第40話 二度目の文化祭。
柚子香の今年の文化祭の出し物は、休憩所でお茶なんかを振る舞う事になっているらしい。
「何の格好でやるんだ?」
「制服にエプロンよ」
「…給仕の格好はしないのか?」
「予算不足よ」
「くっ…、高い学費をとってるだろうにケチ臭い」
「…雄大って仕事始めてから変わったわよね?」
柚子香は不思議そうに俺を見て「格好ってそんなに大事?」と聞いてきた。
「当たり前だ!柚子香がいろんな格好をするのを見たいだろ!」
俺の返しに真っ赤になる柚子香。
「今から予算は降りないよな」
「降りないわよ」
「無念だ」
「そんな…大袈裟よ」
俺は夕飯の時、柊に「今年の文化祭は休憩所らしいが、給仕の服ではないらしい。残念無念だ。お前も制服+エプロンよりもそっちの方がいいよな?」と聞くと、ジト目の両親と誉に見られながら、柊は「巻き込まないでよ!」と言った後で、「雄大はそっちか。僕は日常にワンポイントプラスの方がいいけどね」と言ってきた。
「日常…プラス?」
俺はその事に失念していて、「くっ、まさか柊に気付かされるなんて」と俯くと、柚子香の父親が「人それぞれだよ」とコメントをしてくれる。だがそれは盛大な自爆で、「そうだね。檜は服より裸だね」と誉が言い、柚子香の母親は「あら首輪ですよね?」と言う。
やめてやってくれ。
柊は父親の好みにドン引きしてしまうし、柚子香は微妙な顔をしていた。
俺が「枯れてない証拠だよ」と場をとりなしてから、「俺は柚子香の給仕姿を見たかった」と話題を逸らすと、誉は「好きなだけきさせてあげなさい」と言ってくれた。
文化祭当日、俺は柊に「覚悟をしておけ」と言って柚子香の高校に足を踏み入れると、コレでもかと聞こえてくる絶叫。
「…雄大?」
「怖いよな。去年なんて柚子香が寝落ちしたせいで、抱きかかえて保健室まで行ったら絶叫と消せないデジタルタトゥーが残ったんだぜ」
柊はものすごい顔で「え…なにそれ怖い」と言う。
「自覚ないけど、柚子香に言わせると内春の男は、そこそこな見た目らしいから大騒ぎだそうだ」
「なんでそんなところに巻き込むんだよ!」
俺は圧を放ちながら「お前は俺1人に死んでこいと言うのか?」と聞くと、柊は「…高いからね」と言うので、夜ラーメンを約束してから柚子香の教室を目指した。
休憩所なんて銘打っていても、朝からチラホラと人は居る。
絶叫があったのでバレバレだが、俺と柊は教室に顔を出すと「柚子香、来たぞ」と声をかける。周りは俺を知っているのでそんなに驚くことはないが注目は柊に集まる。
柊を肘で小突き「ほら、お前も呼べ」と言うと、柊は真っ赤な顔で「晴子さん、来ました」と言うともう阿鼻叫喚だった。
「晴子!?」
「なんで!?」
「イケメンくんが渋谷さん!?」
「ズルい!」
「あんな子に名前を呼ばれたい!」
「晴子に生まれてきたかった!」
もう無茶苦茶な中、柚子香は「雄大!早かったわね!」と駆け寄ってきて、俺も自然と柚子香の肩に手を回して、「まあな。制服エプロンが見たかった。似合ってるぞ」と挨拶をするとまた絶叫。
だがそれ以上に注目は柊と渋谷晴子に集まっていて、柊と渋谷晴子は「ごめんなさい。悪目立ちですよね?」、「ううん。柊さんこそ受験があるのにごめんなさい」と初々しい事をやっている。
「柚子香、何時まで?」
「11時、まだ後20分はあるわ」
「じゃあ休憩してていい?」
「ええ、お茶を出すわ」
俺はローチェアに通されて、のんびり座りながら柚子香を待つと、柚子香はお盆にお茶を乗せて持ってくる。柚子香は「はいお待たせ」と言って渡してくるが、俺はそれを見て黙ってしまうと「どうしたの?」と聞いてきた。
「俺、柚子香の淹れたお茶を飲んだことがない気がする」
「え?」
俺は「家だといつもおばさんか柊がやってる」と漏らすと、渋谷晴子にお茶を貰っている柊が、「僕は雄大にやらされてるだけだよ!」と口を挟んでくる。
気まずそうな顔の柚子香。家事は手伝うがお茶は淹れない何かあるのかもしれないが、柚子香はお茶を淹れないという事実は残っている。
俺が「柚子香?」と聞くと、照れくさそうに「帰ったら淹れてあげるわよ」と言うので、「珈琲は?」と聞き返すと「淹れてあげる」と言う。これは久しぶりにいじれると思い「紅茶」とだけ言うと、柚子香は「なんでも淹れてあげるわよ!今までやらなくて悪かったわ!」と言った。
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