第45話 撃破、負傷。

俺がついたのは柚子香の位置が止まってから15分後の事だった。


渋谷晴子に「おそらくここだ」と位置を送ると突入した。

タクシーの運転手は「ガラの悪い店だから気を付けな。俺からも通報しておいてやるよ」と言ってくれた。



店は地下にあって、階段を降りていくと見張りの男がいる。

「店は休みだよ帰れよ」と言った男に、「柚子香を返せ」と言うと、「雄大?お前雄大か?」と聞いてきた。


もうそれ以上知る必要はない。

俺を知る。

それは市川明彦の仲間だと言う証拠だ。


俺は「そうだよ!」と言いながら見張りを蹴り飛ばすと、見張は階段から落ちて苦しんでいる。


それを無視して店の扉を開けると、中には市川明彦とビデオカメラを構えた男、少し離れた所に2人の男、後は日焼けした肌に金髪頭の勝田台風香が、上半身裸でナイフを持って柚子香を威嚇していた。


「柚子香!!」

「雄大?なんで?」


「なんでじゃない!なんでそんな危ない真似をしてる!俺はお前が入れた防犯のアプリのおかげで、お前の居場所がわかったからタクシーすっ飛ばしてきたんだ!」

怒鳴る俺を見て、ヘラヘラと笑った市川明彦が「来るのが早ぇよ雄大」と言う。


「何?」

「これは風香の願い。風香の復讐なんだぜ?まだ風香の恨み言を柚子香ちゃんが聞いてる最中なのに、来ちゃったらダメだろ?」


意味が分からない俺が「復讐?」と聞くと、市川明彦が「お前は知らなくていいって」と言ったのに、いやらしく顔を歪めると「とりあえず風香の願いは、柚子香ちゃんも風香みたいにおクスリが好きになって、オヤジどもに抱かれて金払って貰えるように、俺たちに回してもらいたいんだってばよ」と言ってから、残りの男たちに目配せをして「雄大も混ざる?ギャハハ。まあお前は順番が回ってきても、最後のボロボロの柚子香ちゃんだけどな!」と言って笑った。


市川明彦に釣られて笑う連中に苛立ちながら距離を測る。


黙っている俺を見て、市川明彦が「ビビんなって、痛いより気持ちよくなろうぜ?お前は見た目がいいから、風香みたいなお嬢様で頭空っぽのクルクルパーを捕まえてくる仕事やれよ。何人かは1番に味見させてやるって〜」と笑った瞬間に、俺はそばにいた男を殴り沈める。


そのままその横の奴を蹴り沈めると、残りはカメラを持った男と市川明彦の2人になっていた。


市川明彦は唖然とした後で、「てめぇ!?」と言いながらナイフを出して見せると、そのまま「お前はもうおしまいだ!謝っても許してやらねぇ!ボコボコにして動けないお前の前で、柚子香を滅茶苦茶にしてやる!」と言ってきた。


柚子香を滅茶苦茶に?

柚子香は細くて柔らかくて怖がりの泣き虫だ。


俺は更に怒りに飲まれていた。

あっという間に柚子香と市川明彦とビデオ係の間に立つと、一気に殴り飛ばして市川明彦とビデオ係を沈める。


俺はこの時油断した。

もう後は勝田台風香しか居ない。

一昨年の冬に見た時の面影のない少女が、何かをするとは思っていなかった。


正解はさっさと柚子香を連れて外に出てしまう事だった。


だがやはり俺も、内春の甘い生活に染まっていた柊達を牙も爪もないと言ったが、それは俺もだった。

野生が足りていなかった。


俺は柚子香に向かって歩きながら、「柚子香、終わったぞ。帰ったら一応怒るからな」と言うと、柚子香は反省した顔で「ありがとう…。ごめんなさい」と言う。


「馬鹿野郎、俺より柚子香だ。俺は良いけど、柚子香は怪我したらダメだろ?」

「ありがとう雄大」


「いや、まあ格闘技をかじっておいて良かったよ」

「本当ね。柊もいざって時は戦えるのかしら。でも有段者は人を傷つけちゃダメなのよね?」


「俺は無段だよ。試験とか面倒くさくてやってない」

「もう。雄大ってば」


嬉しそうに微笑んだ柚子香を見て、俺も微笑み返す。

柚子香は勝田台風香の方を見て「風香、とりあえず帰りましょう?ご家族も心配してるわ。まずは帰る事から始めましょう?」と言った時、勝田台風香は爆発した。



「なんで!?なんで私がこんな目に遭って柚子香は綺麗でキラキラしてて優しい彼氏がいるの!?」と叫んだ勝田台風香は、柚子香に向かってナイフを振りかぶった。

俺は咄嗟に前に出たが、半裸で涙を浮かべて向かってくる勝田台風香を殴れずに、ナイフを左腕で受けてしまった。


幸いだったのは爆発しただけで、明確な殺意のない勝田台風香は、俺にナイフが刺さった瞬間に恐怖でナイフから手を離してへたり込んでしまった事と、冬場でコートを着込んでいた事で、深くナイフが刺さらなかった事だった。


柚子香はナイフが刺さった俺を見て絶叫した。


そして「やだ!雄大!」と何度も言いながら、ハンカチで俺の腕を押さえて「救急車!」と言った。


その時、しぶとい市川明彦はその騒ぎの中で立ち上がると、俺に向けてナイフを振るってきた。

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