1-3.あーあ!言っちゃったよ!もう知らん!
首輪が外れた。魔法が使える。
それだけで私の希望はむくむくと湧いてきた。
鉄球はまだ足に括り付けられているけど、魔法が使えるから簡単に壊せる。
ただ、こんなに狭い場所で
とにかく、この陰気な場所から早く脱出する。色々を考えるのは、その後でいい。
上から聞こえてくる戦闘音についても……めんどうなので考えないことにする。
それに一応、これが全部夢である可能性は捨ててない。リアルすぎるけど。本当に夢であって欲しい。
さて、どれくらい歩いたっけ。ひたすら地面を見続けて、もう10分は歩いたかもしれない。今顔をあげれば、流石に出口の扉が見えるはず。
「暗っ」
通路の先は相変わらず真っ暗だった。
……うん、やっぱり、鉄球を外そう。
【壊す者】の威力で勢い余って壁を壊すのが不安だったけど、鉄球の重さがうっとおしい。
巨大な銀色のハンマーとそれを掴む大きな腕のイメージを、魔力で実体化させる。
「【壊す者、よろしく】」
出現したハンマーは黒い鉄球に激突。容易く鉄球を粉々にした。
その衝撃で壁が派手に吹きとんだ。
「あちゃー……やばいか、これ」
片側の壁にかなりでかい穴が開いてしまった。これは、騒ぎになるぞ……
「う、うわあああああ!!!????」
とか思ってたら、突然大きな悲鳴が通路に響き渡った。すぐに通路がぼやけて、煙のように消えていく。
気付けば私は、今までの通路よりずっと広い空間にいた。さっきまでの一本道と違って、周りにはカラッポの牢屋がずらりと並んでいる。
「あ、そ、そんな……!?」
出口らしい大きな扉を背にして、神官服を着た少年が立っていた。さっきの悲鳴と同じ声だ。その足はがくがくと震え、顔は青くなっている。
10年前の私と同じくらいの背丈だった。今の私は少年を見下ろせるほど背が伸びている。
「い、命だけは……」
すごい怯えようだ。ホントに私が何をしたって言うんだ。
どうしよう。とにかく、話がしたい。
「なるほど、あなたの仕業だったんだ」
わかんないけど、とりあえずカマをかけてみる。なんかそう、年上の余裕的な。
「え、ええと……【
すると少年は素早く杖を向け、魔法を放ってきた。ほぼゼロ距離。これは終わったかもしれない。
「うわっ、眩しっ……」
眩しかった。失明するほどではなく、眼がチカチカする。それだけだった。
「……すいませんでしたあ!」
少年は勢いよく土下座を決めた。聖光(笑)
「貴方を通路に閉じ込めたのは僕です。幻覚魔法を通路に使って……本当にごめんなさい!命は、命だけは助けてください……」
「あの、落ち着いて……」
今は情報が欲しい。なんとかして落ち着かせられないものか……
「【聖光】!」
「眩しっ!」
このくだり二回目なんだけど!?
「いたぞ!」
「逃がすな!」
扉がばああんと開け放たれ、鎧に身を包んだ男達がどたどたと入ってきた。そして一斉に槍や剣を私に向ける。兵士みたいだ。何人か杖を持った魔道士の姿も見える。
「魔王、もう逃げられないぞ!」
急に勇ましくなる少年。ははあ。上手く時間を稼がれた訳か。
兵士達の鬼気迫る表情。話し合いの余地は多分、ない。
うん、困った。
「僧侶君、賢者様はどこへ?」
男達の中からでかいヒゲを生やしたおっさんが進み出てきて、少年に話しかけた。隊長的なポジションだろうか。
「わかりません。僕に魔法の使用を指示した後、魔王を始末すると言って地下牢の方へ……あっ」
少年がわなわなと私を指さす。
「ま、まさか……!?」
どよどよとざわめく兵士達。
「あり得ない!」
「そうだ!あの、アン・シプリームだぞ!?」
「大賢者アグニの弟子が、そんな簡単に……」
あーあ、勝手に話が進んで行く。
アン・シプリーム……さっき首輪を壊してくれた、紫髪のエルフか。
賢者って言ってたからまさかとは思ってたけど。
私と同じ、師匠の弟子だったとは。かなりの大物だったみたいだ。
で、彼女は私を逃がしてくれたわけだけど、当然そのことをこの人達に言ってないと。
……じゃあ、どうしろと?
正直に言うのは、まずい。ほぼ確実に彼女の立場が危うくなる。
じゃあ、私が「倒した」って言うのは? そしたら、地下牢の向こうにアンが倒れてないと、話がおかしくなる。
えーと……
…………
「マキナ。私はあなたを信じてるから」
…………
なんだろうな。あの台詞、変に含みがあったんだよな。
転移魔法が使えるなら、私ごと逃がしてくれても良かったわけで。
あの感情のこもってない声。不思議と「めんどくさそう」に見えたし……
……もしかして、「信じてる」ってそういうことか?
もう、それでいいか。
「貴様!賢者様をどうした!?」
隊長(仮)が声を張り上げる。
「ああ、あの紫髪の女か……」
私はやけくそになりながら、冷静な感じで返してやった。ふっと笑みを浮かべながら。
「私が、殺した」
あーあ!
言っちゃったよーーーー!!!!!!!
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