本気になった内春雄大。
第23話 年越しの柚子香。年明けの柚子香。
内春家の正月はホテルを借りて一族で集まって新年を祝う。
逃れられる方法は喪中しかない。
誉達やうちの親達は前乗りをしてホテルに一泊するが、俺と柚子香は家で過ごして朝一番でホテルに向かう形になっていた。
休み前に話を聞いた時はなんであれ嫌だった。
ホテルに入るまでしか自由のない状況が嫌で逃げ出したかったし、あの時は柚子香と居るのが苦痛だった。
だが今は待ち遠しくて柚子香を迎えに行った程だった。
柚子香も俺を待っていて、俺の変化を受け入れた柊から、「遅刻厳禁。2人で逃げ出さないでよ」と言われてしまった。
「わかってる。朝8時に向こうに着けばいいんだろ?柚子香の着付けの時間は考えてる」
俺は誉達を見送るとすぐに家に入って、「雄大会いたかった」、「俺もだ」と言って抱きしめ合う。
その後は柚子香とカウントダウンをしながら食事を摂って、大体1時間おきに時計の前で2人で写真を撮る。
笑顔でキスを交わし、近所の散策をし、その後は2人で昼寝をして夜は年を越す。
柚子香の憧れはキスをしたまま年を越す事で、それをしてから初詣に出かけた。
その後はうたた寝を繰り返して、2人で初日の出を見てから誉達の待つホテルへと向かった。
電車の中は初詣やら、初日の出を見た帰りの奴らが沢山いて、そこに混ざって電車に乗る。
正月の朝だと言うのに電車の中は混んでいて現実味がない。
俺は目的地が近づくたびに嫌な気持ちになって、「行きたくねぇ」と漏らすと、柚子香は「ふふ。私も。このまま遠くに行きたい」と言う。
「行くか?」
「ありがとう。でも私は内春だから行かなきゃ」
少し早く着いたが、時間ギリギリまで引き延ばしながらホテルに入る。
入り口の【内春家ご一同様歓迎】の文字が憎らしい。
「さあ、行きましょう雄大」
「そうだな」
柊の奴は手持ち無沙汰だったのだろう。ロビーで俺達を待っていて、「良かった。来てくれた」と言ってきた。
「どした?」
「誉お婆様が、駆け落ちしたりしてなんて言ってたから、怖くなったんだよ」
「そうか。したら柊は怒ったか?」
「怒るというか、祝福はするけど僕にはどこに行くか教えて欲しい」
それを聞いた柚子香が、穏やかな顔で「ありがとう柊」と言うと柊は赤くなる。
これだけで柚子香が変わったことがわかり、俺は気分が良くなる。
柚子香は柊に誉達の部屋を聞くと、「じゃあ着替えてくるわ」と言ってエレベーターに向かって行くので、俺は「おう」と言って柚子香を見送った。
この日、俺が柚子香を笑顔で見送ったのはコレが最後だった。
一族連中の集まる中、席順がそのまま序列になっている。
ウチは去年より数段上に位置していて、両親はホクホクで周りからのごますりと妬みを受けてニコニコしている。
ハトコで柚子香狙いの鏡月は早速睨みつけて来ているが知ったことではない。
俺は手持ち無沙汰で、最近の写真共を見ながら柊と話していると誉と柚子香の母親と柚子香が入ってくる。
そこにいた柚子香は俺の嫌いな柚子香だった。
キツい表情がよく似合う、赤くドギツイ振袖に濃い目の化粧。髪は着物用に結っていて人形みたいだった。
誉は上座に座ると「皆、あけましておめでとう」と言い、横に柚子香の母親と柚子香が座ると、誉は「乾杯の前に一つ。皆は聞いているが、柚子香が響の孫の雄大と婚約をした」と言う。
俺はそれだけで胃がひっくり返りそうな気分でムカムカしてくる。
クソくだらない祝福の声。鏡月のように睨んでくる輩。
クソうざくてコイツらを嫌っていた事を忘れていた自分のバカさ加減がキツかった。
だが何より1番キツかったのは、この直後の「雄大、来なさい」と言った柚子香の言葉だった。
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