第5話 天秤の試練:後編
その化け物は、人間の姿をしていたが、上背は3mほどもある。
顔は相変わらず能面で、全裸であった。特に陰部は見られないが…
いや、見えなくて良いんだけども。ほんとに。
そのほかの特徴的なものと言えば、化け物の胸に刻まれた輝く天秤のような紋様と、背中にある2対の純白の羽だろう。
すぐに戦闘態勢に入り、何が来ても良いように構える。
これを回避できたのは、よく動きを見ていたからだろう。特に足。
その踏み込み方から、攻撃が来ると判断し、左側に半身になって躱す。
すると、先ほどまでいた場所目掛けて化け物の左拳が振り下ろされていた。
即座にカウンターを狙い、ハルバードを遠心力に任せて化け物の足に繰り出した。
ガキィィイイン!
とても、生物に当たったとは思えない音が響く。
これは、先ほどの防御力特化の奴も同じ感じだった。
だが、感触からしてあいつよりも数段硬い。
面倒だな…
左ストレートを繰り出した化け物はその移動の勢いのまま、右足でキックを繰り出してくる。
だが、攻撃の速さは先の攻撃よりは遅い。
しっかり見て躱し、ハルバードを足の腱の一点に突き刺した。
「グロゴガァァァァァアアア!」
うーん、その姿になってもそのキモい声のままなのね…
…ん?
化け物の胸の天秤が輝きを増している。
「グォォァォォガァァァァァァアアア!!!」
そう叫んだ瞬間、俺はぶっ飛ばされていた。
「うぐっ…」
化け物はこちらに歩いてくる。
足をよく見て…
そう、よく見ていた筈なのだ。
なのに…
俺は今、一方的にボコボコにされている。
かろうじて、攻撃の瞬間の殺気を感じて防御はなんとかなっているが、その速すぎるスピードと強すぎる攻撃に翻弄され、負けるのは時間の問題だ。
どうすれば…!何か打開策を…!
…そういえば、何であの翼は使わないんだ?
最初もそうだ。翼を使って飛んでいれば、腱に繰り出したハルバードの一撃も躱せた筈だ。
なら、使えない。もしくは、使えない理由がある。
ならば、そこが弱点と思うことにする。
賭けではあるが、何もできないよりはましだ。
一撃、一撃だ。
それに、あの劇的パワーアップはずっと続くのか?
ということは、だ。
あのパワーアップが切れるのを待ち、それが切れた瞬間に、弱点(と思われる箇所)に全力の攻撃を打ち込む。
それまでは…耐えるのみ!
あれから…何時間経ったのだろうか…
俺は…何のために戦っているんだ…?
ふと、気になりステータスを見る。
ステータス
名前:ゼラフ
第1種族:『見習い使徒LV:0』
第1職業:『見習い代行者LV:0』
称号:『生命の女神アルスフェーンとの邂逅』『新人冒険者』『チュートリアル達成者』『チュートリアル完全達成者』『ラッキースター』
LV:0
HP:36/100
MP:450/450
STR:15
VIT:10
DEX:20
AGI:15
INT:50
MAD:45
LUC:100
スキル
『異空視:1』『防御:11』『受け流し:14』
ハハッ…いつの間にかスキルが生えてやがる…アナウンスにも気づかないとは…
だが、この2つのスキルはありがたい。
両方のスキルが10を超えると使える、ブレイクパリィ。
これを使えば、こいつの体勢を崩せる。その瞬間に攻撃だ…!
来た!右ストレート…!
「ブレイクパリィ!」
「グガァアァァァッ?」
よしっ!体勢を完全に崩した!
俺は、短剣を2本装備し、化け物の背中にある存在感たっぷりの2対の羽根目掛けて勢いよく振り下ろした。
武器として短剣を選んだ理由は、短剣は急所ボーナスが武器の中で1番高いのだ。
羽の付け根に振り下ろされた短剣は大した抵抗もなく、背中の羽根の付け根に突き刺さる…!
と、思われた。
しかし、化け物はその背にある翼で飛んで避けてしまった。
う、嘘だろ!?
まさか…最初に飛ばなかったのはブラh…
そう考えた瞬間に化け物は胸の輝きを先ほど以上に増し、その瞬間、俺は右腕をもぎ取られ、吹き飛ばされた。
…うっ…生き…てる?
あの…化け物は…
「…zubenelgenubizubeneschamalizubenelhakrabi」
何か呟いている…?いや、唱えているのか?
わからない、遠いようだし何故か何も見えない…
うぐっ…
立とうとすると、左足がないことに気づく。
まさか、さっき吹っ飛ばされた時に?…右腕だけではなかったのか。
「感謝するぞ…」
……ん?
『第8の試練、突破』
終わっ………たのか?
《試練攻略の証として称号『秩序の試練攻略者』を入手しました》
秩序の試練攻略者
秩序の試練を攻略した者に与えられる称号。
秩序属性親和性+20%
混沌属性親和性+10%
…親和性たっか。
それに、混沌属性親和性…?秩序なのにか?
しかも2つ親和性があるな…
『其方は力を求め、そして強者になることを望んだ。その上、封印されし秩序神を殺した。よってここに、秩序の継承を行う。』
はぁ?
いや、ちょっと情報多すぎじゃないか…?
って、待てよ秩序神って…
《称号『神殺し』を入手しました》
《称号『解放者』を入手しました》
《称号『秩序の継承者』を入手しました》
《称号『先駆者』を入手しました》
《称号『黄金の先駆者』を入手しました》
もう、どーにでもなれぇーあははは。
神殺し
神に属するものを殺した者に与えられる称号。
叛逆属性親和性+150%
うぉい!?何だよ叛逆属性って!
はぁ…
解放者
悪辣な封印を解放した者に与えられる称号。
解放属性親和性+20%
封印属性親和性+10%
秩序の解放者
封印されし秩序を解放した者に与えられる称号。これにより、秩序はまた世に解き放たれ、大いなる変革を齎すだろう。
それによって起こるのは、あの時の再来となるか…それとも…
なんだ、このポエム。
あの時…?
よく分からんな…さっきまで戦っていたのは悪辣な封印をされた秩序神ってことか…?
そして、その役目を継承…と。いや、なんでだよっ!?
《其方の種族と職業に関連がある》
種族と職業…?
使徒に代行者…ユニークだと言う話だが…
《そもそも、秩序の封印扉が現れたのも、其方の種族と職業によるものだ》
《封印されていた秩序を其方に継承させるため、現れたのだ》
《…それに、拒否権はない》
えっ?
《プレイヤー:ゼラフの種族が『見習い使徒Lv:0』から『神の使徒Lv:1』に変更されました》
《プレイヤー:ゼラフの職業が『見習い代行者Lv:0』から『初級代行者Lv:1』に変更されました》
こんな簡単に種族とか職業って変わるのか…
あ、ちなみに
先駆者
他プレイヤーと大きく差を付けるような発見をした者に与えられる称号。
黄金の先駆者
他プレイヤーと大きく差を付ける発見をし、尚且つ多くのプレイヤーが束になろうとも厳しい強敵を1人で打ち破った変ta…変態に与えられる称号。
何だよ変態って!
しかも、一回言うの躊躇ったなら言うなよ!
…ていうか、そんなに強かったのかあいつ…?
確かに強かったし、最後なんで勝てたのかもわからない。
だが、流石にそこまで強かったとは思わないんだが…
まぁ、貰えるもんは貰うけどさ…
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