第13話 柚子香と過ごすクリスマスイヴ。

あっという間の年末。

何というか、俺と柚子香は今日も婚約者として続いている。

勘弁してほしい。

そろそろ諦めるとか、嫌になるとか、あっても構わないと思うのだがそれはない。


冬休みになると、柚子香の奴も習い事が休みになり大きな休みが手に入る。

そんな中、柚子香の奴がとんでもない事を言い出して、誉の奴が了承しやがった。

終業式前にそれを聞かされた俺は、かつてないほどに過ごしたくない年末に肩を落とした。


俺が柚子香のところに一泊し、柚子香が俺のところに一泊する。

所謂連泊という奴だ。しかも大掃除を手伝うおまけ付きでだ。

パスしたくても、誉は「婚約者なんだからやりな」と言い切ってきやがる。


そしてそんなものでは済まないのが、クリスマス、年越し、元旦と、イベントの全てを柚子香と過ごす事が決まってしまった。


俺はそれを聞いてすぐに、柊に「柊、ゲーム機買って貰えよ。ずっとやろうぜ?」と持ちかけたが、「来年受験だからダメに決まってるよ。諦めなよ雄大」と言われてしまう。


諦めろ?

お前がその立場で諦められるか?


俺の問いに、柊は「…雄大?僕だってこの家の男だよ?諦めることの一つや二つや三つや四つくらいあるからね」と言われて、「ごめん」と謝ると、「頑張ろうね」と返された。



柚子香はこの前の写真から、嫌に写真を撮りたがる。

まあ俺からすれば、写真の出来栄えがそのままボーナスに直結しているので、余程でなければ受け入れる。


なのだが、「あ!雄大!」、「あじゃない」、と言う俺達の声が、柚子香の部屋で出てしまう。それは今も柚子香の奴がキスをしながら、ツーショット写真を狙っているからだった。


デジタルタトゥーを残してなるものか。


まあ柚子香はそこら辺がポンコツなので、「雄大、キスの時は目をキチンと瞑って私に集中するのよ」なんて言いながら、頬に回してくる手が片方来ない。

もうバレバレだ。

こっちが薄目を開ければ、薄目を開ける柚子香と目が合う。


こうして「あ!」と言われる。


「頬を寄せてのツーショットで我慢しておけ」

「じゃあクリスマスプレゼントはキス写真にさせてよ」


「…何が欲しい?」

「聞こえなかったの?キス写真よ」


「物は?」

「物より思い出!」


「どうしても?」

「どうしても!なんでそんなに拒否するのよ!」


俺はジト目で柚子香を見て、「学校で見せびらかすから」と言った。


「え!?」と言って驚く柚子香に、「お前、渋谷さんに見せてるだろ?柚子香の新作写真が届く時に感想文付きなんだぞ」と言う。


「それは…、内春として求められたら応じないと」と言ってモジモジとする柚子香に、「応じるな」と言うと、少し悩んでから「応じなければ、クリスマスプレゼントにキスのツーショット写真をくれる?」と聞かれて、「約束破ったら何らかのペナルティを申しつけていいならな」と返すと、柚子香は「わかったわ!」と言ってまたキスを浴びせてきた。



俺の冬休みは散々だった。

柚子香の奴は良くも悪くも真面目だ。

そして恋愛経験値は0ではなくマイナスに振り切っている。


なんとか知識を埋めようとネットを検索するが、ヨタ知識を拾ってしまい、心配になると、これまた恋愛経験値がマイナスの渋谷晴子に相談を持ちかける。

渋谷晴子のバイブルは各種映画しかなく、偏った知識を柚子香に植え付ける。


マイナスとマイナスをかけたらプラスになるなんて数学の中だけだ。

俺はクリスマスパーティに出かけた誉達の居ない家に足を踏み入れて絶望をした。


柚子香の奴はデコレーションした部屋の中で、サンタコスチュームで俺を待っていた。


ミニスカサンタのコスチュームで真っ赤になっている柚子香は、左手と右の膝を上げて「メリークリスマス!」と言って、慌てて股下を気にして慌てて右手でスカートを押さえている。


バカじゃないのか?


無言の俺に「何か言いなさいよ!」と真っ赤になる柚子香に、「何か悩みか?言え。相談しろ。俺は無理だが、誉婆ちゃんなら真剣に聞いてくれるぞ?」と言うと、「変な悩みなんて無いわ」と言われる。


「…なら風邪を引いたみたいだ。幻覚が見える。帰る」と言うと、「幻覚じゃないわよ!」と言って飛びついてくる柚子香は、「恥ずかしいの!可愛いって褒めてよ!」と言う。


その顔に普段のキツイ印象はない。

部屋に入りながら「どうしたのそれ。買ったの?」と聞くと、「晴子がクリスマスプレゼントでくれたのよ」と答えが返ってきた。


「…何16歳でそんなのやりとってるの?お嬢様学校怖え。てか柚子香は何を返したの」

「…これからよ」


「は?だってお前、今日イブ」

「晴子も物より思い出が欲しいから、この写真の私と私と雄大のツーショットが欲しいって言われたの」


「…はぁぁぁぁ?」

「嘘じゃないわよ!見てよ!」


柚子香は真っ赤になりながらスマホの画面を向けてくる。

確かにアイコンは渋谷晴子のもので、タイムラインを追って行くと[柚子香さん、私からのプレゼントです!お家で開けてくださいね!]と言うのが3日前で、[何よコレ!?]がその後につく。


[ふふふ。これで爆弾彼氏さんを悩殺してください!]

[そんな。雄大は喜ばない]

[喜びますよ。彼氏さんは柚子香さんが大好きです!私にはわかります!]


oh!節穴girl!

何言ってんだよ!


その後もタイムラインは続き、[柚子香さん。ポーズはコレです!]と言って、先程柚子香の撮ったポーズ見本が見えた。俺はスマホから柚子香に視線を戻して「柚子香、練習したのか?」と聞くと、「したわよ。友達からのお願いだもん」と当然といった顔で言う。


コイツは盛大に勉強のできるバカだ。

ここまでくると無碍にできない訳で、俺は荷物を置くと「手伝うからさっさと終わらせて食べよう。腹減った」と言い、柚子香のベッドに「立つぞ」と言って立つとスマホを構える。


「上から撮れば下着は気になんないだろ?」

「うん…ありがとう」


素直な柚子香が珍しく思えた俺は、「後は柚子香が1人寂しく自撮りしたって思われたら不憫だから、一枚だけ柚子香を撮る俺を撮れ」と指示を出す。


「いいの?」

「証拠だから仕方ない」


こうして写真を撮りあった俺達は食事をする事になるのだが、柚子香は着替えない。


「腹壊すぞ」

「平気よ。ツーショットもコレで撮りたいの」


諸々を諦めた俺は「膝の上は食事が済んでからな」と言い、向かい合わせで夕飯を食べる。

ピザにパスタにチキンに、よくもまぁ用意をしたもんだ。

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