第2話
「ただいま……」
家に帰るとリビングで母が夜酒を堪能していた。
「どこ行ってたのって、その傷。どうしたの?」
「………猫と喧嘩してきた」
「………はあー。ちゃんと治療しときなさいよ」
「分かってるよ」
「明日学校でしょ?早く寝なさい」
「そうする。おやすみ」
「おやすみ。………ちひろ」
「なに?母さん」
「『 目には目を歯には歯を 』よ」
「……俺は平和主義者だから」
結局、暑さとセミのダブルコンボで、寝つきは最悪だった。
微睡みから覚めるまでは時間を要した。
やっとの思いでベッドから抜け出す。
リビングには俺の分の朝食が残されている。
「そろそろ
「あー、来なくてもいいのに」
「馬鹿ね。幼なじみは大事にしなさいよ、あんないい子なかなかいないわよ」
「…………ごちそうさま」
歯を磨き、顔を洗い、髪の毛を整え、制服に着替える。
作ってもらった弁当と勉強道具を準備する。
「いってきます」
「気をつけなさいよ」
玄関を開けると幼なじみの
「遅い。遅刻するわよ」
「……別に待ってなんて頼んでないだろ……」
「おばさんに頼まれてるのよ。……あんた無愛想で友だち居ないから。って」
と、自慢の綺麗な髪の毛をクルクルしながら答える。
「余計なお世話を………」
「つべこべ言ってないで早く行くわよ」
「はいはい」
十数分で学校には到着した。
その間、別に会話があったりする訳でもなく、各々イヤホンを通じ、音楽を聴いて登校するのが僕らの日常だ。
「あ、なひろー!おはよーう」
「まやちゃん、おはよう」
彼女は友だちに向かって走っていく。
学校での彼女は人気者だ。僕とは月とすっぽんだ。僕は1人でソサクサと教室に向かう。
教室では、読書か寝たフリをして時間を潰す。
約3万6000秒。ぼっちには短い時間だ。
特になにも起きることはなく、3万6000秒が過ぎる。今日はヤンキーに因縁付けられなかっただけ、幸運だ。
どの学校にも尖ったやつはいるものだ。目つきが悪いってだけで、イチャモン付けられるんだから、たまったもんじゃない。目つきが悪いってのはいい事なしだ。
「ただいま」
返事がない。買い物にでも出かけたんだろう。
今日の夕飯はなんだろうか。傷に染みないものがいいな。
弁当箱を洗い、部屋着に着替え、自室に戻る。
特にすることがない日は、ダラダラと漫画でも読んで過ごすのが、僕の日常だ。
そのまま寝落ちするまでがお決まりだ。
「「ご飯できたわよー」」
母の呼び声で目を覚ます。
「……いまいく」
夕飯は家族全員で食べるのが暗黙の了解だ。
とはいえ、別に会話がある訳でもない。
この家族は、母親以外無口なのだ。
「ごちそうさま」
食後は部屋に戻り、寝る準備を整える。
今日は宿題を出されてないから楽だ。
ベットに転ぶと、さっき寝たばっかなのに睡魔が襲ってくる。
このパターン化された日常の崩壊を、心のどこかで望んでいたのかもしれない。
夢の中の僕は、メールが届いていることなど、知る由もない。
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