偽善者の罪

@keigo0129

偽善者の罪

部屋の片隅、私は日差しが最も当たるところでいつも彼を見ている。彼の端正な顔立ちと鍛えぬかれた肉体を見るたびに枝葉が疼く。彼の漏らした二酸化炭素をもっと欲しいと欲情する。私は動くことが出来そうにもない。それがとても嘆かわしいと常に感じている。彼は時折、私たちの部屋に女を連れてくる。容姿端麗な彼は、外でもきっとみんなの注目の的となっていることだろう。彼は女の裸体を見ても、食いつくようなことはしない。いつもバーボンソーダを口に含んで、自身を酔わせてから、とても冷静そして紳士的に女を抱くのだ。そして、行為が終わると疲れた素振りも見せずに月明かりに照らされながら、煙草を吸う。そのときの彼の横顔は実に官能的である。私たちのとしては少々物足りなさを感じてしまうが、それでも毎度抱かれる女には激しく嫉妬を覚えてしまう。私も願いが叶うなら、一度彼に抱かれて近付いてみたいものだ。そんなもどかしい気持ちを抱えながらも充実した日々を送っていた。ある新月の夜、男が誰かを部屋に招いた。つい先日、女を抱いたばかりなのにと不思議に思っていると、その人物は男性であった。友人が職場の知り合いなのだろうたぼんやりと眺めていた。しかし、徐々に違和感を覚えた。二人の距離は恋人のように近いし、スキンシップも激しい。なにより、彼の顔がふにゃけた乙女のような面ななっている。昨日までの顔つきが嘘のようだ。そして、ついに互いに服を脱ぎ、彼は見知らぬ男に抱かれてしまった。彼はいつもよりも興奮しているようで息づかいまでもが鮮明に聞こえる。私は予期せぬ出来事に絶句した。彼は同性愛者だったのだ。この事実を飲み込みながら、行為を見ている内に吐き気を催すかのような嫌悪感に襲われた。何故、このような気持ちになるのか。私は彼を愛している。その現象は偽りではなかったはずだ。私が求めていたものの一部は目前にあるではないか。彼の行為の相手が男性であるからか?いや、そんなちんけな愛ではない!なのに何故、逃げ出そうとするのか。目を逸らそうとするのか。枝葉を懸命に動かし、鉢を動かそうと努力するのか。いや、私は彼をあいしているばずだ!彼の普段見せない表情を目に焼き付けるべきだ。あぁ、無理だ。私には耐えられない。私の愛ははりぼてだったのか。私は偽善者だ。自分自身に失望するよ。もう目を逸らそう。外を見よう。ベンジャミンである私は空を見た。いつもの月明かりはなかった。振り返ると私は初めて彼と目があったような気がした。

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