第37話 看病。
明け方、柚子香の奴は盛大な二日酔いに悲鳴をあげた。
本人は必死だが、父親は「あんな少量で?」と首を傾げる。
とにかく頭が痛くて目が回って気持ち悪いと言うので、俺はスポーツドリンクを買ってきて母親が早い朝食だがお粥を作る。
柚子香に朝食を食べさせると、朝早くからお粥を作った母親に「ごめんなさい叔母様」と柚子香は謝るが、俺は「それよりも酔った時の痴態の方が余程ごめんなさいだ」と言い、スポーツドリンクを飲ませながら柚子香のスマホに入っている歯磨き痴態や俺のスマホに入れた新作ムービーを見せると、柚子香は「に゛ゃ!?」と言って真っ赤になって慌てた所で頭痛と吐き気に苦しむ。
恥ずかしさでお湯が沸かせそうな程に赤くなった柚子香の頭を撫でながら、「俺の新作。サイコーだよな」と言って身体を擦り付ける柚子香を見ると、柚子香は「恥ずかしい」と言って小さくなる。
添い寝をしてあやしながら柚子香を寝かしつけた俺は誉に電話をする。
「なんだい?トラブルかい?」
「おお、大正解だよ」
「それにしては声が楽しそうだね?」
「ああ、柚子香が試供品のお酒を貰って、小皿くらいを舐めたら泥酔して今は二日酔いで苦しんでるから、酷いようならもう一泊させていいよね?」
「やれやれ。仕方のない子だね。まあ雄大が楽しそうだから良いけどアンタ明日は仕事だろ?」
「だからウチでのんびりさせるよ。まあ帰りたがったら帰すけど、お見送りとお出迎えって憧れるしね」
誉は呆れながら「まったく、まあよろしくやっておくれ」と言って電話を切る。
俺は朝食を食べて部屋に戻って少しすると柚子香は目を覚ました。
起きようとする柚子香を制止して、額の汗を拭いてやりながらスポーツドリンクを出して飲ませる。
「今スマホで調べたら水分摂った方がいいみたいだから、また買ってくる」と言うと、申し訳なさそうに「起きられる」と言うが、とてもそうは見えないので「寝とけ。俺は宿題やるし柚子香も夢が叶ったじゃないか」と言ってから、「看病だぜ?」と言うと、柚子香は「看病…」と小さく言って喜んでから「いいの?」と聞いてくる。
「最終日がこれで良いかって事か?いいぞ。後は誉婆ちゃんの許可は取ったから起きるのが辛かったらもう一泊してくれ」
「え?でも雄大は明日仕事…」
「おう。だから退屈が嫌なら今晩連れて行くけど、平気なら明日行ってらっしゃいとお帰りなさいをやってくれよ」
柚子香は黙ってしまい、柚子香にも予定がある場合を考えて「ごめん。予定あったか?」と聞くと、「ううん。嬉しいの。居ていい?」と聞き返してきた。
「おう。だから今日は看病されとけ。俺は受験生だから宿題をやる。明日バイトから帰ってきたらやる所だから、今片せば明日は柚子香と居られるしな」
「雄大…。ごめんなさい。後…ありがとう」
俺は柚子香を見ながら微笑んでしまうと、このまま何時間でもこうして過ごしてしまうので心を鬼にして宿題に向かう。
柚子香は多少マシになったのだろう。
横にはなるが眠る感じではなくスマホを触っている。
「目は回らないのか?」
「うん。平気。昨日の私は迷惑だった?」
「まあ楽しかったよ。けど声量だけは大きくて母さんが心配してたかな?」
「やだ…叔母様に謝らないと」
「でも柚子香はお母様って呼んでて母さんも満更じゃなかったよ」
「え!?そんな事まで言ってたの?」
「ああ。まあでも柚子香の調子が悪くなるから酒はやめような」
「うん…。でも…」
「でも?」
「看病して貰えると思うと嬉しいかな…」
コイツはどうしてこう俺を喜ばせるんだ。
宿題が手につかなくなる!
