第11話 柚子香のドーナツ。
帰りに買って帰る物は、柚子香の要望でドーナツになった。
どうあっても駅そばは勘弁してほしいそうだ。
まあ理由が「制服にシミを作れないから」だったので、受け入れることにした。
本来なら駅そばで校内での貸しを返して貰うつもりだったのだが、正当な理由があれば仕方ない。
ドーナツ屋でドーナツを選ぶと、柚子香がコレでもかとトレイに乗せていく。
「お前、全部食うの?」
「一口ずつ貰うから、残りは雄大が食べなさい」
俺の嫌いな顔と声で言う柚子香に苛立ちを覚える。
多分だが、誉と誉の母が女長子だったせいで、内春家の女尊男卑が加速した。
柚子香の父は長子だが、誉も存命だから染みついた女尊男卑は拭えずに、柚子香は次の内春として立派に育っている。
俺は苛立ち紛れに、「食べられるだけにしろ」と注意をしてから、トレイに乗せた分だけは仕方なく買うことにした。
「オールドファッションは貰ってやる。あとそのフレンチクルーラーは柊の土産にする。あと食べ切れるか?」
柚子香は泣きそうな顔で「…無理よ」と言う。
「食べられる分だけにしろよ。後は誉婆ちゃんとおじさんおばさんに買ったら足りるか?」
「足りないわ」
キチンと把握が出来て居る事に呆れながら、「なら足せ。それ持って帰るぞ」と言うと柚子香は「………わかったわよ」と言ってレジに進む。
俺は箱詰めされていくドーナツを見ながら、「もしかして、イートインだったらコレを1人で食わされたって事か?甘さで身悶える」と気付いて青くなっていた。
柚子香の家に帰ると、「先に済ませるから着替えは後な」と言って誉のところに行く。
「おやおかえり」と出迎えた誉は、柚子香の顔を見て顔つきを豹変させると、「なにやったんだい?柚子香が悲しんでるじゃないか」と言って睨みつけてくる。
白鷹や鏡月なら、自分が正しくても謝るが俺は違う。
俺は「俺は悪くないよ。そこも説明するから話させてよ」と言い、学校の出来事を伝えて、2人の写真と渋谷晴子の送ってくれた写真を見せると、柚子香は赤くなって「え!?その写真!?」と驚く。
「柚子香は楽しそうだ。そこは良くやったね。ボーナスだ」
「その後だって全部ボーナスだよ」
俺は苛立ちながら、帰り道の勝田台風香と市川明彦の話をして、「滅多矢鱈と喧嘩を買いすぎ。あんな変なのにまで勝ち負けを意識させる教育は良くないよ。いつか怪我をする」と伝えると、誉は「半分は理解するけど、私たちは内春なの。だめよ」と言いやがった。何が内春だ。何もないだろう?
「まあいいや。じゃあ最後の話をするからリビングに行こう」
「ここじゃないのかい?」
俺は「おやつだよ」と返し、リビングに人を集めると、「誉婆ちゃん、これが俺が1番怒ってる奴」と言ってドーナツを取り出す。
「柚子香は食べきれない量を買って、ひと口ずつ食べたら、残りは全部俺に押し付けると言った。それに1番怒ってる」
俺の説明に柚子香が落ち込むと、誉は「別にいいじゃないかい」と言いやがった。
「良くない。金を払ったら、作った人の目の前で踏み潰してもいいとか思う奴の考えに近いから嫌だ。柚子香にしても、食べられなかったら俺のせいにして、自分は何一つ悪くないって顔をする。それが許せない」
俺の言葉に柚子香が俯いて、誉が黙っている間に意見する俺を見て目を丸くする柊に、「柊、お前なら限界まで腹減ってて何個食べられる?」と聞く。
この場に巻き込まれた柊は、「えぇ…、5個?…4個かも」とドーナツを見ながら答える。
「甘すぎて死ぬよな。普段なら?」
「2個…、時間をくれるなら3個。それでも好きな奴だけだよ」
「それなのに、こんなに買って自分は好きなだけ食べて、食べられないのを人に押し付けるなんて良くない。さっきのノータリン共に張り合うのも良くない。だから俺は柚子香に注意をして、柚子香は落ち込んでるんだ。でも俺は間違ってないと思うよ」
俺の言葉に誉は小さく唸ると「雄大の言ってる事も間違ってないね」と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます