第32話黒猫獣人とお墓

昼過ぎに空き地に集まるようにマオに言われた黒猫獣人達はワイワイ言いながらマオを待っていた

「ごめん 待たせたかな?

マオが言いながら走ってくる

魔女の森の人達の時と同じくマオに黒猫獣人達に国を案内するようにクロノスに頼まれている

「今日の予定は市場見学 風呂の使い方 国王様への謁見 教会でのお祈りだ」


早速 市場に着くと女性は食品や衣類に 男性は農具や大工道具に興味を示し 吟味している 

「何か 必要な物があれば店員に言ってくれ 代金は兄貴 いや国王持ちだから 遠慮は要らねえぞ」

「「おお!!いいんですか?」」驚きながらも 気に入った物を店員に持っていく

それとは別にタオルを二枚づつ持たせる

風呂に案内するのに男性達の世話役としてトワを呼んでいる さすがのマオでも男性達と風呂に入る気はない トワは吸血鬼だが特異体質で昼間でも活動出来るので 度々 助っ人を頼んでいる


魔女の森の時と同じく風呂の入り方を話していると

「ふふ 懐かしいですわね」湯舟の奥の方から 声が聞こえた

マオが見ると魔女の森の風呂好きのマイナが目を細めてこちらを見ていた

「す すいません 私達が人間様と一緒の場にいるなんて!!」

黒猫獣人達は慌てて風呂から出て行こうとする 

「あら ごめんなさい そんな意味じゃないのよ!! 私達もこの国に来て最初にマオにお風呂の入り方を教えてもらって それが懐かしくて 貴女達を忌避する者は この国には居ないから安心して!! 私も魔女って呼ばれて迫害されてたけど この国では 誰もが自由だし 最高の国よ さあ 一緒にお風呂を楽しみましょう」

マイナも慌てて言うと マオが「そうだぜ 俺だって黒猫獣人だけど 誰も差別なんてしないし みんなと仲良くしてるぞ それに国王と現女神に謁見するのに 汚れたままじゃ不敬だろ」

「そうですね」

おずおずと風呂に戻り マオに風呂の入り方を教わる


体を洗い終わって 再度 湯舟に浸かる ハオがマジマジとマオを見つめ

「マオって 本当に女の子だったんだ」と何気に呟く

「あたりめえじゃあねえか 俺は立派な淑女になって 兄貴のお嫁さんになるんだ!!」マオが少し興奮しながら言う

「そうだったね ごめん ごめん でも私達 黒猫獣人は水に入るのを本能的に嫌うのに 暖かい水が こんなに気持ちいいなんて知らなかったわ」

マズイと思ったのかハオが話題を変えてくる


お風呂を堪能した後 王宮に行きクロノス王との謁見に臨み

「改めて 皆さん よくいらっしゃいました 私達は心から歓迎します」

市場でも風呂でも皆 優しかった とくに国王の優しい言葉に黒猫獣人達は目頭を熱くする

「こんな国があるなんて!!」我慢しきれず一人が漏らした言葉に黒猫獣人達は

「「「クロノス王 万歳!!」」」

「「「我我は クロノス王に一生の忠誠を誓います」」」と吠えた


次に教会に着くとマリアートが椅子に座って待っていた

「あの方が 現女神のマリアート様だ」マオがマリアートを紹介すると

「「おお!! 女神様」」

一斉に跪き 手を組んで頭を下げる

「ああ 私達が教会でお祈り出来るなんて!!」誰かが嗚咽混じりに呟く


すっきりした顔で教会を出るとジルがマオに

「この国では 墓を作るのは どうすればいいんだ?」と聞いてきた

「墓守の親父さんに聞けば良いと思うよ 案内しようか?」

マオが先に立って歩きだした

少し歩いて 霊園に着き 墓守の親父さんを紹介すると ジルが

「墓を立てたいんだが どうすればいい?」親父さんに聞くと

「空いてる所に作ればいいさ 誰かお亡くなりになったのかい?」

「息子の墓なんだが 体は 前の村に置いてきちまったが あいつが頭に巻いていたこの布だけでも埋めてやりたいんだ」

「そうか 分かった」

そう言って空いてる区画に親父さんが案内してくれた

ジルは手で穴を掘り そこに息子が愛用していた布をうめると土饅頭を作り 膝をついて一心に祈り始めた

「なあ 体も骨も無いのに 墓を作って意味があるのか?」誰にともなくマオが言うと

「そこに 体や骨が無くとも 故人を偲び 想う心があれば それは立派な墓になる」いつのまにか横にいたマリアートが言う

それを聞いて 他の黒猫獣人達も手で土を掘り始めた

ハオとハルは父が旦那が愛用していたステッキを埋め 涙を流しながら祈り始めた


それを見ながらマオは何事かを考えいる


夜 クロノスのベッドにいつものように シャルロット りリエル マオの三人がゴロゴロしてクロノスが来るのを待っていた


マオが突然「俺 母ちゃんの墓を作ってやりたい」と言い出し 他の二人を見て

「一度 生まれた家に帰ってみようと思う」と宣言すると

「私も弟妹の骨だけでも 供養してあげたいわ」シャルロットが攫われた時に 置いてきた弟妹の事を想う

「私もあの後 村がどうなっているか知りたい」りリエルもそう言いだした

三人で相談している所へクロノスが寝室に入ってきた

「「「(お兄ちゃん 兄貴 にぃに) 相談があるんだけど」」」

三人に一度に言われて 戸惑うクロノス

「一度 故郷に戻って 今の様子を見たいの」シャルロットが代表してクロノスにお願いする

「そうか 分かった いいんじゃないかな? ひとつ頼みがある トワも一緒に連れてってくれないか? 彼も国の外に出てみたいって言ってたから」

「「「分かりました ありがとうございます」」」

次の日 クロノスと出会った洞窟まで転移してみて様子を観る事にした

当時は無我夢中で逃げていたので三人の家や村のある場所が特定出来ないからだ

洞窟から逃げ出した馬車のあった所まで一日かけて辿り着いた そこは森の中のポッカリと開けた土地だった 今でも使われているらしく 新しい焚火の跡があった

反対の道を辿れば三人の攫われた場所も分かるかも知れない

誰がどの順番で攫われたのか思い出せず 取り合えず道を辿って行って 何か思い出さないか 試してみる事にし 三人は歩き続けた トワは蝙蝠の姿になって空から何かないか探してくれている


行っても何も無いのはわかっているが

今 自分が幸せである事を報せたい その想いが足を運ばせている

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