第3話(1)

 そのメールに気が付いたのは、昼休みのときだった。


 僕は今日発売の漫画の在庫を確認するために、お店の公式サイトにアクセスしていた。


 買えそうでよかった。


 そう安堵したのもの束の間、一通のメールが届いていることに気が付いた。

 なんの疑いもなく、メールを開く。







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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎わたしはだれでしょう










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 また、例のイタズラメールだった。


 バカバカしい。こんなイタズラに付き合ってられるほど、暇じゃないんだよ。

 メールを閉じ、寝たフリを開始した。













 放課後、本屋でお目当ての本を探しながら、面白そうな本を吟味する。

 この本屋は家からは少し遠い。こういった機会でもなければ、なかなか訪れないから、本の調査はぬからない。




 結局、お目当ての本とほか数冊を買い、家路に着く。すっかり遅くなり、月の光が帰り道を照らす。

 今日の夕飯はなんだろうか。肉が食べたいな。




「ただいま」

「あら、おかえり。早かったわね」

「ああ、今日の夕飯はなに?」


 すると、母は怪訝そうな顔をした。


「なに言ってるの?あんた、今日夕飯はいらないって連絡してきたじゃない」


 なにを言っているんだこの人は。


「いや、そんなの送った覚えないけど」

「嘘おっしゃい。…………ほら、送ってるじゃない」


 そう言って、スマホの画面を見せてくる。


 たしかに、夕飯はいらない。という連絡を送っていた。

 しかし、本当に送ったか?いや、送ってあるから送っているのか。


「…………食べるものある?」

「なにもないわよ。なにか食べるなら自分で買ってきなさい」

「………そうする」

 そう言い、コンビニへと向かうことにした。







 家を出てから少したったときだった。

 ポケットに入れていたスマホが震える。

 画面を確認すると、メールが届いていた。




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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎ごはんたべられなくてざんねんでしたね。わたしをむししたぺなるてぃですよ。むししないでくださいね。











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 なんでこいつは、僕が夕飯を食べられなかったのを知っているんだ。






 さっきまでやかましく鳴いていたセミが、一斉に黙り、季節外れの涼しい風が通り過ぎる。




 恐る恐る返信してみる。





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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎答えろ


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎なんでそれを知ってるんだ、お前はだれなんだ答えろ。ペナルティってなんのことだ。









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 待っていたかのように、返信がくる。




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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎わたしはあなたのことはなんでもしっています。これにこりたらもうむししないでくださいね。つぎはこんなものじゃすみませんよ。はやくわたしはだれなのかあててください。










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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎分かるわけないだろ


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎何者なんだよ、僕になにか因縁でもあるのか?だとしてもお前のことなんて知らないし、知りたくもないね。










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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎そうですか。ではこのもんだいはあとまわしにします。つぎのもんだいです。



 あなたは、しょうがくせいのころのしゃしんやあるばむをもっていますか。








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 なにを言っているんだこいつは。


 僕の家族はけっこう頻繁に写真を撮る。

 父が昔から写真を撮るのが好きで、母も喜んで撮っていた記憶がある。


 なぜこいつはこんなことを知りたがるんだ?



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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎それがどうした


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎あるに決まっているだろ。そんなことを聞いてお前になんの意味がある。










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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎ほんとうにあるでしょうか。かくにんすることをおすすめします。こたえあわせはじかいに。








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  ︎︎(題名) ︎︎ ︎︎おい


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  ︎︎(本文) ︎︎ ︎︎どういうことだ。こっちの質問にも答えろ。










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 それから、返信が来ることはなかった。


 一体なにがしたいんだあいつは。

 …………帰ったら調べてみるか。





 僕は、素早くコンビニでカップ麺を買って、家を目指した。

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