うちはる。

さんまぐ

婚約破棄を願う内春雄大。

第1話 夏の日の内春 雄大と内春 柚子香。

俺の両親は毒だ。

そんな毒の親、毒親は調子のいい人だった。


食事を例にすると、10の配給があって両親と自分の3人で分ける場合には、1人3.3…三分の一の割当になるのが普通だ。

だが親達は違う。

決して自分たちの割り当ては変えない。

先に2人が満足するまで食べて、その残りが回ってくる。

父親が5で母親が4で残りの1が俺に来る。

幼い頃からそう躾けられ、…調教されていればおかしいとは思わなくなる。

物心ついて、知恵がついて、おかしいと思ってもその形が出来上がっていて。何もできなかった。


毒親は一族で1番偉い大叔母に逆らえなかった。

一族なんて言っても、何の歴史も伝統も威厳もない、一家で大叔母は直系の長子で、直系長子が1番偉い家系だった。

大叔母は婿を取る徹底ぶりで、一族の長に君臨している。二番目に生まれた大叔父は長男だが、二番目として大叔母の次に偉い。


親達は次男夫婦の息子とその妻なので何の力もない。

上に弱く下に強い。

そんな親だからこそ、子供の俺に偉ぶって調子のいいことばかりをしていた。


俺はとにかくこの一族が嫌いだ。

進学先から何まで全部口出しをされた。

大叔母のほまれが偉そうに指示を出してきた。


「誉叔母様の言うとおりになさい」

そう言う母親は、17歳の俺を内春家に明け渡した。


誉の奴がトップだからだろう。

内春うちはる家のパワーバランスは、完全女尊男卑になっていた。

その内春家で立場の欲しい母親は、父親よりも誉に媚びへつらい俺を明け渡した。


誉の奴は何をとち狂ったか誉の孫、俺をはとこに当たる柚子香ゆずかの婚約者にすると言い出した。


同年代のいとこはとこ連中の大半は諸手をあげていた。

俺と同じ直系ではない奴らが、こぞって俺を悲惨だと言う。

自分達は誉に気に入られる必要があるが、俺のように選ぶ自由もない訳ではないと言う。


その中でも狂った奴が数名いた。

柚子香の弟の柊と、数名のはとこたち。

柊は純粋に柚子香の弟で、同年代のいとこはとこ連中の中では2番目に偉かったが俺が柚子香の夫になったら3番目になるからと俺を憎む。

そして他のはとこ達は柚子香に選んでもらいたかった連中で、確かに序列があれば下の方だった。


だがこの伝統も歴史もない家の中で上に行って何になる?意味がわからない。俺は心の底から呆れた。


そして全員を嫌悪した。


17歳の俺は特に何も聞かされず、土曜の午後に学校から帰ると柚子香の所に行かされた。

柚子香の所に行くと、柚子香は普段着より少し上物のよそ行きを着ていた。


その姿を見た時、買い物の荷物持ちかと理解して辟易した。


それなら言ってくれれば小遣いを持ってきていた。

買いたいものがあったからだ。

だが違っていた。


柚子香の部屋に連れ込まれた俺は襲われた。



そもそも柚子香の見た目は割と整っている。


それはそうだろう。誉もだが、内春家は結婚相手を能力や見た目、家柄なんかで選ぶ。

誉の前からそうだったらしいし、誉の若い時の写真も見た事はあるが、見た目が整っている。


不思議なものだが、世の中にはゴネ得と言う言葉がある。

大したことない家でも、一族総出でハードルを上げると能力も見た目も高水準の人が来てしまう。


そして朱に交われば赤くなる。

誉の仲間になる。

陰で異論を唱える者はいても、表立って異論を唱える者はいなかった。


だが俺は柚子香の見た目が嫌いだった。

キツい性格が影響を及ぼした顔と態度。

誉に言われるままに自分磨きを怠らない柚子香は、僅か16歳で美容にも力を注ぎモデルに見えないこともない。

だが性格が良くない。

小型の誉という感じで、年が近いせいか誉への憎しみが倍加されて柚子香に向かう。

名前も好きではない。


柚子の香りは優しい香りだ。

相応しくない。

コイツは刺激臭が物凄い毒花だ。


部屋に連れ込まれた俺は、出されたお茶を飲みながら「何?買い物行かないの?」と声をかける。

いとこ連中やはとこ連中は誉にするように柚子香に敬語を使う。

だが俺からしたら、柚子香は年下で別に偉くも何ともない。


赤い顔をした柚子香はモジモジとしながら「雄大ゆうだいは私相手でも敬語にならない」と言ってくる。


「当たり前だ。柚子香は年下で偉くない。敬語は敬う相手にしかしない」


俺の返事に「本当に生意気」と言った柚子香の顔は、不快感ではなく赤い顔のままだった。


「顔が赤い。風邪か?うつると嫌だから帰るぞ。早く着替えて眠れ」と言った時に、柚子香は「私の夫にしてあげる」と言った。

俺は聞き間違いを疑い「なに?」と聞き返すが、赤い顔の柚子香は「その不遜な態度。私の夫に相応しいわ」と言い、近づいてきた。

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