第12話 柚子香の顔。

誉は「雄大の言ってる事も間違ってないね」と言った。

勝った。

これでドーナツ代は回収したし、ボーナスも確定だ。

もうこうなったら搾り取ってやると、この時の俺は開き直ることにした。


だが直後の「よし、柚子香。お前はコレからももっと雄大といて、そこら辺の事を学びなさい」の言葉に、俺は思わずよそ行きなんてなく素で「何ぃ!?」と聞き返してしまった。


「雄大?何か文句ある?家庭教師みたいなもんだよ。お金なら払うからキッチリやりなさい」

俺はマジかと言う顔で柚子香と誉を見る。

端っこに見えた柊の顔には、御愁傷様と書かれていた気がした。


再度誉が「柚子香」と名を呼ぶと、柚子香は「はいお婆様。そうします」と言って頷く。

誉はそれを見てから「雄大?」と確認してくるので、仕方なく「気になったら言うだけで、それ以外は今まで通りならね」と言ってさっさと話を終わらせると、柊に小皿を取ってもらい、「柚子香、お前が食べたいのを先に避けとけ」と言う。

柚子香がのそりとドーナツを避けると、「誉婆ちゃんの分は?」と聞く。


柚子香が指さして俺が小皿に入れて行く。


そして皆に「じゃ、おやつなんで食べてください」と言うと、俺と柚子香の分が入った皿を持って、「柚子香、上で食べる約束だろ?行こう」と言って、柊に「柊、お茶を頼んだ。まさか今口に運んだフレンチクルーラーが、無対価だとは思わないよな?」と言って柚子香を連れて部屋まで行く。


柚子香は怒られたショックで未だに暗い顔をしている。

どんだけメンタル弱いんだよ。


「着替えるか?そのままか?」

「着替えるわ」


仕方ない、「じゃあ俺は壁を見ながら目を瞑るから、さっさと着替えてくれ。廊下は寒くて嫌だ」と言って少しだけ構うことにする。


「え!?」

「え?ってなんだよ」


「居てくれるの?」

「寒いからだ」


これで柚子香は少しだけ機嫌が直ったのか、「見たい?」、「見る?」なんて言いながら着替えて行く。とりあえず服が擦れる時の音が聞こえる度に、柚子香相手なのに照れてしまった。


俺は着替え終わった柚子香を定位置で抱き抱えて仕方ないのでキスをする。

ごめん唇。


突然のキスに、柚子香は「雄大…」と言って真意を探ろうとするので、「まだ一般人向けの注意は、柚子香には厳しかったからキスをしてやった。とりあえず全部半分こな」と言ってドーナツを指差す。


「え?」

「どうせ憧れなんだろ?だが少しでいいんだよ」


「なんで?」

「また行けばいいだろ?」


「行ってくれるの?」

「別にドーナツくらいで。バイト代も貰ってるからな。でも駅そばは絶対だからな」


駅そばと聞いて呆れ顔で、「わかったわよ」と言ってから笑顔になった柚子香は、「文化祭、きてくれてありがとう。嬉しかったわ」と言うと俺にキスをしてきた。


その後は2人でドーナツを食べながら渋谷晴子のくれた写真を見た。

柚子香は不満げに「…晴子。なんでこの写真を雄大にあげるのかしら」と呟く。


「嫌なのか?」

「嫌よ。なんかキツそうじゃない」

驚いた。キツイ顔が嫌いだったとは。


驚いた顔をした俺を見て、柚子香は「なによ。普段はもっと穏やかでしょ?」と聞いてきた。


お?おぅ?


俺は思考停止しかけながら、「そうだな」と言ったら、柚子香は嬉しそうに微笑んでいた。


とりあえずドーナツを食いきれないほど買うな。

俺は胸焼けと闘いながら食べて、最後に残しておいたオールドファッションは柊の口に放り込んでおいた。


帰りに誉がくれたバイト代は結構多かった。

写真だけにしては多いなと驚く俺に、「アンタに柚子香を任せて正解だったからね。次も期待している」と言われてしまう。

俺が正解だとしたら、周りがポンコツすぎるだけだろ?

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