第31話 混浴。

問題は食事の後だった。

柚子香に「この部屋のお風呂なのよね?…ふ…2人で入らない?」と言われた。


確かに昼間「練習」と聞いて期待したので、何となく覚悟はあったし、この機会をみすみす逃したくなかった。


俺は震える声で「我慢聞かなくなったら止めてくれるか?」と聞くと、「私はいいんだよ?」と返ってくる。


「ダメだ。それこそ自活も出来ない子供がここでしたら、一生内春から柚子香を連れ出せなくなる」

俺の言葉にようやく柚子香は「うん。止める。逆に私が止まらなくなったら止めてね」と言ってくれたので、俺も頷くと2人で風呂に入ることになった。

だが流石に洗うところとかはお互いに見せられないので、柚子香が先に入って洗ったら湯船で俺を待つ。俺が入ったら2人で湯船で過ごして、柚子香が出たら俺は洗ってから出る話になった。


俺は一分一秒がこんなにも長く感じたことはなかった。


柚子香がシャワーを使う音が聞こえる度に生唾を飲んでしまう。

暫くして「お待たせ。来て」と言われた俺は緊張しながら風呂に行く。


脳内はこんな事ならもう一度爪を切ってくれば良かった。もっと身体を絞って格好いい姿でくれば良かった。幻滅されたらどうしようとそんなことばかりを考えていた。

だがそんな考えは浴室の扉を開けるまでだった。


柚子香は湯船の中で小さくなっていた。

目はつい胸元に行ってしまい慌てて視線を戻す。


俺の視線に気付いた柚子香が、「恥ずかしいから早く来て」と言うので、俺は「お…おう」と上ずった声でシャワーに手を伸ばした。


シャワーは熱かったが、気にならずに浴びて「入るぞ」と言ってから湯船に浸かる。2人で入るとお湯が大量に溢れてしまうが、なんかその音すら心地よかった。

俺は柚子香を後ろから抱き寄せると、普段以上の柔らかさと細さに驚いた。


「な…なにか喋ってよ」

「綺麗だ…。柔らかくて細くて…」


「えぇ!?雄大?」

「ごめん。俺はゴツゴツしてて触り心地なんて良くないかも」


「そ…そんな事ないわ」

「ごめん。触っていたい。いいか?」


俺は手を止められなかった。

背後から抱きしめて柚子香の腕や足を触ると、柚子香は手を取って胸元に誘導していく。

俺はもう震えていた。

震えていたが止まらずに手は柚子香を触り続けていた。


「痛くないか?力加減がわからない。壊れてしまいそうで、それなのに手が止まらないんだ」

「うん。痛くない。もっと触って」


暫く触ると、柚子香は俺の方を見て部屋でするように俺の上に座るとキスをしてきた。


止まらなかった。

だがこのまま行ったら確実に止まらなくなる。

柚子香の息遣いも変わってきた。


俺が慌てて「ここまでにしよう」と言って柚子香を止めると、「止まりたくない」と囁かれたが「自活の為だからわかって」と頼んで終わらせた。


不満げに「ばか。言わなきゃバレないのに」と言う柚子香に、「俺は不器用だから隠し通せないんだよ。間違いなく婆ちゃんに見破られるよ」と言って終わらせたものの、俺も柚子香も未練たらたらで「名残惜しい」と漏らしていた。

心の何処かでワンチャン何か仕方ない出来事に見舞われないかと思っていたが、それは起きずに2人して不満顔で写真を撮って笑ってしまった。


後は何も起きなかった。

朝まで寄り添って眠って、朝日の中で目を覚まして2人で微笑み合う。

恥ずかしさより欲望が勝って2人でシャワーを浴びて俺はつい柚子香をガン見して、「そんなに見たいなら昨日我慢しなければいいのに」と呆れられた。

2人で朝食を食べてチェックアウトを済ませると、絡まれるのは面倒くさいのでさっさと帰る。


誉からは早かった事を驚かれたが、柚子香がナンパ男にしつこくされて撃退してしまった事で逆恨みされてそうで、リスク回避の目的で早く帰ってきたことを説明すると「よくやった」と言われる。


「当然だよ。柚子香はあんなに細くて柔らかいから守らないとさ」

俺の返答に、誉が「おや?」と言って俺を見るが、何のことか分からずに「誉婆ちゃん?」と聞き返す。


「何で柚子香が細くて柔らかい事を知ってるんだい?」

「え…」

俺は真っ青になった。

そして横で柚子香は「これか」という顔をしている。


そうですこれです。


「曾孫に会えそうだね」

「してない!してない!風呂上がりの姿を見ただけ!」


誉は笑うと「正直もんだね。ほら、領収書を見せな」と言った。

俺は収支を書いた紙だけ見せて「精算はいらないよ」と言うと、「自活の一部。俺の稼ぎだけで、柚子香を楽しませたかったんだ」とドヤ顔をする。


「やっぱり曾孫にはもうすぐ会えるかね」と嬉しそうに言った誉は、柚子香に「楽しかったかい?」と聞き、「写真を見せておくれよ」と言った。


写真…。

見せるんだよな。


結構際どい写真もあるのになぁ。


不満顔を見て「2人揃ってこんな顔をするなら、我慢なんてしなきゃいいのに」と笑う誉に、「自活してないのにしたら、柚子香を幸せにできないからだよ」と言うと、誉は「柚子香。言うまでもないが死守するんだよ。お前の初めては雄大だよ」と言った。


俺はあの細くて柔らかい姿を思い浮かべてしまい、あれが俺のものになると思ったらどうにかなってしまいそうだった。

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