第1章 あなたはだれ?
第1話
夏の大三角すらも、僕を見下ろす。
背中のアスファルトがやけに冷たい。
服についた汚れを払い落としながら、渋々立ち上がる。すると、身体の節々が痛む。
ズボンのポケットを叩くと、案の定、財布がない。しかし、スマホが残っているだけ御の字だ。
こんな時間にコンビニに行こうとしたのが運の尽きだった。
僕は生まれつきか、目つきが悪い。それに、小さい頃についた額の傷( おでこの生え際から眉毛の下まで、ざっくりと大きく切れている )も相まってか、不良やチンピラによく絡まれる。高校生にもなれば自衛の力もつくが、数には敵わない。
今日も歩いていたら突然、睨んでいる。と言いがかりをつけられた。こういう奴らは喧嘩っ早いので、乱闘になるのは目に見えていた。もちろん、1人では勝てるわけがない。気がついたら、仰向けで寝転がっていた。
暑い。
近場の公園に移動して、備え付けの水道で顔を雑に洗う。暑さに反した冷たさが今は心地いい。口の中が切れているのか、少し染みて痛い。歯がかけていないのが、不幸中の幸いだ。濡れた顔を服で雑に拭う。
そのままの足取りで、近くのベンチに座る。
財布がないから、飲むものすら買えないのが辛い。夏の夜はセミの独壇場だ。
ポケットに入っているスマホが震える。
僕のスマホには元々インストールされているアプリの他、メールと電話のアプリしか入っていない。LINEやらインスタやらは友だちの居ない僕には縁のないものだ。
だから、通知が来ることはまず無い。
スマホを開くと、一通のメールが来ていた。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎無題
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︎︎(本文) ︎︎ ︎︎ ︎︎わたしはだれでしょう
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タチの悪いイタズラメールだった。
いつもだったら無視するが、この日は財布を盗られた怒りからか、返信してやることにした。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎ ︎︎無題
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︎︎(本文) ︎︎知らねーよてか知るわけないだろ
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すると、足早で返信が来る。
よほど暇なんだな。他にやることは無いのだろうか。
しかし、そんな心配はメールを見ると消えていった。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎ ︎︎無題
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︎︎(本文) ︎︎ ︎︎あなたはわたしをしっているはずですよ。もとむら ちひろくん。
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暑さを忘れるほどの寒気を感じる。
こいつは何故、僕の名前を知っているのだ。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎お前は誰だ
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︎︎(本文) ︎︎ ︎︎何故僕の名前を知っている。お前は誰なんだ。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎無題
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︎︎(本文) ︎︎ ︎︎あなたのことはなんでもしっています。あなたのしらないこともすべて。じかいまでにはわたしがだれなのかかんがえておいてください。
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︎︎(題名) ︎︎ ︎︎質問に答えろ
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︎︎(本文) ︎︎ ︎︎お前はだれだ。なにが目的だ。
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それ以降、返信が来ることはなかった。
僕はタチの悪いイタズラだと考え、気にしないことにした。
明日は学校だから早く寝ないと。
しかし、このセミの大合唱の中寝れるだろうか。
そんな不安を抱きながら、家に急いだ。
しかし、このメールが、夏の始まりを告げていることを、僕はまだ知らない。
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