1-8.ようこそ、水の国
魔王は私以外に4体。アンに契約を結ばせているのは
頭の中で情報を整理しながら、細い通りを抜ける。すると円形の広場に出た。
大きな噴水を中心に、放射状に道が広がっている。
白い家々とレンガで舗装された道路。オサレな街灯。どこもかしこも石でかっちりしていた王都と比べても、とても良い雰囲気だ。
魔物達は城に集中していたようで、荒らされていたり破壊されているような箇所は見受けられなかった。
「ここが中心街?」
「そう、この広場からあっちの
「いやいや。観光に来たわけじゃないし」
観光って。確かに綺麗な街だけど、そんなこと気にしなくて良いのに。
「ご飯とか、食べなくても大丈夫?」
声の調子はいつも通りだけど、この台詞。
アンは明らかに気をつかってくれている。不思議だ。私にとって彼女は恩人なのに。彼女が来てくれなければサイクロプスとかいうえたいの知れない魔物のご厄介になっていただろう。
「お腹は特に空いてないかな」
食パンだの水だの最近は本当にろくな物を食べていないけど、何の問題もなく生きてるしね。……いや、あれは実際10年前の話になるのか。
まあ、急を要するのに食事するのは矛盾してるし。
「角は隠したし、服も処分した。マキナがついてくる必要は、ないんだけど」
「またそんなことを言って……大丈夫だから、行こうよ」
それきり、アンも無言で歩き出した。後をついて、託宣院通りとやらに入っていく。
白い民家が一直線に建ち並ぶ通りに入っていくと、周りにぽつぽつと人が増え始めた。魔物の襲撃はひとまず収まったらしい。
紫髪のエルフと白ワンピース&麦わら帽子の金髪女という目立ち目立ちコンビを人々は珍しそうに見ながらも、すぐにすれ違って広場の方へ歩いて行く。
「結構さっぱりした人達だね……」
「魔物が去ったから、お昼の礼拝に行くんだよ。クルセイドの国民は殆どが
「へえ……」
あ、思い出した。クルセイドって、少しだけ魔法学院の授業で聞いたことがあった。創聖教の総本山がある都市だ。
創聖教は創造神を崇める王国最大の宗教。まあ、その創造神が私を転生させた女神様なのだけど。
そんな都市が、10年後は独立して王を立てているのかあ……
しかも、聖十字軍とかいう戦力まで構えて。
「え、じゃあ私達も礼拝に行かないと怪しまれるんじゃ……」
「大丈夫。この国ではエルフの立場が上。疑問に思われても、何か言われることはない」
授業ではそういう話は聞かなかったな。やっぱり、国になってから何かあったのかな?
「へえ、すごいね」
「……そうかな。私はあまり良いとは思わない」
またアンは黙ってしまった。下ならともかく、上ならいいと私は思うけどな……
そういえば、エルフの方が立場は上なら、なんでアンは厄介な契約を結んでるんだ?しかも、賢者なのに。でも、それを聞く勇気はなかった。
通りの奥で曲がると、託宣院についた。名前からして、あの女神様からお告げをもらう場所だろう。
地面が丸くくりぬかれ、池となっている。
その上に、純白のドーム型の建物が建っている。
下は何本かの柱に支えられているだけで、今にも水没しそうな危うさがあった。
「なんか、こういったらアレだけど、変な造りだね」
「下の池は魔力で清めた水で満たされている。それを毎日入れ換えて、創造神に捧げているんだって」
小さな橋を渡って託宣院の中に入る。中は静かで、ステンドグラスなどの装飾はあるものの、中央の祭壇以外ほとんどがらんどうだ。
私が属性のお告げを受けた村の教会よりずっと大きく、冷たい印象を受ける。
「この奥。ついてきて」
そう言うやいなや、アンはいきなり駆けだした。奥のほうの扉を開け、中に入っていく。
「ちょ、はやすぎ……」
急いで後を追いかける。
『マキナ。お告げぶりですね』
耳を通り抜ける、聞き覚えのある透き通った声に、足が止まった。
「え、その声は女神様!なんでここに?」
私を転生させた女神様だ。姿は見えず、めちゃくちゃ綺麗な声だけが聞こえてくる。
『ここが託宣院だからですが……よっと』
いきなりぴかっと辺りが輝いて、いつの間にか真っ白の空間にいた。
「あの、これから用事があるんですけど……」
『大丈夫です。ここは現実の時間とは異なっていますから。簡単に言えば⚪︎神と時の部屋です』
「それならまあ、いいですけど……何か用ですか?」
『ええ、我々のような神性存在は、本来このような干渉をするべきではないし、大事な転生作業を全て私に押しつけた前代未聞の怠け者に言う義理もないのですが。それでも、これは忠告しておくべきだと思いまして』
「そんなもったいぶらずに早く言ってくださいよ」
『では……マキナ、今すぐその街を出なさい。手遅れになる前に』
え?
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