第26話 柚子香と写真屋へ。
筋を通す事について今まで以上に意識をした。
会えれば1番だが、難しければ先に誉に電話をして、誉の許可を取り付けるようにした。
誉の奴は揶揄うように、「黙って行くことも出来るのに、キチンと言うなんてお小遣い目当てかい?」なんて言ってくるが、俺は「違うよ。もう子供じゃないからね。柚子香の為でもある。俺なら平気でも、柚子香は耐えられない」と言うと、誉は満足そうに「わかった。怪我をするな。怪我をさせるな」と言った後で、柚子香のように穏やかな顔で、「私だって悪魔じゃない。柚子香を心配している祖母なんだ。柚子香の元気がないのが気になるから、よろしくやっておくれ」と言ってくる。
「誉婆ちゃん?」
「あの顔を見たら、正解について悩むようになったのさ」
俺は変わったのだろう。
今までだったら嫌味の一つも言う。
「だから内春なんていらないんだ!」
「柚子香を解放しろ!」
これくらい言ってやりたい。
だが俺は何も言わずに黙ると、誉は驚いた顔で俺を見て、「驚いたね。雄大なら鬼の首でも取った顔で、文句の一つも言ってくると思ったのにね」と言ってくる。
「子供じゃないんだ。言わないよ。自活したら柚子香を連れて行く。その約束を反故にされなきな何も言わないよ」
「こりゃ参ったね。小遣い増やしてやんなきゃね」
こんな会話をしていると柚子香が学校から帰ってきて、玄関で俺の靴に気づくと「雄大!来てるの!?」と言って家の中に飛び込んでくる。
その物音に「まったくはしたない」と言う誉に、「嬉しい時でも肩肘張るなんて可愛くないよ」と返す俺。
俺と誉が笑っていると、ノックをして誉の返事も待たずに、「入ります!」と言った柚子香は、部屋に入って誉にただいまも言わずに「雄大!」と俺を呼ぶ。
「おう。お帰り。誉婆ちゃんにただいまを先に言えって」
柚子香は真っ赤な顔で慌てて、「お婆様ただいま帰りました」と挨拶すると、誉は「はい。お帰りなさい」と言った。
俺は笑顔の柚子香と誉のツーショットを撮ると、「珍しいから撮った。柚子香、元気ある?」と聞く。
「雄大?」
「写真プリント行かないか?」
柚子香は嬉しそうに「行きたい!」と言ったので、「じゃあ誉婆ちゃん、柚子香と出かけてくる」と断りを入れると、「はい。わかりましたよ。お夕飯までには帰ってきなさい。雄大、お寿司にしてあげるから食べていきな」と言った。
「いいの?」
「柚子香が痩せた気もするし、雄大も頬がこけた気がするから、ご馳走してあげるわよ」
柚子香はそれだけで嬉しそうにするので、俺も気持ちよく柚子香と「やったな」と言って、着替えるのを待ってから外に出かけた。
2月の外は寒い。
自然と手を繋ぎ腕を組む。
「会えて嬉しいけど仕事は?」
「お休み。キチンと知らなかったけど、親に面倒を見てもらっている間は、年間に103万以上稼ぐと良くないらしくて、社員さんが止めてくれたんだ。だから先月より働く日数が減ったから会いにきたんだ」
何も知らない俺達は、多分同級生達なら知っている事も知らずにいた。
稼げるだけ稼いで柚子香を連れ出せる男になりたかったのだが、世の中はそんなに甘くはなかった。
柚子香は「会える時間が増えて嬉しい」と言って俺の肩に頭を乗せてくるので、「俺もだ。早く柚子香を内春から出してやりたいけど、今の俺にはまだ限界があった事がわかったよ。悔しいけど誉婆ちゃんに感謝だ」と言って、柚子香の重さを感じながら歩く。
写真プリントの店に着くと、店員さんから機械の使い方を聞いて、少し大きめに柚子香と誉の写真をプリントして、「柚子香から渡してやりなよ」と言う。
「雄大?」
「前に言ってたろ。鈍行列車に乗って何もない旅行に行く奴。あれを誉婆ちゃんが許可してくれたよ」
「え?」と聞き返す柚子香に「だから御礼と一緒に渡してやりなよ」と言うと、柚子香は「うん!」と言って喜んでいた。
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