第8話 文化祭。

柚子香の学校の文化祭はまあ見事だった。

だが流石はお嬢様学校。

あまり弾けたイベントはやらなかった。


それでも露店もあれば喫茶店もあって、軽音楽部や吹奏楽部、ダンス部なんかは体育館で演目を披露していた。


俺は朝一番に来いと言われたが、「無理。眠い。寝たい」と送って柚子香の抗議メッセージの全てを無視して、11時に嫌々渋々柚子香のクラスに顔を出した。

女子校には男っ気が無いからか、校内に入ってからキャーキャー言われ続けて、勘違いしてしまいそうになる。


まあ身なりも母親が柚子香に恥をかかせないためとか言って、揃えていたから悪くは無いだろう。普段なら自分で服を買うが、柚子香のためと言われると何も買いたくなかった。結果チキンレースに負けたのは母親で、洋服を買いに行っていた。



一年二組の教室に柚子香はいた。

柚子香のクラスは出し物が展示物で、誰が喜ぶのかわからない千羽鶴に関してだった。


教室の入口から「柚子香、来たぞ」と声をかけるだけでキャーキャー言われる始末に、だんだんと怖くなる俺。

柚子香はそんな俺を見て「やっと来たわね雄大」と言う。

どこか嬉しそうな気がするが、そんなに出し物を見て欲しいなら誉や柊に頼んでくれ。


「やっとって30分遅れだろ?30分で何が変わるんだよ」

「その30分が大事なのよ。クラスの受付と解説の当番だったの。来たら解説をしてあげるつもりだったのに」


なるほど、そういう理由なら言えば良いものをと思った俺は、「なら今してくれ」と言うと、柚子香は赤くなって「今!?今は他の子達が当番なのよ」と返してくる。

俺が「なら他の子に聞くか。柚子香はその間廊下に立ってるか?」と聞くと、「わかったわよ。キチンと傾聴しなさい」と言って展示物の説明をした。

まあ起源とかそこら辺の話をしながら千羽鶴をみると、ある事に気付いた。


「あー、これでか。間に合わなかったのか」

「雄大?」


「先週の日曜日。鶴が間に合わなかったのか?」

「そうよ。どうしても苦手な子も居るから」


「柚子香は苦手で、皆に迷惑をかけたか?」

「雄大!」


このやり取りに柚子香の友達が近づいてきて、「柚子香さんってそんな顔をするんですね」と言ってから俺を見て、「時限爆弾の彼氏さんですよね?」と聞いてきた。


「こんにちは。君がわかったの?」

「はい。柚子香さんの友達の渋谷晴子です」


柚子香は俺と渋谷晴子のやり取りに少し不満気で、飼い犬がご主人様を無視して人様に懐くなとか思っていそうな気がした。


なのに渋谷晴子は「柚子香さんがツーショット写真を撮ってくれないって言ってましたから、千羽鶴の所でツーショット写真はどうですか?」と話しかけてくる。


俺は即答で「いらない」と言うと、柚子香が「雄大!」と俺を怒鳴った。

その時の柚子香の顔は本気でキレそうな顔で、それは誉に回ると面倒くさい事になるので、「ありがたく写らせていただきます」と返して千羽鶴の前で写真を撮られた。

なんでかわからないが柚子香のスマホと、渋谷晴子のスマホと、俺のスマホで撮られた。


俺のスマホの時に、柚子香の奴が「晴子バースト」と言いやがり、とんでもない数の連写音が俺のスマホから聞こえてきた。


愕然とする俺に「ふふ。消したら怖いわよ?」と言う柚子香。

俺は肩を落として「お前、俺のスマホは128GBしか無いのに…」と漏らすと、「あら、次の機種変は私と同じにさせてあげるわ。512GBなら平気よね?」と聞いてきた。


柚子香の奴は俺の「…そんなの金の無駄だろ?」というコメントには返事をしないで、「引き継ぎをするから待ちなさい」と言って受付の子に説明に行くと、「柚子香さんが嬉しそうで、あんな顔初めて見ました」と渋谷晴子が話しかけてきた。


嬉しそう?意味がわからない俺が、「は?いつもあんなもんだよ」と言うと、「ふふ、そうですか?とりあえず柚子香さんの写真をあげますから、メッセージのID交換をしてください」と言ってスマホの画面を向けてきた。


「いらない。パス」

「いいんですか?怒られますよ?」


俺は柚子香の方を見ると、受付の子とやいやい騒ぎながら俺の方を見ていた。

怒られるのは構わないが、面倒臭いのは困る。


「…貰います。でも3枚くらいにしてね」と言ってID交換したのに、渋谷晴子は俺を裏切って30枚くらい柚子香の写真を突っ込んできた。


タイムラインに並ぶ柚子香の群れ。

どれもこれもキツそうな顔。

実際にキツいのに、つい画面に映る顔を見て言ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る