第27話 柚子香と誉。

誉に渡す写真をプリントした後は長引いた。今まで2人で撮った写真から、何枚かプリントしたいと柚子香が言い出したが、どうやっても何枚は不可能で何十枚レベルで困ってしまう。

プリントをすればアルバムも必要になる。


「柚子香、部屋に置いたらいくら置いても足りないし、置く場所無くなるぞ?」

「うぅ…。でも欲しいの!」


唸る柚子香を見て、女性の店員さんが「ならフォトブックを作ったらどうかしら?」と話かけてきた。


そしてパンフレットを渡してくれながら、「スマホのアプリで作れるんですよ」と教えてくれる。


柚子香は本気で店員さんに感謝をすると、俺に「頑張って作るね!」と言ってくる。


「頑張ると風邪引くから程々にしろよ?」

「わかってるわよ…。風邪引いても看病に来てくれないなら引けないもの」


アレは本気になる前の言葉だが、柚子香は本気にしていた。

その申し訳なさや自分の失言に苛立ちながら、「誉婆ちゃん達がいいと言ったら行く。だが頼むから風邪なんて引くなよな」と言って柚子香の頭を撫でると、「本当!?」と弾ける笑顔で聞いてきた。


「聞いていたか?風邪引くなよな」

「わかってるわよぉ」


俺は甘える柚子香を連れて百均に行く。誉は文句を言うだろうが、俺の稼ぎならこうなる。

百均で少し大きめの写真に対応したフォトフレームを買って納めると、柚子香は「安物って言われないかしら?」と心配した。


「なら自分で買うように言うさ。俺の自活じゃこれが限界だ」

「そうね。雄大といて良かった、背伸びをしない。肩肘を張らない。大切な事を学べてる」


「だろ?だからこれからも居てくれよな?」

「居ていいの?」


「当たり前だろ?」

「うん」


俺達は柊からの「出前頼んだからもう帰ってきてよ」のメッセージで家に戻る。

寿司より俺たちの方が早かったので、柚子香と誉の所に顔を出すと、柚子香は「お婆様、雄大が用意してくれたの。私から渡すようにって…」と言って安物の額に入った写真を渡すと、誉は驚いた顔をした後で写真を見て「あら……。よく撮れてる。雄大にはこんな才能もあったのかい?」と言って嬉しそうに俺と柚子香を見た。


「よく見えるのは、被写体がいいからだよ」

「まあそれはそうさ。それを抜かしてもいい写真だよ」


嬉しそうな誉を見て本当に嬉しそうな顔をする柚子香。


誉は柚子香と写真を見て「それに私は、まだこんな笑顔が出来たんだね」と言う。


「誉婆ちゃん?」

「お婆様?」


「なんだい?私が生まれつきこの顔だとでも言いたいのかい?確かに内春だから舐められないように生きてきたけど、若い頃は好きになった人に「たまに見せる君の笑顔が素敵だよ」なんて言われたもんさ」

「それって…」

「お爺様?」


「違うわよ。好きになった人は、よく言えば力強く雄々しい人。でもそれだけに脛に傷のある人でね。いくらなんでも内春はそれを認めない。だから私は泣く泣く内春として諦めて、お父様の用意した人と結ばれたのさ。穏やかで知的で優しい人。長子を立てる我が家の雰囲気にも異を唱えないで、私を立ててくれて、疲れた時には誰も見ていないところで優しく癒してくれたいい人よ」


誉は懐かしむように、そして後悔を滲ませる様に言ったところで、「雄大、柚子香を幸せにしてくれるかい?」と聞いてきた。


俺が「勿論。当然のことだよ」と言うと、誉は嬉しそうに「柚子香、あんたの審美眼は見事だね。まあやり方を間違えて、あの日は遠回りをしてしまったね」と言った後で、優しく微笑んで「雄大なら安心だ。幸せになりなさい」と言い、柚子香は声を上げて泣いて誉に抱きついていた。


寿司の出前は到着していたが、言い出せずにいたと柊が困りつつもちゃっかり覗いていて、食事の時に「雄大、勉強になる。ありがとう」と言っていたので、「何がだよ」と聞いたら「内春の主役は女だと思っていたけど、男も主役だってわかったんだ」と言っていた。


真面目な姉弟だな。

俺は「そう思うなら、それでいいんじゃない?」と言っておいた。

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