第20話 雄大の家で過ごす夜。

俺と柚子香の事はさっさと地元を駆け巡る。

あの公園に他の元クラスメイト達が来ていたようで、俺を見つけて疑ったところに、阿部からの答え合わせで疑惑は確信に代わり更に噂が広まる。


柚子香の写真まで出回る始末で、確認のメッセージが届く度に、面倒な事になったと肩を落としていると、中学時代に密かに思いを寄せていた蒲生さんからも、「内春くんて彼女さん居たんだね。すごい綺麗な子だね」と連絡が来てしまう。


終わった。

あー…終わった。

もういいや。


蒲生さんって可愛い系で優しいフワッとしたイメージの子なんだよね。

キツくなくてさ。

内春の法事とかの翌週に会うと、それだけで癒されたんだよな。


柚子香は俺の部屋で、俺がかけたラジオを聴きながら俺の膝の上に居る。

ちなみに母親は帰ってきた柚子香が楽しそうだった事にご機嫌で、夕飯の支度をしている。

てっきりリビングで4人ご飯かと思ったが、俺と柚子香は俺の部屋で、リビングで両親の住み分けになった。


俺の膝の上の柚子香は、テーブルに置かれたスマホを見て「すごい着信ね。充電大丈夫?」なんて無責任に聞いてくるので、俺は「誰のせいだと思ってるんだよ。柚子香が婚約者の話をするから、中学の友達からバンバンメッセージが入ってくるんだよ!さっきのイルミネーションのキスもガンガン出回って、デジタルタトゥーだぞ!」と不満を前面に出しながら言う。


「あら。このまま結婚するのだからいいじゃない」

「柚子香、お前にい男ができたら俺を捨てるくせに無責任だぞ」


柚子香は一瞬で怖い顔になると、「それ、さっきも思ったけど、なんでそんな考えするのよ?」と聞いてくるので、俺は呆れてため息混じりに、「…お前、俺はあのドーナツを見てるんだぞ?無責任に買っていらなくなったら、責任を取らずに人に押し付ける。俺もあのドーナツみたいに、いらなくなったら押し付ける…捨てるだろ?」と説明をする。


実例があるだけに柚子香には伝わっただろう。

柚子香は必死に「違う。そんな事しない!」と言い、「本当よ!信じて!私は雄大と結婚する!信じてもらうためなら何でもする。初めてだって誰でもいいんじゃない!雄大だからもらって欲しいの!」と言う。


今の柚子香の顔に嘘偽りは見えない。

だからこそ怖い。

その気持ちが上書きされた時には柚子香も困る。だからしないんだ。


それを今言ってもいい事はない。

「わかった。でも抱かない。抱くのは結婚ができる歳になった時に、柚子香に気持ちがあれば言ってくれ」

俺はその言葉で柚子香を抱きしめて、あやすように頭を撫でる。


不満気にモゾモゾとする柚子香に「少し抱かされてろ」と言って、あやし続けて落ち着いたところでキスをすると、ようやく柚子香は大人しくなった。



ウチでの生活風景は、柚子香には不満と苛立ちの連続だっただろう。

母親は内春の女らしく家事をキチンとこなす。だが俺と父親は男なので、どうしても気が利かない。食事の手伝いもするにはするが、誉の目が光る柚子香の家とは違う。

見ていられずに柚子香が手伝うと母親は喜んでいた。

風呂の順番にしても、客の柚子香が一番手で、柚子香の後に父親なのもまずいからと俺になり、父親、母親と続くと髪を乾かしたり、ケアの面から母親だけが後へ後へとなって行くことを良しとせずに苦言を呈した。


母親は「ありがとう柚子香さん」と喜び、父親は祖父の響の教えに沿っただけで、こうも言われるとはと青くなっていた。

この日だけは父親がラストに風呂に入る事になる。


だが夕食後にこの順番で風呂に入る事にはどうにも抵抗があった俺は、「柚子香、嫌じゃなきゃ先に風呂に入ってしまって、寝間着で夕飯とかどうだ?」と提案をして見た。


「雄大?」

「食べて歯を磨いたらすぐに眠れる」


俺の提案に柚子香が「…家ではやった事ない」と言うので、俺は「なら試してみろよ。嫌なら次からはしないでいい」と言ってから、「柚子香と俺だけでも先に風呂に入れば、後が楽になるから柚子香もモヤモヤしないだろ?」と聞くと、柚子香は「うん。やってみる」と言った。


俺は柚子香の寝間着を見て頭を抱えた。


「これ、誰のチョイス?」

「私が選んで誉伯母様に褒めて貰ったのよ」


母親が持ってきたのはワインレッド色をしたシルクの寝間着で、金がかかっているしどうしても16歳に着せる物じゃない。

寝間着に関しては柚子香の家の方がマシだった。

しかしまあ柚子香は感謝と共に着こなす。

そして俺は濃紺色の同じシルク生地の寝間着。

嫌でも夫婦に見えてしまった。


柚子香は夫婦寝間着に感動していて母親はご満悦で、俺としてはまた写真が増えると肩を落としてしまう。


いくらエアコンを効かせても肌寒い物は肌寒い。柚子香は母親が用意したカーディガンを羽織ると、俺の部屋で夕食を食べる。


「テレビ見るか?」

「食事中は観ないわよ」


確かに柚子香の家では誉の教えか、食事中にテレビを観ないな。

俺は普段ならテレビを観ている。

今日はクリスマス特番がやっている。…まさか両親はその為に分けたのか?

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