第32話 チョコレートも…。
二月といえばバレンタインデーがある。
バレンタインデーといえば、俺はつい自分だけのチョコレートを期待してしまう。
俺はあの旅行から更におかしくなった自覚があって、我慢の限界を迎えると1人でするわけだが、「やっぱりお兄ちゃんがスキ」では出来なくなっていた。
勃つし興奮もする。
だが目の前の映像に何の魅力も感じない。
そんなものよりも、あの日見て触れた柚子香を思うと、それだけであっという間に果ててしまう。
いずれ迎えるその日を想うと、柚子香の前に立っただけで果てそうな自分がいて、何とかしなければと思っていた。
今年のバレンタインデーは平日で会えなかったので、柚子香は次の土曜日に湯煎で指先を火傷しながらチョコレートを作ってくれていた。
呼ばれた俺は飛んで柚子香の元に行き、皿に盛られた生チョコをこれでもかと写真を撮る。
「早く食べて感想を聞かせてよ」
「いや、もう少し愛でさせてくれ」
俺は興奮しながら「柚子香、持ってくれ」と言って持たせると写真に収めて、「待ち受けだな」と言って設定するが、すぐに「まずい。これは何時間でも見れるやつだ。勉強が手につかなくなる。待ち受けなんていつでも見られる奴ではなく、ご褒美にしないとダメだな」と言って、千葉で撮ってきた海の写真に戻す。
「早く食べてよ!」
「…勿体無い」
柚子香は真っ赤になって「食べて!」と言うと、柚子香の部屋がノックされて、柊が顔を出すと「雄大、早く食べてあげなよ」と言う。
その柊にはニキビが出来ていた。
俺はおでこを指差して「珍しいな、夜中ラーメンやってるのか?」と聞くと、「雄大?怒るよ?」と睨まれる。
「え?」
「そのチョコは美味しいよ。人体実験を経て生まれたチョコだからね」
柊は恨めしそうに扉を閉めながら、「僕はチョコが嫌いになりそうだよ」と捨て台詞を吐いていた。
つまり完璧主義者の柚子香は、俺の為に柊という犠牲を払って試行錯誤してくれていた訳だった。
柊の登場で部屋の空気が重苦しくなったのだが、柚子香は知った事ではなく、「ほら食べてよ!」とせっついてくるので、俺はチョコに手を合わせてからひと口食べると程よい甘さに驚いた。
思わず「う…うまい」と言ってしまうと、柚子香はほっとした顔で「よかったぁ」と言った。
俺はその顔も写真に撮りながら、「でも困るんだよなぁ」と言って次のチョコに手を伸ばす。
「困る?」
「チョコも市販品とか店売りとか食べられなくなりそう。柚子香の手作りしか美味しいって思えなかったらどうしよう」
止まらずに食べる俺を見て、本当に美味しい事がわかって喜ぶ柚子香は、変な顔で「チョコも?」と聞いてくる。
俺はあっちの話はしないで「とりあえずチョコは問題だなぁ」と言いながら、手が止まらずにチョコをモリモリと食べてしまう。
「また作ってくれるか?」
「うん。雄大に頼まれたら作るわ」
この後はお決まりコースで柚子香に泊まるように言われて泊まる。
もう帰る気は無くて、帰っていいと言われたら「え?」と聞き返してしまうだろう。
夕食時によく見ると、人体実験の被害者は柊だけではなかった。
唖然とする俺に、柊が「一号の甘くない茶色い塊を残さず食べたのがお父さん。甘すぎる二号と、ほぼ完成系の五号を食べたのが僕。お母さんはうすら甘い三号で、誉お婆様がダマの残っていた四号ね」と説明すると、最早ニキビではなく吹き出物と呼ばれる物が左頬に出来た誉が、「美味しかったかい?」と聞いてきた。
「そりゃあもう。市販品とか食べられなくなりそうなほど」
「良かったねぇ。アンタの喜びには、私たちの犠牲がある事を忘れるんじゃないよ」
肝に銘じますと返事をした俺は、柚子香と早々と布団に入り柚子香は写真を増やす。
「あれ?そう言えばフォトブック作りは終わったのか?」
「うん。早くしないと写真が増え続けるから少し妥協したわ」
「出来上がりを楽しみにしてる」
「うん」
柚子香はニコニコと2冊目を作らなきゃと言って、2冊目は1月くらいまで入るだろうと話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます