第29話 柚子香のルーティン。

俺も眠いし柚子香も眠い。

俺は柚子香を抱きしめて「布団に行こう」と誘うと、柚子香はわかったと言って布団に入る。そして俺を力一杯抱きしめて「居なくならないでね」と言ってきた。


「もう俺は柚子香無しじゃ生きられないから、いなくならない」


その言葉に震える柚子香にキスをして、「苦しかったら言ってくれ」と言ってからキスを再開し、力一杯抱きしめる。


柚子香は息継ぎの度に、少し苦しそうに何度も俺の名を呼んでくれる。

俺も負けないように何度も名前を呼ぶ。

そして2人して気絶するように眠り、眠りが浅くなると柚子香は俺に抱きつき、俺は柚子香を抱き寄せて眠る。


そして朝にはノックをしても起きない俺達を起こしにきた柊が、真っ赤な顔で「何度見ても照れる」と文句を言いながら俺たちを起こす。


俺達は人目に触れるギリギリまで手を繋いでいて、身だしなみを整えると食卓につく。


誉が「今日の柚子香は顔色がいいね」と言って、「キチンと眠れたかい?」と聞くと柚子香は「はい。嫌な夢も見ませんでした」と返す。


「え?夜とかそんなに眠れてないのか?」

「寝るけど嫌な夢で目が覚めちゃうし、何度寝ても嫌な夢を見るのよ」

俺は新事実に「はぁぁぁ…」とため息をつくと、「なんか気が紛れるようなの考えないとな」と言う。


「雄大?」

「キチンと寝ないと会えないとかなら、気負って眠れなくなるだろ?そんなの意味がない。何かをしたらじゃなくて、俺が柚子香に何かを、気の紛れるようなのを考えればいいんだ」


柚子香が「考えてくれるの?」と聞いてくるので、俺が頷いて「考えるよ」と言うと、誉が意地悪く「なんでだい?」と聞いてきたので、「決まってるよ。婚約者だからだよ」と答える。


「へぇ。でもそこまで考えるのは雄大だけじゃないかい?」

「それって鏡月とか白鷹のこと言ってんの?だからアイツらはダメなんだよ。柚子香の尻に敷かれたくて、柚子香を支えるなんて口だけで、支える時にも「柚子香さん。どうします?」なんて言うって」


「ならアンタはそんな真似をしないって言うんだね?」

「しないよ。それこそが俺がキチンと考える婚約者だから、気軽に婚約なんて口にしても良いものじゃない」


「ふふふ。良かったじゃないか柚子香。柚子香はそこまでの相手だってさ」

「ふぇっ!?お婆様!?」


「あれ?柚子香って俺の気持ち伝わってない人?」

「なんだい。雄大も口だけじゃないか。だらしないねぇ。柚子香、雄大をやめとくかい?」


柚子香は俺と誉に言われて「え!?えぇ!?雄大!?お婆様?」と慌てると、「雄大の気持ちは貰ってるわ!」と返し、誉にも「やめません!」と言う。


柊が「姉さん、誉お婆様と雄大に弄られてるんだよ」と呆れながらトーストを齧る。


目を白黒させえ「え!?えぇ!?」と慌てる柚子香を見て、「柊はネタバレが早いな。折角の誉婆ちゃんと柚子香の仲良しタイムなのに邪魔するのか?」と言うと、誉も「柚子香の顔が明るくなったから楽しんでるのさ」と言って笑う。


柚子香は真っ赤な顔で「遊ばないでください!」と言うと皆が穏やかに笑う。

だがここで終わらせると良くない。

俺は柚子香に「柚子香、俺の気持ちって本当に貰ってくれてるか?」と聞く。


「貰ってるわよ!」

「そうか…足りているか?」


「え?」

「え?って、足りているか?」


「雄大?」

「俺はまだまだ渡し足りないぞ」


「え?本当?」

「本当だ。貰ってくれるか?」


「え!?」

「ここで言ってくれ」


柚子香はまた目を白黒させて頬を染めると、周りを見て照れながら「もっと欲しい」と言ったので、俺は頷いて「よし。じゃあもっと本気出すかな」と言う。


「おや、学校行って、仕事行って、柚子香の相手をしてもまだ本気じゃないのかい?」

「俺の本気はまだまだだよ。柚子香が胸焼けしないか心配だったしね。あれ?もしかして誉婆ちゃんは俺の本気を見誤ってた?それとも見てみたいのかな?」


「ああ。口だけじゃないところを見せてみな」

「じゃあ柚子香だ」


柚子香は処理不能の顔で俺と誉を交互に見ているだけで、急に名前を呼ばれて慌てて俺を見る。


「俺が本気になるには、柚子香が受け止めてくれないとダメだから、全部受け止めてくれよな」

柚子香は真っ赤になってそれだけで目に涙を溜めていて、このやり取りだけで普段の生活で参ってるのがわかる。


「誉婆ちゃん達の前で言うと結婚みたいだな」とふざけると、柚子香は「結婚…」と聞き返してくる。


「本気になるってのはそう言う事だろ?」

柚子香は声を震わせて「うん。全部欲しい。それでも足りないって言うから、ずっと頂戴」と言って涙をこぼすと、誉が「泣き虫だねぇ。今まで泣かなかった分かね」と言ってお茶を啜り、「さっさと食べて甘えておいで」と柚子香に言った。



俺は柚子香の気が紛れるものとしてノートを一冊渡す。


「ノート?」

「好きなところに、好きなだけ俺としたい事を書いてくれ。重複とか字の綺麗さとか気にしないで書いてくれよな。俺が見て実現不可能なものにはバツ印をつける。ただ書くのは寝る前じゃないからな。寝る前は俺としたい事を考える時間だからな」


「え?そうなの?」

「そうだよ。考えながら眠れば嫌な夢を見なくなるさ」


俺の提案に柚子香の奴は「え?そんな幸せな事を考えて眠っていいの?」と聞いてきた。


「柚子香?お前、寝る前って何考えてんの?」

「学校の事よ」


はぁぁぁ…。

そうだった。

柚子香は勉強の出来る馬鹿だった。


今の柚子香がそんなこと考えて眠ったら、嫌な夢を見るに決まってる。


「これからは俺のことを考えて寝てくれよな」と言うと、柚子香は「嬉しい」と言って抱きついてきた。

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