第48話 柚子香の不幸。雄大の決断。
市川明彦達は余罪がコレでもかと出てきた。
薬の売人もやっていて、荒稼ぎしていた事も発覚した。
例の葉っぱも高いと言ってもそんなに高くない、質の悪い混ぜ物の売れ残りで、勝田台風香は完全にカモにされていて、搾り取られていただけだった。
インディーズ映像として売られた作品も、最初の1本で葉っぱ代になっていたのに、相場を知らずに搾り取られた勝田台風香は、気付かずに痴態を晒し身体を売って、宿った命すら殺して市川明彦達を食わせていた。
それを伝えにきたのは勝田台風香の父親の代理人だった。
勝田台風香の家は資産家で、勝田台風香は一生働かずに生きていける。
薬物を断ち切る病院に入って、皮膚もタトゥーを薄める処置を、目玉が飛び出る金額を使ってもやり切る事になっていた。
そして市川明彦達だが、市川明彦の右腕は俺が破壊してしまっていて、治っても握力は戻らないと思うという話で、後は階段から蹴落とした見張りの奴も腰を悪くしたとか言っていたが、俺も勝田台風香の父親も知ったことではない。
勝田台風香の父親は、自身の目が黒いウチはマネーパワーで動く、国家権力すら無視する、グレーゾーンの「不思議な力」を駆使して、市川明彦達5人を世界の果て、地獄の底まで追い込む事を誓い、資産の一つを売り飛ばして専用の資金に換えてしまっていた。
そんな事後報告に来た訳ではないことは俺も誉もわかっていた。
やはり内春家はただの一族で、なんの力もない。
圧倒的暴力に対しての対抗手段はない。
代理人は内春家の事を調べ尽くしていて、親族会にも来ない遠縁や、嫁に出て内春でもない者まで不思議な力で追い込むと言い出した。
理由は最もシンプルで最も理不尽だった。
勝田台風香が柚子香を苦しめてくれと望んだから。
勝田台風香は全てを都合よく還元していき、そもそも市川明彦にナンパをされた時も、誘いに乗ったのは張り合っていた柚子香に勝ちたかったからで、初めてを捧げた日も柚子香に勝ちたかったから。
夏休みの事件も、俺と相思相愛になった事で余裕が出た柚子香が適当にあしらってきた事に腹を立てて、なんとか柚子香に勝ちたかったせいで、取り返しがつかなくなった。
だから全部柚子香が悪いと言い出した。
俺の横で聞いている柚子香は真っ青で震えていた。
そもそも、柚子香は今でも元クラスメイトとして、勝田台風香の話を聞いて助けられる事を模索したいと言っていた。だからそこまでの恨みを向けられていると知り、何も言えなくなっていた。
代理人は「個人的には心中お察しします」と言った後で、「ただ、内春雄大氏、内春柚子香氏がいなければ、お嬢様の苦難は続いていた事も確かなので、ご主人様は別の提案をしております」と続けた。
それはとても話にならないモノだった。
内春柚子香が勝田台風香の父が用意する男の妻になる事。
それなりの相手を用意するつもりはあるから柚子香の将来は安心していい。ただ最愛の存在と結ばれる事を放棄させる目的で、それさえすれば内春家は助かると提案してきた。
俺に承服する気はない。
柚子香だけではなく、柚子香の両親に誉まで真っ青になっている。柊は気絶寸前の顔をしていて、俺の親はもう損切りを始めていて、「内春家が守られるなら」、「話の通りなら、お相手の人もいい人かも知れないし」と言い出していた。
誉が口を開く前に、俺は手を挙げて「柚子香の不幸の為にそこまでするの?」と代理人に聞く。
「ご主人様はそのおつもりです」
「ならそれは真の柚子香の不幸ではない。柚子香の不幸は別にある。それにしなよ」
誉と柚子香は俺を見てくるが、俺は柚子香に微笑んで「安心しろ。本気の俺がお前を守る。もうお前を傷つけさせない」と言ってから、「俺、内春雄大が内春を捨てる。大学にも行かずに身一つでこの家を出る。柚子香の最愛が俺なら、柚子香には手出しできない所で俺が苦しむ事が、一番の不幸になる」と言い切る。
柚子香は「雄大!?」と声を荒げたが、もう一度微笑んで「提案された柚子香の不幸は、柚子香だけじゃなくて俺も不幸になる。でも不幸が俺に向かってきて、俺が跳ね除ければいい話なら俺は耐えられるし、その先で柚子香が大学に行って立派になってくれればいい。俺は柚子香の為なら本気になれる。この一年俺の本気を見てきたなら任せられるだろ?」と言う。
泣いて嫌がる柚子香を代理人に見せつけるように「ほらね。ただ俺がやり切って柚子香を迎えにきたら終わりにしてよ。どう?」と持ちかけると、代理人は「お時間をください」と言って勝田台風香の父親に確認をすると、「保険証やマイナンバーカード等も全て放棄して、身一つで家を出るのなら認める」と言っています。と言ってきた。
「じゃあ後は悪いんだけど、俺の左腕、お嬢さんに刺された怪我だから、完治まではこのままで居させてよ。大体高校卒業まではいられるから、それくらいはいいだろ?」
勝手に進む話に、柚子香は必死になりながら俺を止めてくるが、「俺は柚子香の幸せが1番だ。キチンと高校を卒業して、俺を待っててくれ。俺は大学を諦める事になるがなんとかする。なんとか自立したら迎えにくるから待っててくれ」と言って誉に「いいよね?内春の長子を守る為なら安いよね?」と問いかける。
誉は唸りながら必死に最適解を求めて計算をしている。
柚子香は縋るように誉に「お婆様」と言っているが、誉は答えを見つけられなかったのだろう。俺を見て「雄大、やれるのかい?」と聞いてきた。
「やるさ。俺が苦しむと柚子香も苦しい。でも俺は気にしなければいいし、柚子香が幸せなら俺は苦しまないから、プラスマイナスゼロだよ。でも柚子香が苦しいのはマイナスとマイナスで俺は耐えられなくて自殺しちゃうね」
俺の言葉に「なら決まりだ」と言った誉は、俺の両親に了承を取り付けようとしたが、俺の両親には血も涙もない。あるのは調子の良さだけで、次のトップになる柚子香の為に、俺が犠牲になれば自身は内春の中で発言権が約束される。
本人達は一人息子の犠牲を止めるでもなく、「雄大なら平気だ」、「雄大に任せよう」ともうその先しか見ていなかった。
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