊はハッとなって、「雄大?それって」と聞いてくるが、俺は柊の言葉を遮るように、「流石の俺でも柚子香が大学出るくらいまでは戻って来れないから、その間は頼んだぞ」と言って笑いかけた。


皆案外甘い人間で、柚子香の両親は柚子香が風呂に入っている時に、俺の前に2人で座ると姿勢を正してお礼を言ってきた。


「俺のしたいようにしただけです。もし一族会でつまらない事を言われて、柚子香が傷付いたら俺の分まで優しくしてあげてください」


柚子香の両親は俺の両親にも幻滅したと言い、帰ってきてくれたら俺の両親を抜きで家族になろうと言ってくれた。


「俺は柚子香を内春から連れ出すために頑張ってるんですよ?」

「なら皆で内春を捨ててもいいの」

「今回の事でキチンとわかったつもりだよ」


俺は照れ臭さから「じゃあ戻ってきた時に、気持ちが変わってなければ」と言った。



俺が帰ると見覚えのない靴があった。

それは渋谷晴子の靴で、渋谷晴子は全てを知っていて、柚子香と泣きながら俺を待っていた。

俺は引き気味に「なんで泣いてるの?」と聞くと、渋谷晴子は「泣きますよ!柚子香さんを幸せにできるのは、雄大さんだけなのに!」と言って取り乱す。


「だから柚子香を幸せにしたんだって」

「コレは違いますよ!」


泣きながら怒る渋谷晴子を見ながら、俺は「ありがとう」と言って柊を呼ぶと、柊の奴は卒業間際なのに友達と遊ばないで、すぐに帰ってきているので「何?」と降りてくる。


「いや、柊と晴子ちゃんには助けられたなと思ってさ、柚子香の為に怒ってくれて泣いてくれる人が2人もいてくれる。去年の夏休みに行った海みたいに、柊と晴子ちゃんが居てくれれば俺は安心して戦えるよ」

この言葉で3人が声を上げて泣いて怒る。


俺は少し困りながら「3人で怒って泣いてしてさ、帰ってくるのを待っててよ」と言うと渋谷晴子は「柚子香さんの事はお任せください!」と言ってくれて、柊も「晴子さんも居てくれるからやるけど、僕たちじゃ雄大のつま先にも及ばないんだから早く帰ってきてよね!」と言ってくれた。


その日は困りながらも、俺たちの仲の良さを聞きたいと言った渋谷晴子の為に、柚子香が作り溜めたフォトブックを見せた。


柊からは「雄大、2冊目からは顔が露骨に違うね」と言われてしまって、「あの時は結婚なんて嫌だったからな」と言っておいた。



誉に呼び出された時、誉は姿勢を正して俺相手に土下座をしてきた。

俺は驚いて「何やってんの!?」と止めると、誉は「御礼と謝罪さ。孫を守るために同じくらい大事な孫を犠牲にしたクソババアだから、こんな事しか出来ないさ」と言った。


俺が「やめなって。俺は自分の意思で戦って柚子香を守るんだから、勝手に感謝とか謝罪とかいらないよ」と言うと、誉は「アンタも不器用だねぇ」と呆れたようなそれでいて嬉しそうな顔で言うので、「だからこそ柚子香とピッタリ相性バッチリなんだよ」と言って笑った。


「違いない。一応聞かせておくれ。勝算はあるのかい?」

「さて、内春の中ではやれる方でも、外ではまだまだだからね」


「済まなかったね。でもアンタが戻って来ないと、柚子香は死んでしまいそうだからよろしく頼むよ」

「はぁ?それこそ命をかけて柚子香を守ってくれよ」


俺の言葉に誉は呆れ顔で「アンタの代わりなんて誰も務まんないよ。柚子香が大事ならさっさと自活して帰ってきておくれ」と言うので、俺は「わかってる」とだけ言って、最後に「誉婆ちゃんも元気でね。帰ってきて位牌になってるとか嫌すぎだからね」と言ったら、「無茶言うな」と言われた。

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