『消去屋』(匙怪談 再怪 参加台本)
○一人称は読みやすい代名詞に変えていただいても問題ありません
○言い回しの調整も意図が変わらなければ問題ありません
○音楽やSEは素材サイトと投稿先サービスの規約を確認して使ってください
+++本文ここから+++
あ、いいところに。ちょっと見てくれる?この前の暑気払いの報告まとめてるんだけど変なんだよ。予約も会費も18人分であってるのに、最後の集合写真、17人しかいなくってさ。撮影は店の人に頼んだからこれで全員のはずだろ?かと言って、誰がいないって事でもないんだよな………
この辺で聞く話と関係あったりして。あ、お前知らない?「消去屋」の話。
俺が聞いたのは、サラリーマンの男の話。そいつはちょっと気性が荒くて、ずさんな性格で、余り他人からの評価の高い人じゃなかったらしい。プライドも高くて、まぁ、面倒臭い?タイプだったんだろうな。
そいつのアパートに、ある日妙なチラシが投げ込まれてたんだと。
『要らないモノ、消します』って一言と、小さく連絡先らしい電話番号が書かれてるだけのチラシ。いつもだったらそんなもの捨ててしまう男が、その時はたまたま部屋まで持ち帰ったんだ。
部屋へ入ればそこはいわゆる汚部屋。会社でも嫌なことがあってイライラしてたところに自分のズボラさを見せつけるゴミの山。いつもイライラするこの部屋を見た時にふと思い出したわけ。さっき持ってきたチラシの事。怪しさしかないけど、いざとなればこのチラシの主をやり込めてやれば気は済むと踏んで、そいつは電話をかけた。
数コール後に聞こえてきた相手の声は機械音声のようで肉声のような、不思議な声。その声音に誘導されるかのように、男は部屋のゴミを消してほしいと依頼した。
そして次の日。仕事から帰ったら…何もなくなってたんだよ。ゴミが。あり得ると思う?場所も名前も伝えてない、いつ来るとも聞いてないのに、部屋中のゴミが消えるって。
だってこれって不法侵入じゃん。それに料金も聞いてない。まだ話も詰めてないのに勝手にやられた事にクレームを言ってやろうって、そいつはまた電話をした訳。そうしたら、どれだけの依頼を受けても料金は要らないっていうし、昨日は消したいものを言われただけなので即消したが、依頼時に日時を指定すればそれに合わせるっていうから、結局そのまま引き下がったらしい。
で、結局、その人はそのあとやりたい放題でさ。
この“消去屋”は形のある物じゃなくても対処してくれるってわかって、以来、限度額まで借金をしては、“借りたっていう事実”を消させ続けた。そうすれば、自分の手元に金があり、返す必要はないってことだからね。いるよなぁ、こういう事には頭の回るやつって。
まぁ、それはともかく。働かなくても金を無尽蔵に手に入れることができる。そうなったら真面目に働くわけがない。
でもこいつは働かないどころか、最後は会社の金にまで手をかけたんだよ。しかも、最近は悪事を消す事もズボラになってて、後で後でってどんどん積み重なってって…遂に会社にバレて首を言い渡された。
会社を出た男は考えた。横領の罪を消したとしても、自分がクビになった事実は消えない。クビを取り消したとしても、この会社はもう会社として機能することは出来ないだろう。そんな会社の社員であることに何もメリットはない。何を消しても…自分の人生に穴が開くことに変わりがない。なんて面倒臭いことに…いっそ、この会社がなくなればいいのに。男は部屋で一人こうつぶやいたらしい。
そしたら、次の日、会社がなくなってたんだって。倒産したとか、そんなんじゃなくて、会社がぽっかりとなくなってるの。会社の存在が消えてるの。
その時男は不審に思った。自分は口にはしたけど、依頼はしていない。口にしただけで消してしまうなんて事があるのか。もしかして、部屋に盗聴器でも仕掛けられてて、だから呟いたことが受け付けられたのかもしれない。そう思って男は急いで痕跡の消えた会社から家に取って返した。そして部屋中を探し回っていると、タイミング悪く客が来たんだ。出てみたら、最近すっかり距離を取っていた恋人。まだ部屋の中は調べ終わっていないところへの来客だ。迂闊な事を言ってヘマをやらかすわけにはいかないってことで、男は女を追い返そうとする。だけど相手としては折角来たのにと問答になる。しばらくの口論の後、遂に男は言ってしまうんだ-今すぐ俺の前から消えろ、って。
そうしたら、本当に目の前から女が消えたんだって。それが、闇に引きずられるとか、得体の知れない生き物がでてくるとか、そんなんじゃなくて、画像編集で要らないものを消すみたいに、スッと。
“目の前で”“人が”“消えた”事で遂に怖くなっちゃって、男は引きこもりを始めた。とは言え、腹は空くじゃん。生きてたら。それで買い物に出た時に思いついたんだ-自分がいなくなればいいんじゃないか、って。
「そうだよ、俺を消せばいいんだよな」
正に名案っていう風に、男はそう口にしたそうだ。
え?そいつがどうなったかって?そりゃ知らないよ。聞いた話なんだから。ただ、暫く経ってから、借主がわからないけど人が住んでいた形跡のある空き部屋が近くのアパートで見つかったっていうから、その“消去屋”に処分されたのかもなぁ。
って、それはいいんだって。この写真に写ってないメンバー、お前わかるんだろ?誰?―――え?そんな奴、いたか?覚えないなぁ…ってお前なにニヤついてんの?-そんな風になるのか?って、お前何か知ってんのか!?
………まさか………?
-FIN-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます