第43話 全く違う新年。

年を越すとまた内春の正月が来る。

また柚子香と2人で年を越した。

今年は1時間ごとに2人で時計を構えていろんな写真を撮った。

もう内春の集まりは慣れたモノで、今回は「嫌な思いをしたら言う事」と柚子香には言っていて、「嫌な事の量に比例して俺は柚子香を甘やかす」と言うと、柚子香は事細かに言うので本当に愛おしさも込めて甘やかす。

柚子香も「雄大も嫌な思いするんだから言って」と言ってくれるので、事細かに語っていろんなご褒美を貰う。

あの水着姿を冬の寒い部屋で撮らせてもらった写真を家で見返した時は、「…ご褒美あると内春の集まりってアリになるな」と言ってしまった。


誉は明るい黄色の着物を用意していて、それを着た柚子香はキツさが減って見えたし、化粧も去年と違っていた。


今年も「おはよう」と現れた誉は、キツさのない柚子香を見てから「この一年皆も頑張ったことは聞いてるよ。よくやったね。柊も受験は問題ない。雄大も早々に大学を決めてきた。鏡月も白鷹も良くやったよ」と言ってから、「だが1番変わったのは柚子香だね」と言ってから、「顔に余裕と人間性に深みが出てくれた」と言い、キツさの抜けた柚子香を肯定して、「雄大、良くやったよ。去年の生意気な態度が口だけではないことをよく証明した」と俺に言う。


柚子香が穏やかに「雄大、来て」と言うだけで、どよめく連中を尻目に俺は柊の首根っこを掴んで前に出ると、「この一年の努力と結果を見てきたよ。働き口を見つけて限界まで稼ぎながら、柚子香を寂しがらせずに十二分に満足させて、学業も手を抜かなかった。今もこうして柊をキチンと連れ立つ徹底ぶり。見事だよ」と誉は言う。


「俺は柚子香に本気だからやるよ。これはその結果。まだ本気は残ってるさ」

「だろうね。口だけじゃない所は見せてもらった。柚子香、キッチリと内春をやり切り、雄大の本気を受け止めなさい」

「はい。精進します」


「雄大、柚子香の横に座りな」

「じゃあ柊は俺の膝に座るか?」

「僕はキチンと雄大の横に座るよ。雄大を見てキチンとする事を教えて貰ったからやれるよ」


柚子香はそのやり取りに優しく微笑んで、「もう、早く挨拶を済ませて食べましょう」と言ってから「私たちの代は柊に挨拶を頼むわね」と言う。

俺は「それはいいな」と言って座ると、誉の乾杯で宴会は始まった。


穏やかな空気の宴会に、誉は「まったく、やり切られると何も言えなくて困るね」と俺に言い、俺は「折角うまいモノ食べるんだから穏やかな方が良いって。でも婆ちゃんのチョイスっていいよね。この黄色の着物も似合ってるよ」と言って柚子香の写真を撮る。


「だろ?今回は最後まで空色と悩んだんだけどね」

「まあそれも楽しみだけど、振袖って独身しか着れないから、もうすぐ着れなくなるよね」


「仕立て直せば着れるし、娘が産まれたら娘が着れるよ」

「…成程」


「おや、前向きじゃないか」

「当然だよ」


誉が意地悪く「柚子香、雄大は娘が欲しいそうだよ」と言うと、柚子香は真っ赤な顔で「に゛ゃ!?」と言った後で、「…私は男の子が欲しいです」と返す。


「雄大、どうすんだい?」

「ウチは子沢山にするから、増えたら増えただけ柊の仕事が増えるだけだよ」


柊は「僕を巻き込まないで!」と言っていて、一連の流れに柚子香の両親はニコニコしていた。


誉が「雄大、やり切るんだろ?」と聞き俺が「やるよ」と返す。

ニヤリと笑った誉は「なら今日は終いまでいて、柚子香と見送りまでやりな」と言うので、俺はわざと柚子香を見て「えぇ?柚子香、イチャイチャの時間取られた」と言うと、真っ赤になった柚子香は「雄大!」と言う。


「冗談だよ。やり切るよ」と言った俺は、柚子香に「その代わり景色のいい場所で撮らせてくれ」と言うと、柚子香は「それは勿論よ」と返す。


「雄大、着物は脱ぎかけだと色っぽいんだよ」


誉の一言に俺は目の色を変えて柚子香を見ると、柚子香は「雄大?嘘よね?」と恐る恐る聞いてくるが、俺は握りこぶしで「年一しかないチャンスだぞ?」と迫る。


これにドン引きの柊が「雄大ってオープンエロスだよね」と言うので、「コソコソしてたのをオープンにさせられたんだよ。お前一昨年の年末なんて、誉婆ちゃんに呼び出されて、柚子香経由でバレた好みのエロいDVDを手渡されたんだぞ」と言うと、初耳だった柊は「え…、なにそれ」と言って誉を見た。


「コソコソなんて格好悪い。柊も雄大を見習いな」

「誉お婆様?」

「檜の奴もコソコソコソコソみっともない」

思わぬ巻き込み事故に、親父さんはビクついて周りのヒソヒソ声がいたたまれない。


俺は話を逸らす為にも、柊に「何系が好き?」と聞いたが、ろくに見たこともない柊は「知らないよ!」と言った。

つまらなかったので、はとこの鏡月に聞くと、アイツは愚かにも姉モノで、しかも姉に攻められる系が好みだった。

それを聞いた瞬間の柚子香のドン引きと軽蔑の目が笑えてしまった。


柚子香は色っぽい脱ぎかけは撮らせてくれなかったが、心ゆくまで写真を撮らせてくれた。

こんな事なら去年の赤い奴も撮っておけば良かったと後悔をした。

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