第9話嘆きの大地
果樹園で収穫をしていると 毎度のごとくマリアが走って来る
「クロノス!! 大変よ この前の貴族がまた来たの」
門の前まで行くと全身鎧ではなく 豪華な貴族服を着た男がイライラしながら待っていた
「何度来られても お前らに渡す作物は無いぞ」クロノスが叫ぶと
「ここの土地は王家がトワ・セルディユスに下賜したものだそうだな そして奴はもう死んでいる ということは お前らはここを不法に占拠しているに過ぎない さっさと出ていけ」
「確かに 爺ちゃんは死んだが俺が引き継いだ土地だ お前にどうこう言われる筋合いは無い」
「残念だが 王国法律では それは認められない ひと月の猶予をやるから それまでに明け渡せ これは国王命令である」
言うだけ言うと貴族は帰って行った
(さて どうしたもんかな)
マリアートに相談すると
「別の場所に引越ばいいではないか」と軽く返された
「別の場所って言ってもなあ」
「そうじゃ 嘆きの大地とかどうじゃ?」
この国から北の森を抜けた所に草一本生えていない不毛の土地がある
言い伝えでは 昔 英雄が戦争を嘆いて 怒りのままに剣を大地に突き刺し辺り一面を不毛の土地にしてしまったらしい
「そんな所に行っても作物も育たないんじゃないか?」
俺が答えると
「一度 現場に行ってみるかのう」
マリアートと共に嘆きの大地に行くと土地の真ん中ほどに剣が刺さっていた
この剣を抜けば土地が復活すると言われており 幾つものの国や剣士が挑んだらしい
が誰一人抜けなかった なので ここはどこの領地でも無い
剣の傍には古びた石板があり「ここに我が愛と共に眠る」と書かれている
「この剣を抜けばいいのか」
訝し気に剣に手をかける
「うおりゃー」全力で抜こうとするがビクともしない
「どれ 手伝ってやるか」
マリアートが手を添えた瞬間頭の中に色々なイメージが流れて来た
そして剣は抜けた
剣を中心に緑が広がっていき 豊穣な大地が蘇った
流れている川の水は黒く濁っており 飲めそうに無い
川の源流を見に行くと黒い瘴気が渦巻いていた
「ここは 私がやろう」
マリアートが手をかざすと瘴気は霧散し綺麗な水が湧き出した
取り合えず半径50キロぐらいで結界を張っておく
孤児院に帰り 引っ越す事に関して教会関係者に訪ねて回る
最初にブラウさん 彼女は子供達が居る所ならば問題無いとの事でついて来るそうだ
次に孤児院で読み書き 計算 礼儀を教えてくれてるマーサさん
旦那さんは果樹園等の世話をしてくれているリッキーさん
二人は通いで来てくれているので 引っ越すなら孤児院に住むなり
家を建てなくてはならない
二人に話すと最初は孤児院に寝泊まりして 後日家を建てる事にしたようだ
最後に炊き出しの度に手伝いに来てくれているベスに話すと間髪入れずに「一緒に行きます」と力強く答えた
良く知らなかったがベスは宰相の7女で この前来た貴族に入れ知恵したのは父親
だそうだ 「そんな 腹黒い父親の道具として嫁入りする道しか無いならマリアート様のお側で祈りを捧げながら生きたいと思います」キッパリと言い切った
外街の連中とギルドにも引っ越す事を話し 後日来てくれる者がいるなら来て欲しいと頼んだ
「さて 行くか」
俺は教会の前で手を地面に付き結界内の建物や畑を囲むようにイメージして
「転移」と唱え
無事 建物も畑も嘆きの大地に転移出来たようだ
ブランさんやマーサさん達は目を丸くしてびっくりしている
子供達は喜んで草原を走り回っている
ちよっと高くなっている場所に孤児院と教会を移し 麦畑の開墾場所を決め その他の畑や果樹園の区画も決めていく
皆で開墾作業や井戸掘りなどしてひと月が経った頃 外街の人々がやって来た
何でも 俺たちが出て行った後 あの貴族がやって来て開墾する前の状態に戻った荒地になっているのを見て地団駄を踏んでいたらしい
それに東門の方から大型のモンスターが襲来し 王都内まで入って暴れまわったそうだ
ここは もうダメだと思い皆で移住してきたとエドが説明した
住宅用の区画に家を建ててもらい 農業をやってもらう事にした
人も増えたので作業が捗る
冬が来る前に住人の家が完成した もちろんマーサさん夫妻の家も
前の所から転移させた麦畑や果樹園 その他の作物も無事収穫出来たから冬も余裕で越せる
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