第2話 雄大の婚約者。

柚子香が言った「私の夫にしてあげる」が聞き間違いで無かった事に、俺は嫌な汗が吹き出した。


いつどこでそんな話になったのかを柚子香に聞くと、大学を出た後で誉の地盤を引き継いで女帝の座に着くという話題になり、結婚は早い方が良く、内春家の子供は5人は必要だと具体的な数字が出て、誉の奴が柚子香に子供は5人必要だと話した時に、柚子香は俺をご指名しやがった。

俺の両親は自分を守る事に全力を傾けて俺を差し出した。明け渡したでも構わない。

アイツらは親ではない。



「さあ!だから婚前交渉よ。ありがたく抱いて私の初めてを受け取りなさい雄大」


胸に手を当てて、本当に喜べという顔で迫る柚子香を見て吐きそうだった。

飲んだお茶が胃から迫り上がってきていた。

吐きそうになった所で初めて、昨日の夕飯や今日の昼飯が、嫌に豪華なスタミナ料理だった事を思い出して親への怒りが募った。

そしてベッドサイドに箱で置かれた避妊具を見つけて恐怖に震えた。


それから2時間の押し問答。

必死に拒絶する俺と、喜んで受け入れろという柚子香の押し問答は、泣いた柚子香が誉に言いつけるまで続いた。


柚子香が部屋を出て10分して、誉に呼び出された俺が誉の部屋に顔を出すと、誉や偉いらしいBBA連中が雁首揃えて正座で俺を待っていた。


誉の横には泣き腫らした柚子香。

その柚子香の頭を撫でながら俺を睨む誉。

誉の言葉に合わせて口にする文句を喉あたりにあるカタパルトに乗せて待つ近隣在住のBBA連中。


「座りなさい雄大」

「はい」


「柚子香を泣かせるとは何事?お前は響の孫。柚子香は私の孫なのよ?」

誉の訳わからない序列話に、BBA連中の口からカタパルトに乗って出てくる「そうだそうだ」の声。


正直「知らねーよバカ」と言って立ち去りたい。


「今からでも遅くありません。柚子香を受け入れなさい」

「嫌です」


即答した一瞬だけシンとなるが、直後にどよめきと共に起きるクレームの嵐と柚子香の泣き声。

まあ柚子香が否定されるなんて、学校くらいなものだから免疫なんかが足りない。


「雄大!そこまで拒絶するのなら理由はあるわね?話せますね?」

「簡単です。近い将来、高校を卒業して大学生になった柚子香の前に好みの男、誉婆ちゃんが気に入る男が出てきた時に、俺との婚前交渉が邪魔をするのが嫌だからです」


我ながら取ってつけた言い訳だが、これには柚子香は青くなり、誉は確かにと言う顔で頷く。


「ならどうするのかしら?」

「大学を卒業して社会を見た柚子香や誉婆ちゃんが、それでも俺だと言えば受け入れますよ」


これに気を良くした誉を見て、俺は勝ったと思った。

柚子香は青い顔で「お婆様。私は雄大でいいです」と言ったが誉には届かない。


「雄大。確認です。拒絶は柚子香の為だったのね?」

「はい」


「ならば婚約者として振る舞うわね?」

「それも問題ですよね」


誉は眉を吊り上げて「は?」と聞き返す。俺は誉に「何の経験値もなくて、柚子香に恥をかかせるのは嫌だから、女友達や婚前交渉のない彼女は必要じゃないですか?」と言うと、誉は黙って俺の顔を見て「ふむ」と言いながら柚子香を見て、もう一度俺を見ると、「そうね。確かに言う通りだわ。柚子香は女。身持ちの硬さに価値があるけど、雄大は柚子香に恥をかかせてはダメね。そこら辺の女で研鑽を積みなさい」と言ってこの話は終わった。


だが俺からしたら十分に痛み分けだ。

俺はこの時から、柚子香にだけ決定権のある婚約者にされてしまった。

柚子香は俺を部屋に連れ戻すと、荒れ狂いながら文句を言ってくる。


「柚子香が俺を嫌になったら内春家の問題になるだろ?」

「私は嫌にならない!」


柚子香がなんでそんなに焦るのかと聞けば、そもそもはお嬢様学校の中でも性は乱れていて、柚子香に対抗心を燃やす勝田台風香という女が、ヤンチャな彼氏を作って、先月泊まりで彼氏に初めてを捧げて乱れた性をしてきたと自慢してきたらしい。

どこまで本当だかはわからないが、柚子香は負けられないと誉に将来の話を振り、婚前交渉をして内春家の為に身を捧げると言い出していた。


柚子香は一歩も引かない。

恋人同士のような付き合いをしろと強要してきた。

これ以上拒むと元の木阿弥になる。

諦めて要求を聞くと、音楽のかかる部屋で膝の上に柚子香を座らせて、向かい合わせで抱き合ってキスをすると言い出した。


貞操の危機を回避する為だ。

いた仕方ない。

仕方なく膝の上に座らせて抱きしめる。


柚子香の奴は「気が変わったら言いなさい。お婆様には私から説明してあげる」なんて言って、俺の頬を持って好き勝手にキスをしてきた。


別に初めてをと言う気はないが、コイツにだけは嫌だった。

キスは夕飯まで続く。

帰りたかったのに誉に捕まって帰れず、誉から「帰っていい」と言われるまで延々とキスをされた。

もう回数なんて数えてないが千回くらいしたかもしれない。

時間稼ぎで避妊具の話を聞いたら、乱れたお友達は二晩で一箱使ってきたと自慢してくれたから、張り合って一晩で一箱使おうとしたらしい。


馬鹿野郎。死ぬぞ?

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