別れを選ぶ雄大。
第44話 別れの始まり。
今思えばきっと随所に予兆があった。
だが俺も柚子香もそんな事には気付かなかった。
俺と柚子香。
内春雄大、内春柚子香は順風満帆だった。
俺は大学が決まり卒業を待っていて、バイトの身分だが仕事も続いている。
正月ではキチンと柚子香の婚約者として振る舞い、周りの反発なんて起こせないくらいに穏やかな柚子香を認めさせて誉や柊とも上手くやっている。
柚子香も俺の妻になる為に努力は欠かさないでくれている。
2人でいればそれだけで穏やかな時間を過ごせていた。
俺は慢心していたのだろう。
柚子香も慢心していたのだろう。
2人だけで、内春の中で生きていくなら満点だったが、世界を見た時、すぐ隣には危険が迫っていた。
取り返しのつかない状況になり、後悔しながら俺は数時間前に起きた事件と知り得た情報を思い返していた。
よそのクラスに行った勝田台風香は市川明彦に壊されていた。
もう何ヶ月も学校に来ていなかった勝田台風香は、歪んだ妄想から幸せな柚子香を妬み、怨み、八つ当たりを目論んだ。
勿論勝田台風香も被害者だが、俺と柚子香からすれば加害者でしかない。
連絡を渋谷晴子から貰い、事件の経緯は警察で知った。
夏休み明けから勝田台風香は行方不明になっていた。
家族の連絡には、通話は出ないがメッセージは返ってくる状況、連絡がつくから捜索願いも出せない。本人のもうすぐ帰るという言葉を信じてしまったその裏側では、夏休み中、取り返しのつかない所に市川明彦とその一味の手で追いやられ、風俗に沈められていた。
俺と柚子香の前に現れた勝田台風香は、あのクルクルとしたツインテールの名残もない日焼けした肌に、金髪で乳首とヘソにピアスをさせられていて、背中にはタトゥーが彫られていて薬物中毒に堕胎までしていた。
「なんで!?なんで私がこんな目に遭って、柚子香は綺麗でキラキラしてて優しい彼氏がいるの!?」
ナイフを持って泣きながら叫んだ勝田台風香の慟哭を、俺は一生忘れられないかもしれない。
三月が目前に迫っていた俺は、卒業旅行に柚子香を連れて何処にいくかを考えていた。
仕事もない平日で、学校が終わればフリーになる俺は、柚子香の家で受験を終えた柊と柚子香を待つかと思っていると、普段ならメッセージしか入れてこない渋谷晴子からの着信に驚いた。
柚子香が怪我でもしたかと思い電話を取ると、慌てた声の渋谷晴子は「雄大さん!柚子香さんが、勝田台さんの彼氏の人に連れて行かれました!」と言った。
耳を疑った俺は、詳しく聞くと学校横の公園で待ち伏せていた5人の男達は、柚子香を見つけるとニヤニヤと近付いてきて、「風香が柚子香ちゃんに助けを求めてるんだけど来る?」と聞いてきたらしい。
柚子香は愚かにも内春として舐められてはいけない、そして勝田台風香が助けを求めているのならと思い、「行くと風香は助かるの?」と聞いた。
「お巡りさんに言わずに来ればかな〜。勿論雄大にも内緒ね〜」と答えた市川明彦は、「来る?」ともう一度聞いた。
柚子香は行くと答えて市川明彦の車に乗り込んでしまい、渋谷晴子は慌てて学校に戻り、職員室に駆け込んで教師に判断を委ねながら、独断で俺に連絡を取ってくれた。
俺はあの冬に見た市川明彦の顔を思い出し、上から下まで柚子香を睨めあげた事から柚子香の危険を確信し怒りに囚われる。
「雄大さんは柚子香さんと位置情報を送り合ってるんですよね!?」
俺は渋谷晴子の言葉に、すっかり忘れていたあのアプリを思い出す。
「でかした!それだ!随時地図の写メを送るから警察に伝えてくれ!」
「雄大さんは!?」
「手遅れなんてごめんだ。俺は柚子香を追いかける。連絡ありがとう」
俺はアプリを起動すると、柚子香は車で移動しているのだろう、かなりの速度で移動していた。
俺はすぐにタクシーを捕まえてアプリの場所を目指すように言った。
そして誉の所に電話をして緊急事態だと伝える。
「とりあえず柚子香の友達の渋谷晴子って子が、学校に通報してくれた。警察と連携を取るはずだから連絡して」
「アンタはどうすんだい!?」
「俺は俺で柚子香を取り戻す。他人任せになんて出来るか」
「危ないんだよ!」
「柚子香の危険より危ない事なんてない。バッテリーが勿体無いから切るよ」
俺は電話を切るとすぐに柚子香の位置を渋谷晴子に送る。
運転手に場所を聞くと多分俺が1番近いと言われた。
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