第5話 専属メイド

「初めまして、今日よりお嬢様にお支えさせていただ――」

「来たのね!ちゃんとお父様は約束守ってくれたのね!」

「……」


 私は今、フレアの部屋で彼女に挨拶をしていた。……メイド服で。しかも何故か屋敷で働くメイドよりもフリル多めで。


「あの、お嬢様――」

「それじゃあ早速働いてもらうわよ、そこに積み上がってる本をお父様の書斎に返してきなさい!」

「……はい、失礼致します」


 つい昨日までは自室で自由気ままに客人対応だったのに、何故こんなことになっているのだろう。


 **


 私鑑賞会が行われた次の日。いつも通り朝食までの読書をしているとクライムが部屋を訪れた。


「朝から失礼する。少し話があるのだが」

「……御息女様についてですか?」

「話が早いな。その通りだ」


 大体予想はできていたがやはり昨日の件だった。私を巡った貴族たちの争いは結局フレアのプレゼントということで落ち着いた。その後、貴族たちで話し合いがあるとかで私はすぐ部屋に戻されたので私の処遇がどうなるかはわからないがおそらくフレアに食べられることになるのだろう。あの変態に食べられないだけマシだ。


「結論から言おう。君には今日からフレアの専属メイドをやってもらう」

「……は?」


 私の予想はすぐに裏切られた。何故メイド?食料じゃなかったの?


「どうやら君にもここまでは読めてなかったようだな」

「……説明を求めます」

「ふむ、では君がいなくなってからのことを話させてもらおう」


 クライムはニヤニヤしながら私の反応を見ていた。どうやら今までからかってきた私への仕返しができて相当嬉しいようだ。残り少ない命なのだからそれくらいいいだろうに、ケチ。そんなんだからフレアに絞められるんだ。


「君が退出した後、あの部屋では君の処遇に関しての話し合いがされていた。と言っても私がフレアに対してと言ってしまった以上、君がフレアのものになるのは確実だったがね。だがそれだけでは他の貴族から不満が出る。なぜ、とね」

「まぁ、食べる予定の家畜を10年も飼い続けるなんて反対意見が出ても当然ですね」

「……君の自虐はともかく概ねその通りだ。そこで君に役目を与えることにした」

「それが御息女の専属メイド、と」


 つまりは労働力とすることで私がここで生きる価値を提示するということだろう。今までは他の貴族からは私の存在が知られていなかったから客人として扱えたが、知られてしまった以上そういうわけにもいかないのだろう。しかしそれだけでは押しが弱い気がする。


「専属メイドだけでは貴族たちも納得しないのではないですか?元からここに支えているメイドをあてがえばいいのでは?」

「その通りだ。というより専属メイドはついでだ」


 私の指摘に対して、もっともだと頷くクライムはもう一つ、私に役割を告げた。


「君にやってもらいたいのはフレアの食事係。つまりは血液の供給だ」

「血液だけですか?私は全身美食人間なのでは?」

「吸血鬼はしきたりで成人するまでは血以外の人間由来の食材を口にすることはできない。それに成人しても栄養は血で事足りる、人肉は嗜好品なのだ。基本は人間界に侵入している吸血鬼が輸血などを理由に集めた血を仕入れるのだがいかんせん鮮度がまちまちでな。新鮮な血をフレアに与えるためという理由があれば貴族たちを黙らせることができる」


 しきたりにより私はフレアが成人するまで食べられることはない。確かデビュタントは十年後だったから私の命もちょうど十年ということだ。思っていた先は長い。


「そういうわけだから君には今日から働いてもらうことになる」

「わかりました。今までお世話になった分、誠心誠意働かせていただきます」


 そういうわけで私はフレアの専属メイド兼食事係になったのだった。


 **


 その後、部屋に入ってきたメイドによって連れ出された私はメイド用の更衣室にいた。私を連行したメイドは庭しごとで仲良くなったメイドでメアリーというらしい。こういう気遣いができるクライムはやはりお人よしなのだろう。その気遣いを少しはフレアに向けていれば先日絞られることはなかったのではと思うのだが。


「それでは採寸をさせていただきます」

「はい、お願いします」


 今は私の着るメイド服を私ように手直ししているところだ。どうやらフレアの専属メイドはとある貴族の令嬢を雇うということが元から決まってい他らしい。本来ならデビュタント5年前から使える予定だったのを無理やり私を捩じ込んだそうだ。そのためメイド服は元からあったのだが、10歳の子供には非常に大きなものだった。

 その後、30分ほど時間かけて採寸し、メアリーはメイド服の手直しに入った。さすが本職のメイド。その手には迷いがなく目にも留まらぬ速さでメイド服に手を加えていく。私も孤児院ではサイズの合わなくなった服やお下がりの服を手直ししていたがあれほど早くはできない。これからフレアに使える以上、私も裁縫などの腕を上げなければいけないのだろう。

 メアリーから布の切れ端などをもらい、リハビリも兼ねて練習をすること一時間。どうやらメイド服が完成したらしく、試着することになったのだが……


「……なんだかフリルが多くないですか?それに膝丈も妙に高い気がするのですが」

「気のせいでございます」

「でもあなたのはくるぶしまであるのにこれは膝丈で――」

「気のせいでございます」


 明らかにメアリーのものと違う、フリフリ膝丈のメイド服に指摘を入れるもメアリーは『気のせい』の一点張りで認めない。しばらくそんな攻防が続くとメアリーがこんなことを言い出す。


「そちらのメイド服はお嬢様が幼い頃、奥様、エアリス様と共に作ったもので今回、フレア様直々に指定されたものです。着ていただけないとなると相当お怒りになると思いますが」

「……わかりました。手直しありがとうございました」

「はい。とってもお似合いですよ」


 そんなわけで私は無駄に装飾の多いメイド服を着込み、フレアの部屋へと向かうのだった。


 **


 そして時刻は現在に戻る。最初の本の返却という仕事を終えた私は部屋の掃除、花瓶の水の入れ替え、洗濯物、と見事に雑用を押し付けられていた。メイドとしては正解なのだろうけどさっきから全然フレアのそばにいないのだ。これでは専属メイドとは言えないだろう。そうなれば貴族たちも黙ったもんじゃないだろう。特に私に専属メイドの地位を奪われた貴族令嬢はお冠だろう。そう思い、一度フレアに申してみたのだが。


「私の専属メイドなら私の命令は絶対でしょう?」

 

 といいどこかへ消えてしまった。その後も雑用を延々とこなし、いつの間にか帰ってきたフレアに「ご苦労様、今日はもういいわよ。二十一時ごろにもう一度きて」と言われ、その日の私のメイドとしての仕事は終わったのである。


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