第7話 四季と月夜

 あの後私は何時間にもわたっていろいろな箇所から血を吸われ続けた。解放されたのは深夜二時ほど。最低限身だしなみを整えさせられた私はフレアに部屋から追い出され「また明日もよろしくね」と一言声をかけられ、フレアは姿を消した。やり捨てですか。もうお嫁に行けない……行く気も予定もないけど。

 くたくたに疲れた私は新たにもらった使用人用の自室に帰ってぐっすりと眠り、いつも通り五時に目を覚ます。もちろん眠いので二度寝しようとするがなかなか寝付けず、仕方がないのでコーヒーを飲み眠気を誤魔化す。習慣って怖い。


 七時になり、朝食を食べ身支度を整える。食客時代はクライムなども使う食堂で長卓に並べられた豪華な料理を食べていたが、使用人はそれとは別の食堂で三グループほどに分かれて食べる。食事は1日2回、朝と夜。食堂のお母ちゃん風の料理人が大鍋に入ったスープやパン、サラダをよそって渡してくれる。クライムは申し訳なさそうな顔をしていたけど孤児院育ちの私としてはこの方が落ち着いてありがたい。

 料理をもらいに行くと、お母ちゃん風の料理人が「たくさん食べて大きくなりな」と料理を渡してくれる。周囲の使用人のものと見比べると明らかに量が多い。私の体が小さいが故の気遣いということはわかるが、もともと私は少食なので食べ切るのが大変だ。結局メアリーに手伝ってもらった私は、軽く自室の掃除をしてからフレアの部屋へ向かった。


 **


「特に頼むことないから仕事なら使用人に聞いて、じゃあね」


 そういうとフレアは扉を閉めた。フレアの雑用をやっていた昨日より酷いのでは?とはいえフレアといったん距離を取れるのはありがたい。私も彼女がなぜ私を突き離すのか調べなければと思っていた。とはいえ一応命令で使用人に仕事を聞けと言われたからにはまずはそれを遂行しなければならない。私はメアリーを探すため、庭へ向かうことにした。


 私の屋敷での立場は非常に複雑だ。基本的にはフレアの専属メイドの立場であるが、クライムの意向でいまだに食客としての扱いも解けてないのである。クライム曰く、「食客という立場がなければ君のことをよく思わない者たちに何されるかわからない」だそうだ。そのため私は、与えられた業務をこなせばあとは自由時間なのだ。


 庭に着いた私はメアリーを探すため屋敷の周りを散策する。屋敷の庭は5つに分けられており、初日に探索した式の花が入り乱れる屋敷正面の庭。そこから屋敷を中心として右回りに春の庭、夏の庭、秋の庭、冬の庭となっている。メアリーによると、咲く条件の近い植物ごとにまとめると結界維持にかかるコストの削減になるらしく。正面の庭はあくまで来客用らしい。そんな庭を春、夏と順に散策していく。今は大体夏と秋の間。屋敷のちょうど裏手になる。そこでふと1つの人影が、目の前を横切る。メアリーかと思い、追いかけるもなかなか追いつけない。追いかけること2分ほど、私は結界の端まできていた。ちょうど初日にフレアを見たあたりである。結界の外に目を向けるもそこにフレアの影はない。屋敷へ引き返そうと思ったその時、ちょうど屋敷方面からメアリーが歩いてきた。


「おや?こんなところで何をしているのですか?」

「……メアリーを探していたら人影を見かけて追いかけてたのだけど、結界の外へ行ってしまって……」

「それはお嬢様ですね」

「お嬢様はよく結界の外へお出かけに?」

「はい、と言っても旦那様には無断ですけどね」


 そういうとメアリーは結界の外へ目を向けて語り出す。

 

 「この結界は昔、四季の結界ではなく、ただ月夜を作り出す結界だったのです。そのため維持するコストも低く、その分結界の範囲を広げることができました。お嬢様が通っているのはおそらく昔の結界範囲内にあった月花樹でしょう」

「月花樹ですか?」

「はい、吸血鬼の領地では割と有名な木です。冬の、月のよく見える夜にだけ花を咲かせるという木です。昔は月夜の結界の中だったので冬の間はずっと花を咲かせていたのですよ」

「そうなのですね。見てみたいです」

「確かお嬢様が苗を育てていたので数年後には花を咲かせるかもしれません。運が良ければあなたも見れるかもしれませんね」

「そうですか。とても楽しみです」


 夜に花を咲かす月花樹にフレアは通っているという。しかしフレアが部屋を抜け出すのはいつも昼間だ。月花樹に花は咲いていないはず。本当は他に目的があるのか、それとも……


「それより私に何か用があったのではないのですか?」

「そうでした、メアリーさん何か仕事はありますか?」


 私はメアリーからもらった仕事を淡々とこなす。終わったのは十五時ほど。報告をするためフレアの部屋に向かうもフレアはやはりというか、留守のようだった。仕事がない、つまりは自由時間である。貴重な時間を無駄にしないため、私は目的の部屋へ歩みを進めるのであった。


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