ありきたりな悩み、あなたは気付かない
神﨑公威
ありきたりな悩み、あなたは気付かない
街灯に照らされた向日葵は、
砂でできている。
古い映画の場面のような色合いの
時間のなかで、夏の月は流れていく。
悲しいのに、泣くことを忘れている人々。
僕たちは皆が寝静まった夜に、散歩へ出る。
愛しているのに、会わなくて。
ショックで。
月光に街灯を重ねて浴びて、
澄んだ空気の中で自由になる。
会ったとして、
大した会話もできないままで、
時ばかりが過ぎるのだろう。
うなる猫の横で、
はばたく蛾を眺め、
湿気た草の匂いを感じている。
地面にへたりこんで、
ぼんやり過ごしていた
子供の頃の時間みたいに、
それもまた大事なように思えてくる。
けど、愛されたい。
時間の足りなさが、つくづく、
ショックで。
夜間飛行機の光るところへまで、
ずっと昇って、
すっと深呼吸でも出来たなら、
少しは気持ちも軽くなるだろうに。
もうすぐ夜が明けてしまうというのに。
頭を空っぽにして過ごすだけ。
それだけ。
びしょぬれの洗濯物が、
夜中のうちに、
またどこかで干し始められる。
勘違いしたセミが幾小節か鳴く。
街が夜のなかで青く揺れる。
大好きな人を思い浮かべるのだって、
終いには、輪郭がぼんやりしてくる。
月も欠ける。
世界が消えてしまう。
明日のことなんて。
明日もだって、
何を聞いてもお互いに微笑むだけ。
でも、不思議と安心して、
ずんずん僕はまどろんでしまう。
月の白さが溶けて、
誰の声も聞こえず、
二人がであった頃を思い、神話を夢見る。
世界は思ったより小さい気がする。
そして、より安心して眠りにいざなわれる。
ありきたりな悩み、あなたは気付かない 神﨑公威 @Sandaruku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます