第47話 結納。
柚子香は左頬に大きなガーゼを当てられていた。
泣いて謝る俺に柚子香も泣いて謝ってくれた。
俺はどんな事からも守ると言ったのに守り切れなかった事、柚子香の顔に傷が出来た事を泣いて謝り、柚子香は危険な場所に行ってしまった事を謝り、内春だなんだと言っても井の中の蛙でしかない事、圧倒的な暴力に対しては無力だと気付いたと泣いて謝ってくれた。
俺達は帰宅すると2人で誉の所に呼ばれた。
婚約破棄だけは避けたくて、顔を出すとそこには俺の両親に柚子香の両親、後は柊が居た。
誉は俺相手に深々と頭を下げて「雄大、本当に助かったよ。柚子香を守ってくれてありがとう」と言われた。
追いかけるように柚子香の両親と柊が頭を下げてきて、俺は慌てるように「俺こそ市川明彦達を気絶させて、すぐに逃げれば良かったんだ。逃げなかったせいで柚子香の顔に傷がついた」と言ってまた悔しさで泣いてしまう。
誉は「今だって泣いてくれている。感謝しているよ」と言ってくれて、その言葉に驚いてしまうと、誉は「どうしたんだい?」と聞いてきた。
「俺、柚子香を守りきれなくて、弱いから婚約者に相応しくないって言われないように、もっと頑張るからって言おうとしてたんだ」
「私も雄大しかいないって言おうとしてました」
俺と柚子香を見て、誉は嬉しそうに「そんな事言うわけがないだろ?改めてキチンと結婚の意思を確認して、結納をしようと思ったから、お前達の両親と柊を集めたんだよ。雄大、柚子香をもらってくれるかい?」と聞いてくれた。
「うん。俺は柚子香と結婚をしたい」
この言葉でキチンと結納、前みたいな口約束とは違うキチンとした結婚の約束を果たした。
週末には一族達の前で、もう一度俺と柚子香の結婚の発表をして、学生結婚でも柚子香は俺と結婚できる年齢になったら結婚をする事にした。
週末の一族会は荒れた。
柚子香が傷付き、俺が守りきれない事を持ち出して、婚約破棄を勧めて自分の家の鏡月や白鷹を推してくる連中に対して、誉は「なら柚子香が危険な場所に行った際の、正解はなんだったんだ?」と聞くと、回答は警察を呼ぶ事と、話し合いで時間を稼ぐ事だった。
そんなもので柚子香を守り切れる訳がない。
俺は非難される立場なのだが、段々と苛立ってきてしまう。
そもそも何かを言われる度に、柚子香が小さくなってしまう。
それを見ていられない。
俺は「机上の空論、絵に描いた餅で人が救えるかよ」と言い放った。
どよめきの中、俺は「今回、理屈の外にいる連中が敵だった。話し合いでどうにか?なる訳がない」と言い、横の柊に「お前英語が得意だよな?英語の問題で勝負を挑んだら相手が乗ってくるか?負けたら柚子香を諦めて逃げ出すか?」と聞くと、柊は「巻き込まないでよ!」と言ってから、「無理だよ。英語の問題で相手が戦闘不能になるとか、聞いた事がないよ」と返す。
「なあ鏡月。さっき言った話し合いで、今からお前に殴りかかる俺を止めてくれよ」
俺の言葉に鏡月は青い顔をしたが、「左腕は見ての通り動かせない。右腕と足しか使わないって」と言って前に出ると、鏡月は手を前に出してきて俺を止めようとする。
俺は「ダメだろ鏡月?お前は言葉で俺を止めるんだよ」と言って更に前に出ると、鏡月は「け…警察呼ぶぞ!」と必死になる。
「呼べば?俺も身の破滅だが、お前だけは殺せるよ。呼んで何分で来てくれるかな?それまで死なないように頑張れよ」
笑顔で振りかぶる俺に、誉が「そこまでだよ雄大」と言うと、俺を柚子香の横に戻して「何度でも言うが、よくあの野蛮人の群れから柚子香を守ってくれたね。今この場ではお前にしかできない事だったよ」と言ってくれる。
「俺は一生柚子香を守るよ。これ以上傷付けさせてたまるか」
「任せたからね」
柚子香はこのやり取りを黙って見ている。
俺はあえて「柚子香、顔に傷がついた事、俺を守ってくれて出来た怪我、一生かけて償うから俺といてくれ」と言うと、柚子香は潤んだ瞳で俺を見て「雄大、私こそ庇ってくれた事、左腕に怪我をさせてしまってごめんなさい。危険な場所に行ってごめんなさい。一生かけて貴方を支えさせて」と言った。
誉は「わかったね。柚子香は雄大と結婚をする。以上だ」と言って話を締めるので、俺は「ちょっと待った」と止めて、「スマホに位置情報を送り合うアプリを入れる事、危険な場所には近寄らない事、皆徹底しなよ」と添えると、「夏休みのプリントみたい」と柊が言っていた。
ここで終わればまだマシだった。
本当にそれだ。
翌週、俺達にはどうしようもない力が突き付けられた。
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