第15話 父のタブレットPC。

ケーキを食べると手持ち無沙汰になる。

柚子香の希望で普段着versionの写真を撮り終わると柚子香は俺にプレゼントと言って俺にスマホのケースをくれた。

それは柚子香と同じ手帳型でお揃いになる物だった。

なんかお揃いというだけで監視されている感が強いが、照れながら渡す姿には好感が持てたのでありがたく頂戴した。


「今付け替えるのか?」

「できたらそうしてよ」


やれやれと思いながら取り替えて、並べただけで赤くなる柚子香。

コイツ憧れ多いな。


普通のカップルならご馳走を食べてプレゼントも渡し合い、良い感じになってきたら次へと進むのだろうが、俺たちはカップルではない。


「この部屋はテレビが無いんだよな。リビングで特番でも観るか?」と提案すると、柚子香は「ちょっと待って」と言って机からタブレットPCを取り出す。


「どうしたそれ?」

「お父さんのよ。借りたの。晴子にオススメの映画を聞いたから観ましょう」


まあ借りたと言うか女尊男卑で奪ったんだろうな。

ご愁傷様。


そうやって他人を軽んじるのがデフォルトだから悪印象しかない。柚子香はそんな事すら気にならずにタブレットを操作する。暫くすると柚子香が「あ!?」と声を上げた。


その直後、10インチのタブレット一面に広がる18歳未満禁止のアダルトな映像。

クリスマスイブの夜に2人きりの部屋に響き渡る喘ぎ声。


柚子香は真っ赤になって小さく「あわあわ」言いながらも画面をガン見している。

あまり考えたくないが、映像が再開された場所というのはそう言う場所で、あれこれ考えさせられる。

柚子香の父親はまだ40前半。

聞けないが、おそらく内春では性の主導権も女側にあって、話し合いの余地もなく柚子香の母親のOKがなければ父親は悶々とする。それはタブレットにそういう映像が棲みつくのも致し方ない。


だがとりあえず鬱屈し過ぎだ。

磔られた裸の女がピンク色の機械で責め立てられている。

何度も体を跳ねらせて果てようとも男優は手を止めない。


このまま再生するなんてよろしくない。急いで動画を停止すると、画面には「生意気なメスガキ社員を屈服するまでわからせる上司」というタイトルがデカデカと表示された。

俺は放心している柚子香に声をかける。


「柚子香」

「……なにあれ」


「柚子香」

「女の人が縛られていたわ」


何度名前を呼んでも反応の薄い柚子香向かって、強めに「柚子香!」と声をかけると慌てて「え?」と言いながら俺を見る。


「見なかった事にするぞ」

「でもお父さんはお母さんも居て子供もいるのに不潔よ!」


言うと思ったと思いながら、「欲求は個人差があるから俺たちじゃ測れないだろ?キチンと映像で発散させているんだから悪く言うなって」と言う。


その説明で困惑する柚子香に「ご飯だって食べ足りなければ間食するだろ?コンビニで買い食いするだろ?柚子香はそれを裏切りとか言うのか?」と聞くと、「…言わないわ」と返ってきたので、「それだからいちいち騒ぐなよな」と言って本題の映画を見た。


渋谷晴子にも思うところはあったのだろう。

映画は気の強いヒロインが悪魔の一味と戦う話で、運命で結ばれた仲間達が犠牲になりながら悪魔を倒す話で、最後はヒロインと恋仲の男が愛の力で敵を倒していた。


…あのエロ動画の後ではラブシーンの時に空気が凍りつき、柚子香は小さく「こういうものよね?」「あれがおかしいのよね?」なんて言っていた。


映画が終わり片付けをしていると誉達が帰ってきた。

柚子香が微妙な顔でリビングに顔を出すと誉は俺を睨む。

俺は首を横に振ってツーショット写真を見せると、誉は満足そうに頷いて「ならあの顔はなんだい?」と聞きながら柚子香を見た。

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