第46話 柚子香の傷。

位置的に、俺の左腕の血を拭いていた柚子香が前に出てしまい、市川明彦が柚子香を殴り飛ばそうと振ったナイフは柚子香の左頬を掠めていた。市川明彦は柚子香に傷をつけた事で一瞬動けずに居た。

俺はその間に倒れた柚子香に駆け寄って顔を見ると、左頬に出来た一筋の線から溢れてくる赤い血を見て理性を失った。


その後の事はビデオ係の持っていたビデオに辛うじて映っていたものを、警察病院で見させてもらった。


俺は柚子香の名前を何度も呼ぶ。

柚子香は切り付けられたショックで気絶していて動かない。

「柚子香を殺させるか!」と言いながら、動けなかった市川明彦を殴り飛ばすと、「柚子香を守る!俺が守る!」、「やらせない!」、「やらせるものか!」と叫んだ俺は、市川明彦がナイフを握っていた右腕を執拗に蹴り続ける。

市川明彦が動かなくなった事を確認して柚子香に駆け寄ると、柚子香の頬に触れて大泣きをしながら何遍も柚子香に謝り、「病院だ。病院に行こう」と言って放心している勝田台風香に、「早く救急車を呼べ!」と怒鳴った所で気絶していた。


入れ替わりで目覚めた柚子香は、頬から血を流しながら何遍も俺の名を呼び、助けに来た警察官に「雄大は刺されたの!助けてください!」と言ってくれていた。


そのビデオの中で勝田台風香がなぜ上半身を裸になっていたのかも映されていた。

本来なら見せられないモノだが、柚子香1人では耐えきれていない事と誉達が家族として何があったか知ろうとして揉めた結果、関係者の1人として俺が見ることとなった。


柚子香を連れてきた市川明彦は店に入ると、「おら風香、連れてきてやったぞ」と言う。店の隅で丸まってた勝田台風香は立ち上がると、柚子香に近づきながら「柚子香、久しぶり。わかる?」と言う。


柚子香は震える声で「風香?」と名前を呼んだ後で、「貴方どうして?学校にもずっと来ないって、どうしたの?」と聞く。

勝田台風香は柚子香を見て、「柚子香変わったね。あの彼氏のお陰かな?昔よりキラキラしてる。愛されてるのかな?」と言うと、「学校?行けるわけないじゃん」と続けた。


パニックになり始める柚子香に、勝田台風香は「この髪とこの肌、私達のお父さんくらいの連中の好みに合わさせられて、明彦たちにやらされたんだよ」と言って、日焼けした小麦色の肌を見せて金髪になった髪の毛を触わりながら、柚子香に「あの年齢のおじさん達さ、自分の娘には清楚さを求めるのに、性の捌け口にはこんな格好を求めるんだよ」と言って呆れ顔になる。


柚子香はわからない事の連続だが、救おうとした友達の為にも「何言ってるの?肌も髪も嫌ならやめればいいのよ。帰りましょう?」と声をかける。

勝田台風香は「出来るわけないじゃん」と言ってシャツを脱ぐと、乳首とヘソにピアス。肩や背中にはタトゥーが施されていた。


「風香!?」

「もうこんな身体じゃ元には戻れない。そもそも私は明彦達になんでもやられて、なんでもやらされたの」


勝田台風香の声に合わせて、市川明彦達が「やられてって酷えなぁ。俺が女にしてやって、知らない沢山のことをもっと知りたいって言うから6Pもさせてやったし、葉っぱだって教えてやったろ?それで葉っぱ代稼げねぇって言うから、金の稼ぎ方を教えてやったんじゃないかヨォ」と口を挟むと、見張り役の男以外は「すげぇ喜んでいたろ?」、「また6…、この子も入れて7Pしようぜ?」、「金稼ぐのって大変なんだぜ?」と口を挟む。


柚子香が「葉っぱ?」と聞き返すと、勝田台風香は「違法薬物。夏休みにお酒を飲んでみて、タバコを教わって明彦に抱かれた。前より大人の女になれた。柚子香に勝てたと思った。次の日にまた同じ事をした。その時…昨日と違うタバコだと思ったら、違法薬物だった。気付かないでそのままお酒と葉っぱとセックスを覚えて、戻れなくなった所で違法薬物だって言われた。とても高いからお金を稼げって言われたけど、働いたこともないから出来ない、家に帰ってお父さんにお金もらうって言ったら、バカかって言われて稼ぎ方を教えられた。最初はインディーズの映像。説明を聞いてて明彦以外の人となんてセックスしたくないって言ったら、私が1人でしてる所を撮って売るだけだって言われたから、それならってしたよ。名前を言うな名前を出すなって言われて、ホテルのベッドの上で明彦の指示に従って胸を触ってからアソコを触る。それで柚子香はバイブって知らないよね?男の人のモノに似せた道具を入れて自分で動かして、一度イッても明彦は「まだだ」、「続けろ」って言ってくるから気絶するまで続けた。そのお金で葉っぱを買ったけど、すぐにお金は底を尽きた。また1人でする映像を撮ったけど、2回目は安かった。だから明彦としてる映像になって。次は撮影係のタケシとした。嫌だけど葉っぱが無いと気持ち悪いから仕方ない。そうしてここにいる全員とした後は、明彦にお店を紹介してもらって、日焼けして金髪にしてピアスしてタトゥー入れたの」と長い説明をして絶望の顔で笑った。


柚子香は男達の顔を見て「そんな…風香」と言うと、勝田台風香は「今度は見ず知らずの、童貞君10人に滅茶苦茶にされる映像を撮ろうって明彦に言われたの。もう嫌なのに葉っぱの為にやるしかなくて、そんな時に妊娠してる事に気付いたから、慌てて堕した。夏からこっち、何人の人とやったかわかんない。父親なんてわからない。だから私は明彦に言ったの。柚子香を私と同じ目に遭わせてくれたら、どんな映像でもいいよって」と言い。

ナイフを構えて「柚子香、アンタも滅茶苦茶になってよ。どこの誰とも知らない男の子供を孕んで、タトゥー彫って薬覚えてさ」と言った所で、俺が飛び込んできてあの騒ぎになっていた。


市川明彦達は任意同行の形だったが映像のお陰で逮捕され、勝田台風香は保護されたが俺を刺した事で逮捕されていた。

俺は過剰防衛にもなりかねなかったらしいが、誉が用意した弁護士の尽力で、刺された事と柚子香が傷付けられて逆上しても、相手への殺意ではなく柚子香を守りたい一心だった事が映像に残っていて前科はつかなかった。


そして…。

柚子香の左頬には傷が残ると言われた。

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