俺は「まったく」と言って誤魔化すと必死に宿題を終わらせる。
その頃には柚子香は二度寝していて、起きると二日酔いはだいぶ落ち着いていて立ち上がれるようになっていた。
柚子香は悪い事をしたと言って母親の手伝いをしてくれて、4人で少し遅めの昼飯を食べた。
午後は柚子香を連れ出せないので、サブスクで渋谷晴子オススメのアクション映画を2人で観て過ごす。
もうお色気シーンで気まずくなることも無くなったが映画館ではない事もあって「雄大、私達も」と言われると、映画さながらのキスを交わしてしまう。
途中からはキスしたさに映画を見ている気がする。俺はそんな映画がハッピーエンドで終わり、エンディングも終わると「なあ」と声をかける。
「なに?」
「夏はどこに行こうか?前に言った海もいいけど、他にもどこか行きたいよな」
「ええ。何処でも嬉しいわ」
お互いに分かり切った会話をしてから「考えておくよ。柚子香もリクエストしてくれよな」と言ってスマホを取り出して、「柚子香」と声をかけてから写真を撮ると、写真の中の柚子香は穏やかな顔をして俺に微笑みかけている。
「雄大。これからもこの日々が続いてくれるわよね?」
「どうした?」
「幸せすぎてどうにかなってしまいそうなのよ」
「幸せなのはいい事さ。俺はもう柚子香から離れないからずっと居てくれ」
本当に何時間も飽きずに2人で居る。
それはこれからも変わらない。
会えない時間があるから会えた時が嬉しいのもわかるが、俺は何時間一緒にいても変わらない。
それどころかもっと一緒にいたくなる。
それは柚子香も同じだろう。
翌日のバイトは楽しすぎた。
柚子香の見送りでテンションが上がり、帰りも柚子香が待つと思えたら張り切れた。
社員から「張り切ってるねー」と声をかけられて、「今日は婚約者が家で待ってますからね」と言うと、「おお、いいねぇ」と言って応援してくれた。
帰りは足取りも軽く家に着くと柚子香が玄関まで駆けてきてくれた。
母親とだいぶ仲良くなった様子で「これからも雄大が仕事に行っていても待たせて貰えるわ」と喜んでいた。
「それは良かった」と喜ぶ俺を見て、母親は「普段は大きな声で、ただいまなんて言わないのに」と言って、柚子香が「そうなんですか?」と聞き返して2人して嬉しそうに笑っていた。
「柚子香、送るから帰ろうぜ」
「…そうよね。帰らないとダメよね」
「延長した分の説明を誉婆ちゃんにしないと困るだろ?」
「うん。わかった」
柚子香は怯えたものの、誉はニコニコと柚子香を出迎えて、「経験は大事だよ。次はもっとうまくやりな」と言ってくれた。
その誉は死にかけた。
別に病気でも餅をひっかけた訳でもない。
「雄大、酔っ払った柚子香の写真はないのかい?」
「あるよ」
俺は柚子香に送らせた泥酔映像からあの歯磨き動画を出すと、俺に歯磨きをさせてニコニコと喜び、一人称を柚子香にする柚子香を見て親バカの顔で幸せそうに見ていたが、俺の歯をやると言い、喉ちんこを破壊しにきた瞬間に、誉はひーひー言いながら笑って「柚子香、ひひ、あはは。雄大…オゲェ。って…。ぼえぇ…って」と言うとお腹痛いと言って笑っていた。
最後には「死ぬ。ダメだ死んじゃう」と言ってしまうほどで、俺は「酷え婆ちゃんだ」と言っておいた。
柊は受験のストレスをどうにかしたいと言って、歯磨き動画、主に俺の苦しむ部分をゲットして、「ありがとう雄大。これで頑張れる」と言いやがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます